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私が14歳だったころ、私はこんなに大人だっただろうか。

キヌアくんという私の案内役に選ばれた彼はここにいる子供たちの中でも最年長の14歳というだけあってしっかりした優しいお兄さんだった。


「それじゃここにはあと少ししかいられないんですか?」

「特に明確な決まりがあるわけじゃないんだけど15歳になったらここを出るっていうのが暗黙のルールみたいなものだから」


調理場に案内され、何でも手伝うよと申し出てくれたキヌアくんにとりあえず準備が完了するまで待機をお願いしてなんとなく世間話を振ってみた結果、この世界では大抵の種族が15歳から成人とみなされるという新たな情報をゲットした。

15歳なんて前世の私からしたらまだまだ子供だけど、エルフや龍族などの長命種だと100歳でも若造扱いだと聞いて、それはそれで大変だななんて思う。


「じゃ、ここを出た後はどうされるんですか?」

「大抵の子は冒険者として旅に出ることが多いかな。この街は周囲の森も比較的平和な分、魔物のレベルもあまり高くないから、ある程度力を身に着けたら他の街のほうが稼げるからね」


15歳で旅とか早すぎないかと思うけど考えてみたら某携帯獣のアニメ主人公なんて10歳で旅立ってるもんね。とはいえここは現実なわけで、そうまでしないと生きていけないのはやっぱり日本生まれの私としては受け入れがたい事実だった。


「それよりさっきから気になってるんだけど、それ…」

「あぁ、すみません。材料もそろったので、説明しますね」


キヌアくんと会話を続けながらも私が黙々と準備していたのは3日後に市で販売しようと思っている、わたあめと、はしまきの材料および道具購入だった。

以前、何かの番組で屋台で一番原価率の低い食べ物は何かみたいな検証が行われていたのを見たことがあるのだが、それによると1位はぶっちぎりでわたあめだったのだ。

確かに砂糖と棒と機械があれば製造可能なわたあめは材料費も安いだろう。けれどそれはあくまで前世の話で、この世界の砂糖事情をこっそり調べたところ、やはり高価で市民が気安く買えるものではないという結果に絶対原材料が何なのか言わないでおこうと決めた。けれど甘いものが気軽に食べられない世界だからこそたぶんわたあめは物珍しさもあり売れるんじゃないかと思うのだが、一番の問題はそれを作るための機械だろう。

当然だが私がわたあめを作る機械の作り方など知っているはずもなく、設計図を読み込んで理解できれば魔法で造ることも可能かもしれないが、文系の私には何年かかるやら…というレベルで、それならば既製品を買うしかない。けれど当然機械を買おうと思うと中古でも数万円はするためそれでは儲けも少なくなり原価率の低いわたあめをわざわざ選ぶ必要がなくなってしまうのだ。

そこで思いついたのが昔友達の家で見た、子ども用おもちゃのわたあめ製造機械だった。これならば数千円で買うことができるし、購入後、私の魔法で機械を大きくして強度を強化すればちゃんとした機械と同じようなものが作れるはずと安価な子供用製造機を購入した。そしてバッグから出した時点で驚いているキヌアくんに説明しないまま機械を大きくし、強度の魔法をかけた。

あとは超安価な割り箸とザラメを購入すればわたあめの材料はそろった。

そしてもう1つ販売を決めたはしまきのため中古のホットプレートを購入し材料となる小麦粉、キャベツ、卵、ソース等を買えば準備完了である。はしはわたあめと同じ割り箸を使えば問題ないしね。

ちなみに某番組では原価率の低いランキング2位はかき氷だったけど、これは暑くなってから市に出したほうがインパクトもあるだろうし、3位のベビーカステラは子供たちが上手に焼ける気がしないため却下した。


「まずこちらの機械ですが、この中央の穴にザラ…じゃなくて、これをスプーン1杯分入れてください。あとはこの木の棒を回りの穴の中でぐるぐる回してもらうと」

「!?こ、これは!?」


本来の屋台で売るような大きなサイズではなく、割った箸1本分に巻き付けただけの量しかないわたあめは前世の子供たちからすれば物足りない小さなものだろう。

けれど一度もわたあめを見たことのないキヌアくんには機械から突然糸状に固まった砂糖が出てきたことも、それを棒に巻き付けただけで雲のようなふわふわとした物体が出来上がったことも驚きのようで。ぴんっと張った耳としっぽがかわいくて和む。


「わたあめといいます。よかったら食べてみてください」


そういえば前世でやったアルバイトで虹色わたあめを製造販売するイベントがあったんだけど、スタッフさんと地方によっては、わたあめとわたがしっていうところがあるんだよねっていう話で盛り上がったことがあった。あと販売する地域や場所によっては映え狙いで購入したお客さんがそのまま食べずに写真だけ撮って捨てることもあるけど、ここはみんな完食してくれてうれしいなんて微笑んだスタッフさんに、そんなことするやつは勿体ないお化けに呪われればいいですよねなんて返して微妙な顔をされたのもいい思い出である。


「これ食べられるの……?」

「はい。このままかぶりついてもらって」


お貴族様とかだと手でちぎりながら食べるのかもしれないけど、そうするとどうしても手が汚れてしまうし、この世界では誰も正確な食べ方なんて知らないんだからそういうものだと刷り込んでしまえばみんな違和感なくそのままかじってくれるんじゃないかと思うんだよね。


「!!……あまい」

「これ、1本を銅貨1枚で売ろうと思うんですけど売れると思いますか?」

「1枚!?そんな安いの!?」


日本円にして100円だから確かに安めの値段設定だし、本当は銅貨3枚くらいがいいかなって思うんだけど売るのが子供たちである以上、計算のしやすさを考えると1枚のほうが楽だと思うんだよね。


「みたことない食べ物だけど、ふわふわだし、こんな甘くておいしいもの食べたことないよ!もっと高くても売れると思う」

「たぶん買ってくれるのは子供が中心になると思うんですよね。そうなるとあまり高くするべきではないかと」

「そうかもしれないけど……でも大人も買うんじゃないかな?」

「まぁ確かに大人でも甘いもの好きっていますしね。じゃ、銅貨2枚にしましょう」


2枚ならそこまで計算も難しくないよね?


「えぇ!?もっと高くてもいいと思うよ!?」

「うーんでもこっちは銅貨5枚と高めに設定するつもりなので…はい、これも味見してみてください」


そういってキヌアくんに差し出したのはホットプレートで作ったはしまきで。ソースのいい匂いに私も食べたくなってきたなとキヌアくんに手渡した後、もう1枚追加で焼き始める。


「これはなんていう食べ物?」

「はしまきです。できたてで熱いので気を付けて食べてくださいね」


ちなみにホットプレートも魔法で大きくしたので6枚ほど同時に作ることが可能だが、大きくしたゆえに私では持ち運びづらくなってしまった。

うーん、まあそれはキヌアくんムギさんを頼るしかないかな。

あと電源はもちろんわたあめもホットプレートもコードを消して魔石を埋め込み済みだし、作る子がやけどしたり怪我したりしないよう、鉄板や砂糖をいれる部分には直接触れないように魔法処理済みである。


「!!」


さきほどと同じように一口目で目を見開いて、けれど今度は感想を口にすることなく黙々と食べるキヌアさんはどうやら甘いものよりソース味のほうがお好みであったらしい。


「すごく美味しいよ!これ!!」

「ありがとうございます。銅貨5枚と割高なんですけど売れると思いますか?」

「思う!全然高くないし、むしろ安いよ!僕なら何回も並んじゃうかも……」


お好み焼きと違って薄いはしまきは原価率も低いし、材料も今はキャベツを使ったけれどこの世界のもう少し安い似たような野菜を見つけられればもう少し利益率を上げることも可能だろう。


「これ、シスターのところにも持っていくんだよね…?みんなの分は…」

「大丈夫、用意しますよ。いまから作りますから、キヌアさんはわたあめのほうをお願いしてもいいですか?」

「もちろん!」


ぶんぶんと揺れるもふもふなしっぽに本当にここの子供たちは家族思いの子ばかりなんだなとほっこりしながら自分の分のはしまきを食べ終えてみんなの分にとりかかる。


「あ、わたあめは中央の穴に入れる量を増やせばもう少し大きく作ることも可能なので2杯分くらい入れてもらって大きく作ったのを何人かで分けてもらうのでもいいですか?」

「了解!……すごい本当にくるくるしてるだけで巻き付いてきて…魔法みたい!」


食べ放題の店とかだとお客さんが自分で作れるように、わたあめの機械がおいてあるところもあって、そこを囲む子供達のように楽しそうに割り箸を動かすキヌアくんはしっかりしているように見えてもやっぱり子供なんだなって思う。

子供は子供らしくなんて甘いことを言える世界じゃないのかもしれないけど、子供が子供らしく笑ってる国がきっと良い国なんだと思うんだよね。


「少し多めに作ってもいいかな?」

「かまいませんよ。みんなで食べればなくなるでしょうし」

「うん。……これなら、チコリー達も食べられるかもしれないから」

「チコリーさん?」


寂しそうな、それでいて辛そうなキヌアくんの小さな呟きに思わずはしまきを作る手を止めて振り返る。


「うん。12歳の女の子なんだけど、具合が悪くてもう何日も何も食べてないんだ」

「それは」

「さっき、ナツちゃんが持ってきてくれたご飯も本当にすごくすごく美味しかったし、みんなで食べたいけど…ここにはもうまともに食べられない子も何人かいて、そのなかでも今チコリーが一番状態が悪くて……でもこれならきっと、ふわふわだし口の中で溶けちゃうし食べられると思うんだ。こんなおいしいものを食べたらきっとチコリー達だってびっくりしてすぐに元気になっちゃうよ」


力なく笑うキヌアくんはたぶんそのチコリーさんの命がもうそう長くはないと悟っているのだろう。諦めたように、それでも大切な家族に少しでも美味しいものを食べてほしいと願うキヌアくんに検索さんがどうしてこの街を選んだのか分かった気がした。

この街の人たちは優しすぎるのだ。


「キヌアさん、ムギさんのところに持っていく前にもう1品作ってもいいですか?」

「え?それはもちろんかまわないけど…市で出すもの?」

「いえ。味は期待できないですけど、でも効果は保証できると思います」

「?」


だからまあ少しくらい偽善者ぶっても罰は当たらないかなんて、そう思うんだよ。





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