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イルザさん曰く、この街唯一の孤児院には現在21人の子供たちとそれを守るシスター1人の合わせて22人が暮らしているらしい。
「ずいぶん詳しいんですね」
「私がギルド職員だから正確な人数を知っているというのもありますが、なによりこの街では子供は大切にされているので、みんな少なからずこの孤児院のことは気にかけていると思います」
孤児院には現在下は1歳半から上は14歳までの子供が暮らしているのだが、その中でもギルドに登録できる7歳以上は9人いて、彼らは働いて稼いだお金のほとんどを孤児院の運営費にとあてているらしい。それでも当然そのお金だけでは賄えるはずもなく、残りは領主から年に1度支払われる予算や、街の人たちからの寄付や善意で運営されているが、それでも現実は1日1食お腹いっぱいに食べるのがやっとという状態らしい。
「ナツさんからすれば彼らのおかれている状況はかわいそうなのかもしれません。けれど」
「わかってます。上には上がいるように、下には下がいる。……ここよりもっと酷い暮らしをしている子はたくさんいるでしょうね」
この街の孤児院にいる子のほとんどは、みんな親を亡くした子だというが、ほかの街では親に捨てられた子や酷いときには奴隷として売られる寸前を助けられた者もいるという。それでも孤児院に拾われたその子たちもまだ幸せなほうで、今こうしているときも奴隷として虐げられている子や、親が奴隷ゆえに生まれた時から奴隷になることが決まっている子供がこの世界ではそれほど珍しくないのだという。
「それでもまあ、知ってしまったので」
隣の家に、お腹がすいている小さな子たちがいるとわかっていて、美味しいご飯を味わえるほど私の神経は図太くない。
「せっかく力があるんだから、たまには自分以外の誰かのために使ってもいいと思うんですよね」
私は善人ではない。
天国には行けなかったし、生きていた時も、もし天国が存在しても行けるとは思っていなかった。
そんな私があるとは思わなかったセカンドライフで少しくらい良いことをしたって、結局地獄に行くんだろうなと思う程度には私は薄情な人間だから、自分の損になることは絶対にしない。
「とりあえずシスターに先にご挨拶したいんですけど」
「それなんですけど、実は」
一口目でオーク丼の味に感動し過ぎて手を止め、二口目でこれはやっぱりみんなに分けてあげたいと丼を手に立ち上がったキビくんを、この後みんなの分も作るからとなんとか宥めて完食してもらい、食べ終わったと同時にみんなにこの後ご飯って教えてくると一足先に孤児院に戻ったキビくんは、果たしてシスターにちゃんと事情を説明してくれているだろうか。
口の端にタレをつけたままだった彼がどうかシスターに怒られていませんようにと祈りながら約束通り人数分のオークを焼きコーンスープを作った私はそれらをバッグに入れ、イルザさんの案内でお隣に向かったのだが。
イルザさんが入口の扉に手をかけたところで、開けるのを迷うような素振りを見せ、何か言いづらそうな雰囲気のイルザさんに首を傾げたそのとき。
「うわっ」
「え?」
突然扉が中から開き、中から出てきたその人は。
「あら、イルザ。ごめんなさいね」
「ムギさん!」
「どうもお嬢さん、初めまして。うちのキビがお世話になったようで」
二次元で見たことのあるような修道院服に身を包んだその人は、急に扉が開いたことでぶつかりかけたイルザさんに謝ると、私のほうを振り返りにっこりと効果音がつきそうな笑みを浮かべた。
「い、いえ!」
「キビがとても嬉しそうに色々話してくれるんだけど、喜びすぎててイマイチ話の要領が得られないの。ぜひ詳しい話を聞かせてくれるかしら?」
いやとは言えないわよね?と副音声で聞こえてきそうな笑顔はどこからどうみても私がイメージしていたシスターではなく。というかそもそも。
「よ、よろこんで」
前略、母上様。
異世界で初めてあった人族はまさかのおネエさんでした。




