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ラマ視点



いつだったか、他の街の冒険者ギルド長に、ヴァルツロクが羨ましいと零されたことがあった。

曰く、商業ギルドや職人ギルドと良好な関係を築ける街はそう多くなく、本来連携が最も重要となる王都ですらギルド長同士の仲は最悪で、口を利かない目も合わせないどころか、すれ違うことすら不快だと互いに嫌悪しているらしい。

羨んでいたそのギルド長の街もそれと比べれば多少ましではあるものの、ほとんど他ギルドとは連携が取れず、素材の仕入れや加工も上手くいかないのだと頭を抱えていた。

ただおそらくそれはどこの街でも多少はあることで、プライドや利権、様々な思惑などが交錯し、この街のようにひと月に一度は顔を合わせて飲むなんてところは世界中探してもきっと稀だろう。そんな街に突然現れた一人の子供。


「以上が今日1日でその者から得た技術及び情報です。低級ポーションの品質向上についてはすでに冒険者ギルドより薬師に検証を依頼してあります」


ちらりとこちらを見たイフェルの言葉に軽く頷いて話を引き継ぐ。


「先ほど、件の冒険者がギルドに納品した薬草で作成したところ、これまでの2倍以上の効果を有するポーションが出来上がったと報告がありました。ただその後、シブキハヤミの特効薬の作成法も見つかったとのことなので、量産は今のところ保留としています」

「品質向上したとはいえ、それでも今日商業ギルドに納められた低級ポーションのほうが数倍質が良く、また量もありますので、薬師にはシブキハヤミの特効薬を依頼してはいかがかと」

「そうだな。職業ギルドを通して私の方から正式に依頼を出そう。ジェノーイ、至急手配を。材料費等は私のほうに請求してくれて構わない」

「はい」

「冒険者ギルドの方には、レッドドラゴンの涙を依頼したいんだが…これは一度王を通してからだろうな」


シダッオ様の言う通り、この依頼はギルド支部ではなく王より全冒険者ギルドに向けて依頼をかけるべき案件であろう。

もちろんそれはレッドドラゴンの涙が入手困難なものであることも一因だが、なによりシブキハヤミの特効薬を作れるとなれば国中の薬師がその材料を求めるはずであり、それだけの量を集めるにはうちのギルドだけでは到底不可能なことは明白だった。


「はい。ただレシピ上、一滴の涙で500人分を作成できるとのことなので、幸い冒険者ギルド(うち)にあった在庫でこの街の分は賄えそうです」

「よく持ってたな」

「前のギルド長のおかげだ。あの人の趣味がまさかこんな形で役に立つとはな」


職業ギルドへの指示を書き記したメモを廊下で控えていた者に渡し、すぐに戻ってきたジェノーイの感心したような声音に頷きながら思い浮かべたのは前冒険者ギルド長だった。

珍しいものが大好きで収集癖のあったかの人は、たとえ依頼が出ていなくとも冒険者が珍しい品を持ってくれば私財を叩いて買取っていて、その金額が相場よりやや高かったこともあり、遠方からわざわざ納品のためだけに街を訪れる冒険者や商人もいたほどだった。

その前ギルド長が急死した際、奥方が私たちには宝の持ち腐れだからとコレクター品をすべて冒険者ギルドに寄付してくださった中に、偶然レッドドラゴンの涙もあったのだ。

小瓶は多少埃を被っていたものの、そういうところだけは気を使っていた前ギルド長がきちんと密閉して保管していてくれたこともあり、効果には問題ないようだった。


「あとはこの検査キットなるものだが、これの製造は如何様になる?」

「この紙を見る限り、ブラックスパイダーの繁殖はできそうな気がするが、本当に付与スキルなんて簡単に取得できるのか?」

「実際、イルザが付与スキルを取得するところをこの目にはしましたが未だに信じられないというのが正直なところです。そもそも、イルザが取得できたのも、もともと鑑定スキルを持っていたからこそなのか、それとも付与するスキルを持ったものがいたからこそイルザが取得できたのか、もう少し検証を要するかと」

「とりあえず明日、この街にいる鑑定スキル保持者を集めてイルザ立ち合いの元、付与の取得が可能かどうか検証する予定です。その結果が、出立前に間に合えばいいのですが…」


確かにもって生まれてくるギフトとは違い、スキルは後天的に取得可能なものではある。

しかし、ほとんどのスキルはいまだに取得方法が解明されておらず、意図的に取得するということはほぼ不可能だった。

それがたとえシブキハヤミの鑑定付与という限定スキルであったとしても、もし意図的に取得できるとなればそれだけでも大発見といえるのだが、たった一日であまりに多くの技術と情報を齎されたゆえに、その価値が霞んで見えた。


「わかった。だができれば明日は夜明けと共に街をたち、一刻も早く王都へ向かいたい。すまないが報告は結果が出次第、早馬で追って知らせてくれ」

「はい」

「あとはこれらの情報の提供者だが……本当に明かさないつもりか?」


これらの情報を提示する前、つまり盗聴防止魔法が施されたこの部屋に案内されたとき、まずイフェルが口にしたのは、今から報告する情報の提供者は自分の身分や正体を公表するつもりがないということだった。

そのことをロヒシからあらかじめ聞いていた俺とは違い、怪訝そうな表情を浮かべる2人に本人の強い希望ですのでと押し切ったイフェルだが、当然これだけの情報を名も明かさず公表するなど不可能なことで。


「はい。無理に暴くようならこの国を離れると。またその場に立ち会った商業ギルド員達にも話すことができないよう呪いをかけました」

「呪い!?」

「大丈夫なのか!?」

「ええ。本人が望まぬことを話せなくなるようです。それでも無理矢理聞き出そうとする者への牽制として呪いということになっています」


そういって袖をまくったイフェルの腕に巻かれていたのは冒険者ギルドでロヒシに見せてもらったそれとは色も柄も違ってはいたが、効果は同じなのだろう。


「それで王や宰相達が納得してくださると良いが…」

「それはイフェルの腕の見せ所ですよ」

「頼んだぞ、イフェル!そして俺もその者に会いたい!!」

「今すぐは無理だ。無理に会おうとすればどういう反応をするか計り知れない。中身は自己評価が著しく低いただのお人よしだが、有している知識や情報量を考えると国はおろか、この街から離れることも防ぎたい」

「あー確かに。行動が読めない感じだもんな」


冒険者ギルドで少し陰から見ていただけだが、その実年齢よりもさらに幼い容姿も含め未だに謎だらけな彼女がこれからどう動くのかまったく分からない怖さも若干あって。

ただ、それ以上に楽しみだと思ってしまうのは、決してあの人畜無害そうな見た目だけで判断したわけではなく。


「確かに今日だけの情報でも国内だけでなく他国との取引にも有益なものばかりだからな。その辺りをお伝えし、上手く出所を探らぬよう牽制していくしかないか。というわけでイフェルさん、お願いします」

「シダッオ様も少しは考えてください」


キリっとした顔で言い切るシダッオ様に頭が痛いというように額に手を当てるイフェル。

その姿に大変だなと少しだけ同情しつつも余計な口を挟まないのは、こういったことでイフェルの右に出る者はいないとこの街の誰もが知っているからで、大勢で考えるよりイフェルが考えたほうが何百倍も良いと知っているからこそ、シダッオ様もにこにこと笑って無茶ぶりするのだろう。


「なにより私の娘の恩人だ。できるだけこの街で望むまま穏やかに過ごしていただき、いつか直接礼を申し上げたい」

「分かっています。そのためにも余計な動きをしそうな者達のリスト化と対策を急ぎ考える必要があります。王都への道中も休む暇はないですからね」

「望むところだ」


こうしてシダッオ様たちがたつ朝方近くまで話し合いは夜通し続いたのだった。




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