4. 初めてのクエスト
港を離れて、ミシェルと別れてからは、資金稼ぎのために、ギルドで受けたクエストへ向かう。
今のステータスで1人でできる資金稼ぎは、町中のクエストしかないと思って、ギルドの登録時に、クエストも受けていたのだ。
オレンジの屋根と白い壁の建物が続いている地区に来た。ここら辺は、商業地区みたいだな。
その一角にある食堂が目的地だ。扉の上に掲げられた看板には、’狼の晩餐’とあった。
屋内の柱は巨木で深い色の木目が老舗な雰囲気をかもし出していた。1階は50人ぐらい入りそうだ。2階もあるが、今はまだ午前。従業員と客がまばらにいるだけだ。
「おはようございます!ギルドで仕事を受けて来ました。」
俺は近くで掃除をしていた恰幅の良いおばちゃんに声をかけた。
「いらっしゃい。ギルドの助っ人の子だね。
あたしはマギー。さっそくお願いしたいから、こっちに来てくれるかい?」
マギーさんが大きなお尻を揺らして店の奥へ行くのに着いて行く。行った先は、厨房だった。
耳と尻尾から判断すると、狼と思われる獣人のおっちゃんが、厨房で包丁の刃を眺めている。筋肉質で片目に傷を負っていて、コックとは思えない迫力なんだが・・・。その横では狐の獣人の中学生ぐらいのメガネをかけた少年が、ジャガイモを洗っていた。
「あんた、ギルドから助っ人の子が来たよ。」
おばちゃんに紹介されて、コックのおっちゃんが無言でこちらをジロリと睨みつけた。
「ルーです!よろしくお願いします!」
反射的にビシっと背中を伸ばして、大声で挨拶をした。俺の直感がこのコックには体育会系で対応しろと言っている。
「・・・ギルだ・・・。」
予想を裏切らない、渋い声。
「僕はイリー。よろしく。」
少年はちらりとこちらを向いて、気の弱そうな笑顔を見せてから、すぐに自分の作業へ戻った。
これは・・・、サボりは許されんな・・・。
「ルーちゃんには、こっちの皿洗いと掃除。それから、お店が混んで来たら、料理を出すのを手伝ってもらうよ。」
マギーさんがちゃっちゃと言いつけ、簡単な説明をすると、厨房を出て行った。
そう、俺がギルドで受けたクエストは、食堂の仕事だった。
今の俺のステータスじゃ、狩りに行くのも、モンスターに出くわす採取に行くのも、難しい。
じゃあ、どうやって資金稼ぎをするか?まだ生産の道具もない今、できるのは町の手伝いぐらいなものだ。カイトだったら、「ゲームの中で皿洗い!」と笑うだろうけど。それが、そう悪くもないんだな〜。
俺は「使い魔」と言って、流しに向かって指を指した。
すると、光のエフェクトが飛び、流しのタワシが独りでに動き出し、皿を洗い始める。
もう一度、同じく「使い魔」と言って指を向けると、今度はマギーさんの置いて行ったモップが独りでに掃除を始めた。
そう、これが俺の策。実は、ギルドへ行く前に、すぐに使えそうなスキルを実験していた。使い魔の説明にはこうあった。
使い魔Lv.1 :対象に1つだけ役割を与えることができる。ただし、攻撃は不可。餌を与えないと一定時間でリリースされる。使用枠:3枠。
この「対象」というのがひっかかって、生物以外にも試してみたら、成功した!使い魔というのは単純作業しか頼めないが、生物以外にも使えたのだ!無生物だと餌を与えられないので、長時間の使用は魔法のかけ直しが必要になる。多くはないが、MPを消費する。
魔法は、指先を向けるだけで発動するように、ショートカットの設定をした。指先一つで、魔法が使えるのは楽しい!
たとえ食洗機と全自動掃除機みたいな魔法でもな・・・!
俺の使い魔を見たイリーは、口をあんぐり開けながら、仕込みの手が止まってた。ギルさんはちらりと見るだけ。マギーさんは「ルーちゃんが依頼を受けてくれて、本当に助かったわ〜!!」と大絶賛してくれた。
この使い魔でとっとと掃除と食器洗いを終えると、間も無く昼飯の時間になった。
それからは、怒涛の料理運びだ。あまりの忙しさに、バランスを取れるようにお盆に使い魔を発動して、頭の上でも料理を運べるようにした。近所の祭りで見た、巡業の雑技団みたいだな。俺を見たお客さん達は、歓声を上げて囃子立てた。
「おいおい、こんな芸当、西区の劇場でもお目にかかれないぜ!」
「お嬢ちゃん、精がでるな〜。よし!俺の全財産持ってけドロボー!200万Gだ!」
そう言って、200Gを手渡すオヤジ。昼間でお酒も入ってないのに、このテンション。どうやらこの町の人は気さくみたいだ。
忙しく動き回ってはいたが、食堂という場所柄か、お客さんの話はNPCからプレイヤーまで、いろんな話が飛び交っていた。案外、良い情報源になるかもな。
お昼の忙しい時間帯が過ぎると、まかないを食べさせてもらって一息つく。まかないは、この店自慢のマッシュポテトとソーセージだった。それに漬物のような紫のザワークラフトを付け合わせて食べる。どれも美味い!あー、ビール飲みたいぜー!
ワールド・フロンティアには、空腹というシステムがあって、ステータスには表示されないが、現実と同じような空腹感を感じる。しかも、ある程度下がると、ステータスにマイナスが付き、さらに5日ほど食べないと死に戻るらしい。そんなわけで、食べないわけにはいかないんだけど、この世界の料理は美味しいものばかりではない。このお店はギルドでも美味しいと聞いたから、選んだのだ。
実は俺がこのクエストを受けたもう1つの目的はそこにあった。攻撃魔法のほかにやりたいと思っていた事というのは、’料理’だ。
この仮想現実では、リアルの世界と同じ食材も、それ以外の食材もあり、現実以上の料理を味わえると聞いて、ぜひとも世界中の料理を自分で作ってみたいと思った。実際の自分の腕よりも上手に料理を作れて、その上、現実みたいに味わえるなら、やらない手はない!
ここに来る前に、料理スキルは取得していた。食堂のクエストも経験値になるかもしれないからな。
「マギーさん、料理を始めたいと思っているのですけど、包丁とか料理道具を買うのに良いお店ってありませんかね?」
俺は、今日半日ほど一緒に働いて、打ち解けたマギーさんに話を振った。本当はギルさんに聞くのが一番だと分かってるんだけど、ギルさんと1日で打ち解けるのは難しかった。
道具屋で料理道具の値段も確認していたが、ふと思った。これだけの完成度の世界だ。地元の人しか知らない店とかありそうじゃないか?
「ルーちゃん、料理するのかい。それは良いね。
ちょっとあんた、ルーちゃんの料理道具、イリーくんのお下がりをあげたら?ちょうど、買い替えを考えていたでしょ?」
マギーさんが俺との話の途中で、ギルさんに話を振る。
なんと!予想外の展開になった!アドリブでこの展開、AIすごすぎ!俺は期待して、ギルさんを見る。
「・・・条件がある・・・」
めっちゃ低い声で出された条件は、難関試練かと思いきや、俺には一石三鳥ぐらいの申し出だった。
ギルさんが出した条件は、3日間、昼と夜、この店を手伝うというもの。しかも、依頼料をもらえる。やったぜ!明日はカイトと約束があるので、明後日からでお願いさせてもらった。
そして、ランチタイムの助っ人の依頼料500Gをもらって、この日はお店を後にした。ちなみに、追加報酬増し増しだったv




