7. 初めてのポーション調合
プレイ初日で、まさかのホームをゲットした俺は、現実時間の次の日に再びログインをした。
目を開けると、オリーブの葉の間から青空が見えた。ハンモックで起きるなんて、なんという清々しい目覚め!!ぐーっと伸びをして、空気を吸い込む。
そんなホームを後にして、薬屋のばあちゃんの元へ向かい、薬草を届けつつ、廃屋の報告をした。
廃屋があまりにも荒れていたので、心配になってベラさんのその後についても聞いている。
事件に巻き込まれたわけではなく、孫が生まれたと連絡が入り、すぐに息子夫婦と同居することになり、すっ飛んで行った結果がアレらしい。
ベラさんは去り際に、残していく土地については、「あの崖の上に行けるなら、全部好きにしていい」と言ったとか。
小屋が半壊していたのは、魔除けの境界の効力が切れて、魔物に侵入され破壊されたのだろう。
心配して損したぜ。あのレシピ帳も遺品じゃなくて良かった。土地も残っていた品も含めて、俺が使っていいそうだ。ラッキー!
そして、なんと、ばあちゃんはバーバラさんと言って、崖の上の魔女のベラさんの妹だった。
ばあちゃん、改め、バーバラさんにはたまに薬草を卸すことを約束した。
薬屋でHPポーションとMPポーションのスクロールを買い、その他、簡単な買い物を済ませて、俺はホームとなった崖の上へと戻ってきた。
カイトとの待ち合わせまでは、まだ時間がある。
まず、さっき買ってきたばかりの鍬を取り出し、ホームの端から耕し始める。
ゲームだから疲れないし、耕すスピードも早いけど、それでもなかなか面積が広がらない。
崖の上の5分の1ほどを耕して、種まきを始める。魔除けの境界の材料と、傷薬草、魔力草の種を蒔いておいた。
水をかけるのも忘れない。地道に水袋を使ってかけていく。最初のうちは楽しかったけれど、さすがに広くなると、飽きてくるな。スプリンクラーが欲しい。
一通り水をかけ終わって、畑を見渡したら、水をかけ始めたあたりから芽が出始めていた・・・!早っ!!グリーンフィンガーの効果なのか。栽培スキル一般がこれなのか?
畑づくりがひと段落ついたところで、次は調合だ。HPポーションとMPポーションのスクロールで調合方法を習得したから、さっそく作る。今日のカイトとの探索にも使えるから一石二鳥だな。
HPポーションの原料になる傷薬草は、見かけはヨモギっぽく、色は灰色をしている。水を入れながら、すり棒で擦る。
ドロドロになったところで、鍋に移し、火にかけた。しばらく、かき混ぜているとグツグツ煮立ってきて、ポンっという効果音がする。
これで出来上がりか。グレーのドロドロとした液体。うん、食欲が失せるな。練りゴマみたいだと思って、見かけには目をつぶろう。
出来上がったHPポーションをガラス瓶に詰める。この瓶も薬屋で買い揃えたものだった。1瓶10G。ゲームなんだから、不思議パワーで瓶ごと出来上がればいいのにな。
瓶に入れたところで鑑定結果を見ると・・・
HPポーション:品質3 レア度1 HPを6%回復する。
最初だとこんなものか。やっぱり魔除けの境界は品質が高かったな。何が違うんだろう。とりあえず、飲んでみよう。
まっず!!
味があまりしないけど、唯一する味が苦味!
その上、食感がドロドロして喉越しが悪い!!
まずさを目の当たりにすると、練りゴマだという自己暗示は通用しなくて、セメントにしか見えなくなってくる…!
これはいかんな。皆、こんなの飲んでるのか?
そういえば、薬屋で子供用ポーションを買ったな。インベントリから子供用ポーションを取り出す。普通のポーションよりも、見た目がさらっとしてて、薄い灰色だ。
HPポーション:品質4 レア度1 HPを4%回復する。
ん?名称には子供用って付かないのか。そして、品質が高いのに回復率が低いな・・・。何が違うんだ?
試しに飲んでみる。うん、まずい。
けれど、子供用の方が飲めないこともない。
これは味が違うわけではなくて、薄いんだ。俺の作ったHPポーションと比べて色も薄かった。ここから導き出されるのは・・・。
もう一度、HPポーションを作り始める。傷薬草をすりつぶす工程で、水を倍入れて、インベントリからある物を取り出して混ぜた。そして、瓶に入れて出来上がったのは・・・灰色ピンクの液体!
HPポーション:品質4 レア度1 HPを4%回復する。小腹が減ったら。
やはり、薄めることで回復率が落ちている。品質が上がるのは作る回数で上がっている可能性もあがるのだろう。そして、「小腹が減ったら」という’効果と言えないような効果’が付いている。
飲んでみる。
ちょっと美味しくなった・・・!
俺がインベントリから入れたのは、空腹の足しにしようと思って森で採取したクランベリーだった。ただし、この世界ではりんご大。
クランベリーの赤とポーションの灰色が混ざって、灰色ピンクになり、クランベリーの酸味と甘みが混ざって、少し飲みやすくなった。
そこからはせっせと試行錯誤して、最終的にできたのは・・・
HPポーション:品質6 レア度1 HPを6%回復する。小腹が減ったら。
ここまで品質を上げることができた。
そして、発見だったのが、この薄めのポーションだと2本飲まないとクールタイムが発生しないことだ。
通常は1本のHPポーションを飲むとクールタイムが発生して、すぐに2本目を飲むことができない。
俺の推測では、薬草の摂取量でクールタイムに達するかどうかが変わるのだろう。要は、クールタイムは、薬草50%濃度だと2本飲むと発生し、100%濃度だと1本飲むと発生する。
そして、この薄めのHPポーション2本をすり鉢に入れてみると、こうなった。
HPポーション:品質6 レア度1 HPを12%回復する。空腹を少々回復させる。
通常の瓶のポーションが栄養ドリンクなら、このHPポーションはコーヒー缶ぐらいの量になった。
味はまだ改善の余地はあるけど、これなら飲めるぜ!
俺は及第点のHPポーションができたところでカイトとの待ち合わせに向かった。MPポーションはまた今度だな。
「・・・ちょっと、待て・・・フッ・・・!ハハハハ・・・・!!」
待ち合わせ場所でカイトに声をかけたのだが、目の前で爆笑し始めた。最初こそ、声を上げて笑っていたが、こいつは本当に爆笑すると、声が出ないからな。今、呼吸困難のように笑っている。笑い過ぎだろ・・・。
カイトとはオーネンの町の東の門で待ち合わせた。東の森で採取をするためだ。
このゲーム内で初めて会うことになったのだが、やっぱり俺の見た目に突っかかってきた。
「ハハハッ……いつから女の子になったんだよ、ルウト!いや、今はルーちゃんか!!
妖精って…ふ…ははは!」
案の定、笑いすぎて、呼吸困難だ。
おいっ!涙出すほど、笑うのをやめろー!
俺のジト目が、目に入らんかっ!!
「しかも、赤ずきんちゃん?!
設定盛りすぎにもほどがあるだろ?!
ふはははははー!!
…あ、写真とっていい?」
金髪の髪に青い目、180cmぐらいの身長。種族は人間で、イケメンだ。
こいつが嫌味なのは、髪色と目の色しかいじっていないのに、イケメンなところだ。
今も、門を通って出て行く女性プレイヤーがチラチラとこいつを見ている。アバターをいじれるから、イケメンが多いはずのゲームの世界で、どうして容姿だけで目を引けるんだ・・・。解せぬ・・・。
「うるせー、このタレ目!!誰がスクショなんか撮らせるか!それに俺は今も男だ!!」
タレ目が悪口になり得ないのは分かってる!分かってるんだけど、いま笑ってるこいつに対抗する悪口が思い浮かばない…!俺がバカなのか、こいつのスペックが高すぎなのか。
俺は、飛んできた撮影許可のウィンドウをはじき返した。人物が写る写真は、許可なしに撮れないルールなのだ。アバターだけどな。
「残念だな〜。鈴ちゃんに送ってあげようと思ったのに。」
「・・・ちょっと、待て。鈴もこのゲームやってるのか?」
「知らなかったのか?俺、フレンド交換してさ。今もログイン中だな。呼ぶ?」
「呼ぶわけねーだろ。そういえば、最近、ゲームにハマってるって言ってたな。このゲームだったのか・・・。」
鈴は俺の妹で、中学2年だ。兄妹仲は普通だと思う。それでも、こんなことを知られたら、絶対弄ばれるな・・・。うん、黙っていよう。
「その姿のインパクトに負けて、今気づいたけど、装備ぐらいなんとかならなかったのか?それ、なぜか赤いけど、初期装備だろ。
それに、武器は?攻撃魔法を取って、物理を捨てたにせよ、杖は持ってるだろ?」
「生産にお金突っ込んで、1000G切った!俺は1ランク上の装備を毎回買って毎回金策するぐらいなら、3ランク上の装備を買って長く使いたい派だ!
攻撃魔法はないけど、安心しろ。投擲とったからな。インベントリは石ころでいっぱいだぜ!」
「・・・つまり?」
「お前に寄生プレイする気マンマン!」
「よし、わかった。写真、撮らせろ!」
俺たちは無駄口を叩きながら、東門を抜けた。




