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貨幣価値は
鉄貨=1円 銅貨=100円 銀貨=1,000円
金貨=10,000円 白金貨=100,000円 ミスリル貨=1,000,000円
です
目が覚めたらそこは雪国だったとか、知らない天井だったとか、そんな誰もが一度はどこかで聞いたことのあるような展開のなかでも5本の指に入るほど有名な展開と言えば、そう森の中ではないだろうか。
例に漏れず私が目覚めたのもまさに森の中。
大きな木の幹に背中を預け太いむき出しの根にまたがって目覚めた私が、死役所で来ていた真っ白いワンピースのほかに唯一持っていたのは使い慣れたスマートフォン一つだった。
「とりあえず、情報収集……の前に結界かな」
山田谷さん曰く“そこそこに危険な森”であるらしいこの場において初めて使う魔法が防御というのは私が考えられる限りでは最善の一手目だった。
あ、あと半径300m以内に近づいた魔物を瞬間冷凍で氷漬けにしその中に電気を流すというドSもびっくりな罠を仕掛けておこうっと。不意に背後からなんてもう二度とごめんだし、よくある風魔法でのスプラッタはあんまり見たいものではない。
あとは回収作業をどうするかだけど…せっかくならそこも自動がいいなと思い、さっそくアプリを立ち上げて購入したのは7歳児となった私のお尻ほどの大きさのショルダーバック(中古)だった。それもおしゃれ鞄じゃなくて昭和の学生が持っていたようなシンプルなデザインのやつで、そこに自動・手動が選べる回収機能、自動解体機能、時間停止機能、容量無制限等をつけ、とりあえず回収機能を自動にセットすればあら不思議、いつの間にかバッグに魔物が収納(および解体)されていく楽ちん設定の完成である。ついでに近くにある薬草も自動収集しておくように設定しておこっと。ちなみにバッグの中身を一覧化できるアプリをスマホに創造すれば忘れっぽい私でも何が入っているか一目瞭然なのである。ドヤァ。
とりあえず安全を確保したところで今度はスマホの検索機能を開く。
「現在地はっと…」
バウェフユエル・チヴィーフォイ国・ビツベポシル地方・ツビャザキカナの森
思わず三度見した私は悪くない。というか噛まずに音読できる気がしないのでとりあえずバウェフユエルから順に検索する。
ふむ……とりあえず“バウェフユエル”は所謂この世界の名前、前世で言えば地球というところだろうか。この世界には18の国があり私が現在いるチヴィーフォイ国は国土は18国中3番目に大きくその広大な敷地の6割が森で多種多様な種族が暮らす種族差別もほとんどない国であるらしい。そんな国の中でも3本の指に入るほど魔物が多く危険な森とされているのがここツビャザキカナの森であるらしい。
「わざわざこんなところを選ぶなんてさては山田谷さんSだな」
薄々そんな気はしていたが、とりあえず“ツビャザキカナの森 現在設置した罠で倒せない魔物”と検索してもゼロ件だったので安全は確保されていると思ってもいいだろう。
現在地が分かったところで次に気になったのはこの世界に生存する種族だ。あ、とその前に私って人間なのか…?
「えーっと、ステータス 見方っと…」
ステータスオープンと叫んでみるのがテンプレだろうが、それで出なかったときに恥ずかしさを考えると検索したほうが確実だろう。そうして分かったのはやはり叫んだところで見えないという悲しいお知らせだった。
通常、自分のステータスを知るには教会で金貨1枚(日本円で1万円だって。高っか!)を払うか、鑑定のできる水晶が設置してある各種ギルドで見てもらうしかないらしいのだが後者はほとんど登録時に使用されるだけで好きな時に使用できるわけではないらしい。あとはスキルとして鑑定を持っていればレベルに応じた情報をみることも可能らしい。ちなみに鑑定はだいたい500人に1人くらいがもっているためそこまで珍しい能力ではないもののやはり持っている人は重宝されるらしくどこの国でも引く手あまたらしい。で、肝心の私のステータスだけどアプリを創るのも良いかなと思ったんだけど誰かのを見たいときにいちいちアプリを開くのも面倒なので鑑定スキルを創ることにした。もちろん相手に鑑定されたことも気づかせない超安心設定である。
さーて、私のステータスはっと。
名前 ナツ・ホヅミ
種族 人間
Lv 12
HP 50/50
MP ∞
DEX 75
LUK 48
スキル 創造魔法
属性 氷魔法、雷魔法、光魔法
ギフト 文明の利器
おお、シンプル!と思うだろう。RPG系に詳しくない私でもわかるような項目だけを見れるように設定しただけで本当はもっといろいろ見えるらしいのだけど今は割愛。鑑定とか創ったスキルをいちいち表示してたらステータス画面をスクロールしなきゃいけない羽目になりそうだし。で、調べたところどの種族でも共通しているのはHPとMPの最大値は1,000,000で、あとの項目はレベルや私が表示さえしなかった知力とか攻撃力なども全て最大値は100。大体人間の7歳児の平均体力は150ほどらしい。…どんだけ体力ないんだ私。もちろん大人の平均魔力が500もない種族なのに∞な時点で体力なんてあってないようなものなのかもしれないけれど実際数値化されるとへこまずにはいられなかった。
ちなみに属性は火、水、氷、風、土、雷、光、闇の全部で8つあるらしく、すでに取得していた3つはどうやらさきほど使った防御と罠設置時に使用したためらしい。うん、せっかくなら残りも創ろうかな。あ、でも闇だけはやめとくか。なんとなく。これ以上、中二病っぽくなってもね。
「問題はレベルだな……」
人間の成人平均は30台。7歳児なら1が普通の中、いきなり表示された12という数字はどう考えも自動拷問暗殺器という名の罠のせいだろう。私が今こうしてのんびり検索している間もいそいそと魔物を捕まえては鞄の中身を増やしている優秀な罠のおかげで順調にあがっているらしい。
「とりあえず隠せばいいよね、隠せば」
レベルの下一桁を隠して1にして魔力は∞を見えないように修正テープで隠すイメージで。あとはスキルも隠して属性は水と風のみにしよう。
ちなみに市役所で願いをかなえてもらった代償に嘘はつけないわけだけど隠すことはできるらしい。要はレベルは?って聞かれたときに1と答えられなくてもレベル表示を一桁隠すことはできるという何とも穴だらけのややこしい代償なのだ。さて次は…っと、そういえば自分の容姿を確認するのを忘れていた。
スマホで100円の顔サイズの鏡を購入していざ!とわくわくしながら見たそこには……え、ただの幼少期の自分じゃないですか、ヤダー。
普通異世界転生で幼女スタートとといえば美少女に生まれ変わるのがテンプレだろうに山田谷さんワカッテナイナ。今世も平たい顔族のままか…と若干気落ちしながら鏡のついでに服も買ってしまうことにした。
この世界でも目立たず怪しまれない前世で着ていた服に近い恰好で検索したところ前世で冬に重宝していた黒いヒートテックの長袖と、可愛らしいポンチョ。下は黒いレギンスに膝上5㎝ほどの短パンで。いや、短パンなんてほとんど穿いたことないじゃんと思いつつとりあえず購入。それに自動温度調節機能と防水機能、あとはちょっとの事では破れないような耐久性も付与して着替える。
「よしできた。あとはギルドで売るものを作ったら終わりだね」
この国には冒険者ギルド、商業ギルド、職人ギルドの3種類があって登録できない年齢の子供は別として、ほぼ8割の人たちがいずれかに属しているらしい。もちろん複数登録する事も可能で各ギルドにはそれぞれが定めたレベルがあり、上位であればあるほどそれなりの地位や権限をもつことも可能であるらしい。とはいえ一般庶民でしかない私は別に成り上がりにも興味はなく、地位向上や肩書などにはそれほど興味はない。
ただ生きていく以上、必要なもの。
それはお金だ。
いくら前世の貯金がそのまま使えるとはいえ、使い続けるだけで稼がなければいつかはなくなってしまうだろう。なにより私は決してお金が特別好きなわけではないが、お金儲けは大好きなのだ。
「アプリを起動してっと」
先ほどバッグを買ったときにも使用した買い物アプリ、“SUGKUL”は絶対パクリであろうネーミング通り注文した途端、すぐ届く便利アプリで、先ほどはいきなり手の中に現れた商品をバッグの中に届くように設定し、まず購入したのは大量の水。それも250mlの小さなペットボトルでラベルなしの1本70円ほどの品だ。それを120本セットで購入し、すぐにバッグの中に届いたそれをまず1本取り出して魔力を込めながらふるふると数回振ればあら不思議。低級ポーションの出来上がりという3秒クッキングだ。
あとは空になった際には自動的に除菌された状態で私のバッグに戻ってくるようにセットすればごみ問題も起きないし、繰り返し使えるため私の懐にも優しい自動リサイクルポーション入れとなるのだ。
ちなみに魔法で出した水を使ってみたところマジックポーションとなったので、2度目に普通のポーションを作りたいときは川の水や井戸水を使用すれば問題ないだろう。たぶん。
先ほど調べたところ、この世界には低級・中級・上級・特上級ポーションといわれる所謂HPを回復させたり、怪我や病気などを治すポーションのほかにマジックポーションがあり(これも低級~特上の4段階あるらしい)、それらを作ろうと思えば当然薬草や魔物の一部などの材料が必要となる。そのため調剤スキルを持っていて、なおかつその材料を集められる財力か能力のある者のみがポーションを作ることができるため、この世界では慢性的ポーション不足らしい。もちろんポーションだけでなく光魔法使った治療も可能ではあるが、こちらはポーションよりさらに珍しい能力ということもあって、協会など限られた場所にしかおらず、その料金も馬鹿高いもので気軽に利用できるようなものでもないらしい。だからポーションを作れる者が重宝されるのだが、その数自体は大きな街にいけば1人ないし2人はいるというそれほど珍しい能力ではないらしい。もちろんそのほとんどは作れても中級までのようだけど。さらに興味深いのはその容れ物となる容器がガラスであることだ。まあ大抵のファンタジーではそうなのだとは思うけれどペットボトルや水筒が当たり前だった日本に暮らしていた身としては7~8㎝ほどの瓶を飲みきったら捨ててしまうなんていう勿体ないシステムは受け入れがたいものだった。もっとも、そのガラスは割れてしまえばすぐに土に還るよう魔法で作られているため実際環境を破壊しているとは言えないのだがそこは気分の問題である。
その点、私が作ったポーションならペットボトルのため必要分だけ飲んだ後はふたを閉めて保管しておけるし、軽量化の魔法もちゃんとかけてあるので持ち運びも苦じゃないだろう。あとはそれでも持ち運ぶには邪魔だとかいう冒険者用にフリマとかバザーとかで売ってそうな中古で1枚10円ほどで購入したウエストポーチに収納機能をつければナイフとポーション、あとはお弁当くらいなら入るバッグの出来上がりである。ちなみに入れた物が腐らないように時間停止機能を付けたので、その辺のクレーム対策もばっちりだ。我ながら商魂たくましいな。
ちなみにふるふるする回数を変えるだけで無事、中級・上級・特上級ポーションも作ることができたが、作ってしまった上級10本と特上級10本は売りに出さずに隠しておいたほうが良いだろう。買った120本のうち70本を低級ポーション、30本を中級ポーションにして、ウエストポーチは50枚作成。これだけあればしばらくの宿代や食事代などの生活費は賄えるだろう。
「さてそろそろ森を出ますかね」
ちらっとステータスを確認したところ、すでにレベルは21まで上がっていて、バッグには順調に解体された魔物の肉や皮などがたまっていた。ちょっとこの森どんだけ魔物がいるんだよ。
「この世界で一番私が住むのに適した街は、っと」
検索したところ出てきたのはチヴィーフォイ国で8番目に大きな街、ヴァルツロク。
杉並区程の大きさと書かれていても正直ぴんと来ないが、四方をここよりはずっと魔物が少ない森に囲まれた街で、人間だけでなく獣人など多種族が暮らす街らしい。もちろん各種ギルドもちゃんとあり、それなりに栄えている街のようだ。
「じゃ、行きますか。」
いざ、街の入り口から徒歩5分くらいの周囲に誰もいない森の中へ。
え?だっていきなり門前に現れたら不審人物じゃない?