49. イベント中継 〜ジェニファー視点
今、私はWorld’s Frontierのイベントの会場にいる。イベント開始から30分が過ぎようとしていた。
『ジェニファーさん、さっきの映像がLIVEで流れて再生回数が一気に上がりましたよ〜。』
カメラマンのスズキは、雪のフィールドでカメラを回しながら、ステータス画面を開いてLIVE動画をチェックしている。ちなみに、今の話はチャットを通しているので、動画の音声には残らない。
『当たり前じゃない。下馬評ではイベント上位と言われる”赤いバーサーカー”と”魔界のエンペラー”の戦闘動画なんだから!
それにしても、ツイてるわ〜。この2つの人気クランがいるエリアに回されるなんて!』
『俺のくじ運、捨てたもんじゃないでしょう〜?』
くっ・・・!そうなのだ。この良いエリアを引き当てたのは、スズキのくじ運によるもの・・・。
そして、私のくじ運は最悪・・・。今回のカメラマンと記者のペアの組合せもくじ引きだったのに、スズキとペアになったのだ・・・。もう腐れ縁なのかしら・・・。
私達のクラン”WFタイムズ"は、3チームでイベントに登録したけれど、ポイントを取るよりも特ダネを取ることが目的なの。各エリアに2人ずつ配置して、撮影に当たっているわ。
私が今いるのは第10エリア。真ん中よりやや東寄りで、3kmほどを受け持っている。
イベントでは、許可を取らなくても撮影OKになっているわ。もちろん、常識的な範囲ではあるけれど。とにかく、情報クランとしては、良い画を撮り放題、稼ぎ時ってわけ!注目プレイヤーの戦力は良い情報になるし、イベント動画は再生数稼げるからね!今回は、面白そうな画が撮れている時はLIVE中継するようにしている。だから、気が抜けないのよね。
『あ!あのチームを映して!』
『了解!』
このエリアに有名人が多いのは嬉しいのだけど、有名プレイヤーというのは良くも悪くも濃いキャラクターが多い。さっきの”鮮血のヴァルキューレ”はずっと高笑いしながら討伐していたし、”魔界のエンペラー”の賢者にしても「俺の右手が疼く・・・!」とか言って中二病全開で魔法を打つのよ・・・。そんな感じで、今映しているチームもぶっ飛んだプレーが期待できそうね。
私が指した方向をスズキのカメラが映している。撮影対象がしっかり映ったことを確認して、アナウンスを入れた。
「あちらに見えるのは、商人クラン”ブラックトレード”ですニャン!
一時は、町中の土地の売買で有名になり、地上げ問題では悪名を轟かせミャしたが、最近は”鉱山王”として復活しつつありますニャン。」
カメラは、クランマスターの金髪碧眼エルフのエドワードとサブマスターの妖精のフェイを映し出していた。この2人は有名プレイヤーだから、再生回数が見込めそうね・・・!
「現在、イベント内では、プレイヤー同士の縄張り争いがスノーソルジャーの討伐数のカギと言われていますニャー。このブラックトレードも、そのために作戦を練っているようですニャン!」
『・・・ブラックトレードの音声をつなぎます。』
私のアナウンスの後で、エドワードとフェイの間で交わされる音声を、スズキがカメラで拾う。
早速、フェイの声が聞こえた。
「良い手があるわ!
エド、うちの最大戦力であるあなたが、切込み隊長よ!
鮮血のヴァルキューレよりも最前線に出てもらうわ。出来る?」
「最大戦力・・・!切込み隊長・・・!鮮血のヴァルキューレよりも最前線・・・!!
・・・良い言葉じゃないか!僕は、どうすればいいっ?!」
釣りのような言葉に、エドワードがまんまと乗ったところで、フェイはニヤリと笑った。
「エルフA・B、アレの出番よ!」
「「っは!」」
「おい、何をする?!」
エドワードは、エルフA・Bに抱えられて、大砲の中に入れられた。
あれは、今、第3の町スリーベリーでブラックトレードが発掘した鉱物を使って開発された大砲のようね。
フェイが自信満々に作戦内容を披露した。
「これで最前線に飛んでもらうわ!」
「へ?・・・いやいやいや!」
「大丈夫。成功確率は95%よ!」
「あとの5%は?!そもそも根拠は?!そして、俺の無事は成功に入ってるぅ?!」
「・・・はい、行ってらっしゃい!」
無情にも、フェイはエルフAに大砲を着火させた。
あっというまに爆音が響き、大砲からエドワードが飛んで行った。
「 フェイ!
お ぼ え て ろ よ ー !」
・・・完全に負け犬のセリフなんだけど。
どうなることかと思ったけど、エドワードは落下ダメージを受けることなく着地したようだ。ああ見えて、エドワードは魔法が得意。伊達にクランマスターをしていないのよ。すぐに火魔法で活躍をし始めたみたい。それにしても、他人事ながら、同情してしまう扱いだわ・・・。
『良い画、撮れましたね〜。』
スズキが良い笑顔で言った。本当に良い性格してるわね・・・。
それから、ブラックトレードの大砲が同クランの他のエルフを飛ばし続けた。その画を撮り終わったところで、騒ぎが起きた。
スズキが紫の森の方へ、すぐにカメラを向ける。
「フェンリルが出たーー!」
プレイヤーの言葉に驚いているうちに、森の中から巨大な白い狼が現れた・・・!鑑定をかけてその狼の正体を確認すると、やっぱり”フェンリル”で間違いないみたい。
うっそ!すごいモンスター出たーーー!!
これは出来るだけ、寄って撮影しないと!
私は、雪の上を走り出した。今、足につけているのは、水蜘蛛だ。忍者が水を渡る時に足につける道具ね。この間、NINJAクランを特集した時に私のファンだという忍者からもらったの。その時は、「どこで使うんだ?!」と内心ツッコミ入れたけど、まさか雪の上も歩きやすくなって、ここで役に立つなんてね!
そこへスズキからチャットが入る。
『今からこのカメラがLIVEになります〜。』
そうでしょうよ。フェンリルなんて、再生回数が稼げること間違いなし!
「たった今、紫の森からフェンリルが現れましたニャーーー!
かなりの巨体ですニャン!二階建ての建物にも相当するでしょうかニャ・・・?!
この紫の森では生産した物や芸術系のアーツを捧げると、モンスターを一時的にテイムできミャすが、フェンリルほどの大物のモンスターが出たのは初めてだと思われミャす!」
解説しながら、新たな情報を探していると、フェンリルの上に人が乗っているのを見つけた・・・!
「あれは、トップテイマーとの呼び声も高いプレイヤー”真祖ガーリック”ですニャン!
吸血鬼のネームドモンスターをテイムし、着いた称号が”真祖”でしたニャ。今日はニャんと、フェンリルのテイムに成功したもようですニャン!」
そのフェンリルが咆哮を上げると、強力な風が吹き付け、一気にスノーソルジャーを吹き飛ばす。
あの一発で100体近く飛んじゃったんじゃない?!
それだけじゃない。フェンリルは縦横無尽に駆け回り、蹴散らすことでもスノーソルジャーを倒していく。
あの巨体でこの機動力。感心していると、フェンリルが稼動範囲を広げて・・・えぇ?!こっちに来た?!
フェンリルの咆哮が風を呼び、吹き付ける・・・こちらへと・・・!
「きゃーーーーっ!!」
体が飛ぶほど、ぶっ飛ばされた・・・!
背中から何かにぶつかり、気がつくと仰向けに倒れていた。夕焼けに変わりつつある空が見えた。
『ジェニファーさん、大丈夫ですか?』
・・・う〜ん、ひどい目にあった。この声はスズキ?
ふぇっ?!
倒れているところが雪の上じゃない?!恐る恐る見たら、私の下敷きになっていたのはスズキだった・・・!慌てて起き上がる。
「だ、大丈夫。」
うそ。今、スズキの上に乗ってた、私・・・?!
頭の中は大混乱だけど、言うことは言わないと!
「し、下敷きにしてゴメン・・・!
助けてくれて、あ、ありがと・・・。」
『・・・ジェニファーさんがデレた・・・?』
「なんか言った・・・?」
『いえ〜。ゲームなんですから、実際の体重じゃないですし、大丈夫ですよ〜。』
は?いま、なんつった?こいつ。
「・・・実際の体重だったら、大丈夫じゃないとでも言うの・・・?!」
私の怒りがふつふつとこみ上げていたところへ、冷水を浴びせるようなスズキの言葉が聞こえた。
『ジェニファーさん、今、LIVE放送中〜。』
ふぁっ?!LIVE?!生?!
やばっ!私、今、ニャン語使ってなかったー!
ミスの後悔をする間も無く、また騒ぎ声が聞こえた。
今度は別の紫の森からだわ!
「フェニックスだーーー!」
プレイヤーの声とともに火の鳥が姿を現した。また鑑定すると、”フェニックス”と出た。
「今度は、紫の森からフェニックスが現れましたニャーーー!」
フェニックスは素早い動きで空を飛び、火炎放射のような炎を繰り出した。それは何十体ものスノーソルジャーを焼き払うだけじゃなく、地面の雪まで溶かしていた。
そして、チャットで入ってきた情報に驚愕する・・・!
「今、発見されたフェニックスをテイムしたプレイヤーは、”赤いバーサーカー”のメンバーだと確認されましたニャー!
これで”赤いバーサーカー”が上位に入ってくる可能性が高まりミャした・・・!」
アナウンスでは控えめに言ったけど、これは上位確定なんじゃない?タダでさえ、あのクランは戦闘力が高いのに、その上、こんな強力なモンスターまで付いてくるなんて・・・!
あぁ!赤いバーサーカーに賭けておけば良かった・・・!
このイベントに生産系能力が必要だと言われていた噂は、どうやら本当だったようね。確かにあのクラスのモンスターをテイムできたら、一発逆転もあり得る・・・!
それからは、このフェンリルとフェニックスのLIVE映像が放送のほとんどを占めることになった。
フェンリルとフェニックスに密着していた私とスズキは、ゲーム開始地点から1km近くも山の方へ来ていた。
イベントは終わりに近づいていて、残り時間もあと20分ほどだった。
あれから大きな動きもなく、消化試合のようにイベントが終わるのかと思い始めていた。
アナウンスすることも無いタイミングで、スズキが話しかけてくる。今度はチャットを通すことを忘れない。
『さっき、赤ずきんちゃん達が飛んで行ったのは、何だったんですかね〜?』
『さぁ。でも、赤ずきんちゃんだけでなく、白馬の騎士も続いてたでしょ?そこは気になるわねぇ。』
『ここから逆転もあるかもしれないですよね〜?』
『あるわけないでしょ?』
『実は僕、赤いバーサーカーとモフモフパラダイスだけじゃなく、赤ずきんちゃんのとこにも賭けたんですよね〜。』
モフモフパラダイスというのは、さっきの”真祖ガーリック”の所属するテイマーのクランだ。
『うそでしょ?!赤ずきんちゃんのとこなんて、大穴じゃない?・・・無理でしょ〜。』
『なら、賭けます?』
スズキがニヤリと笑い、目の奥が挑戦的に光る。それにイラっと来て、反射的に答えていた。
『・・・いいわよ?
それじゃあ、私が勝ったら、セキさんとのデートのために協力してもらうわよ!』
スズキは、何気にセキさんと仲が良いのだ・・・!
『良いですよ〜。俺が勝ったら、次の取材のカメラマンも俺ということで。』
むむむ・・・、それは・・・。けど、スズキが賭けているのは大穴だ。私が勝つ確率の方が圧倒的に高いわ。
『いいわ!賭けましょう!』
私が自信満々にそう言った時、爆発音が響いた・・・!なにごと?!
音がした山頂の方を見ていると、しばらくして、ゴゴゴゴと雪が滑るのが見えた。
「たった今、山頂の方からいくつもの爆発音が聞こえましたニャ。そして、雪崩が起きたもようですニャン・・・!」
呆然と雪崩を見ていると、それは何百、何千と、斜面のスノーソルジャーを飲み込んでいった。
数分もすると、プレイヤーが多くいるこのエリアにも達してしまう・・・!
『スズキ、これどうする?!』
『落ち着いてください〜。この雪崩がスノーソルジャーを討伐しているということは、もしかしたら、プレイヤーによるものかもしれませんね〜。そうなら、この雪崩を受けても、無事に済む可能性は高いですよ〜。』
『この雪崩がプレイヤーの攻撃?!』
驚いているうちに、なすすべがないまま雪崩に飲まれた・・・!
視界に真っ白い世界が広がる。
ダメージは・・・無い!
スズキの言うことが当たっていた?
・・・だとすると、あの雪崩を起こしたプレイヤーというのは・・・?!
頭を整理しきれないまま、雪の中から這い出る。
すると、再び爆破音が聞こえ、身構えた・・・!
夕焼けが終わり、夜が始まったばかりの空に打ち上げられたのは、花火だった。
それも赤いドラゴン!さっきまでの事を忘れて、花火に見とれる。
そして、二発目の花火。
そこには、文字があった。
ー 赤ずきん参上!
花火師ジェイクを夜露死苦ー
うそ・・・。私、賭けなんかしちゃって早まったかしら?
ちょっとわかりづらかったかもしれませんが、『』がクローズドのチャットで、「」がオープンな会話という感じです。
次回の50話まで更新したところで、更新を一時停止させていただきます。
ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。




