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一番最初に重湯という言葉を目にしたのは確か専門学校の授業だった。
病院食で重湯を出した時に特別食として加算できるどうかというような問題で見かけたとき、重湯ってなんやねんと思った私はその日の帰宅後、母に「じゅうゆってなに?」と尋ねた。
『なにそれ?油?』
『病院食らしいんだけど。油なんて出さなくない?』
『…………それ“おもゆ”じゃない?』
母の残念な子をみる目を今でも鮮明に覚えているが、正直それまで重病人や幼い子供が身近にいなかった私には病人食や離乳食などは無縁の食べ物で、知らなくてもしょうがないんじゃないかなと思うんだが。とりあえず学校で口にしなくてよかったと心底思ったのはいうまでもない。
さて、母曰く一般常識らしい重湯の作り方は細かく言えば色々あるが、今回は生米1に対し中級ポーション10という異世界産特製重湯を作ろうと思ったわけで。そのために購入した米とギルドで売らなかった中級ポーションをバッグから取り出した。
「これ……」
「米っていう、さっきのオーク丼の下にあった白い食べ物のもとになるものです」
「え、これが!?これならここでもたくさん育ててるけど!?」
「え?」
異世界あるあるのひとつ、米を手に入れるのに苦労する問題はスマホで買える私にはそもそも関係ないものだけど、まさかこんなに身近にあると思っておらず、なら今後は値段次第ではネットで買わずに直接買えばいいんじゃんと思いかけたのだが。
「でもこれコケコのえさだよね?」
「え!?」
確かに前世でも米はニワトリなどの餌にも使われていたが、あきらかにこの世界では餌以外の用途がない様な言い方で、しかもコケコってなに!?ニワトリ!?と次から次へと浮かぶ疑問に、どこからつっこんでいいのかわからなかった。
「ここって、孤児院で育ててるってこと?」
「うん。コケコを飼ってる人たちがえさにって欲しがるんだけど、育てるのに時間と手間がかかるわりに安い値段でしか売れないから大抵どこの街でも孤児院とかそういうところで育ててるんだ。これだよね?」
そういってキヌアくんが調理場の奥にある棚から持ってきてくれたのは確かにお米だった。あれ?でもこれって。
「これ、もち米じゃない?」
「もち米?」
重湯用に用意したお米…所謂うるち米と比べて見れば明らかに見た目の違うそれを鑑定した結果、やはり表示されたのは前世でいうもち玄米という鑑定結果だった。
「こんなことある?」
米が手に入ったと思ったらもち米でした!とか大きく言えば間違ってないけど、そうじゃない感を感じてしまうのはなぜだろう。
まあ赤飯とかならもち米で作ったほうが私は好きだし、あったらあったでうれしいのは間違いないんだけど。
「違った?」
「うーん、完全に違うわけでもないんですけど、惜しいというか似て非なるというべきか…ただこれはこれで市の時に役に立つと思います。これ、たくさんあるんですよね?」
「うん。量だけはたくさん取れるから。街で買い取ってもらえない分はいつも市に出して運が良ければ街の外から来た人が買ってくれるんだけど、いつも結局残った分は捨てちゃうんだ」
「それは勿体ない。ぜひ使いましょう」
もちつきでもやれば良い人集めになると思うんだよね。
幸いなことにうまく餅をついてくれそうなパワー系シスターには心当たりがあるし。
「さて、できました。じゃとりあえずムギさんのところに戻りましょうか」
数十枚焼いたはしまきと、キヌアさんが作ってくれたわたあめをバッグに入れる。
……魔法をかけてるから衛生的に問題ないんだけど視覚的には食べ物をそのままバッグにいれるって違和感しかないな。今度岡持ちでも用意しようと心の中で決めて、魔法で素早く煮込んだ鍋いっぱいに作った重湯を運ぼうとしたところで。
「あ、僕が持つよ」
「ありがとうございます」
魔法で軽くできるとはいえ、大きな鍋を運ぶのは面倒だなと思っていたので大変ありがたい申し出を受け入れてムギさんのもとに2人で向かう。
「どういたしまして。ところで、これ………」
「あー……見た目こんなんですけど、元気が出るんで。間違いなく身体にはいいので。特製スープみたいなものだと思ってもらえれば」
先ほどまでのわたあめやはしまきに見せた反応とは明らかに違うキヌアくんの表情にですよねーと思う。
知らない人から見たらなにこれってなるよね。
でも中級ポーションで煮たそれは鑑定した結果、無事期待した通りの効果を有していたし、間違いなく前世の病人食よりも優秀なものであるわけで。
「これで元気になってもらって、はしまきとわたあめはみんなで楽しみましょう」
「………そうだね」
そんなことできないと思っていながら、それでも否定せずに微笑んでくれたキアヌくんはやっぱり優しすぎるんじゃないかと思うんだ。




