48. 初参加イベント(後編)
主人公視点に戻ります。
ロドリゲス達B班が紫の森から戻って来てからは、作戦会議の後、チーム全員でひたすら生産活動をしていた。
「これで、準備完了だな!」
ロドリゲスが全員の進行具合を見やって、声をかけると、皆、満足げな表情をした。
イベント開始からは2時間半が経ち、あと30分もすれば、終了だ。
フィールドに目をやれば、紫の森でプレイヤーが味方につけたモンスター達が猛威を振るっていた。オーク、サイクロプス、ワイバーンなんかは、ポイントの加点に役立っているみたいだ。
その中でも特に目立っていたのは、フェンリルとフェニックス。スノーソルジャー達を、フェンリルが蹂躙し、フェニックスが焼き尽くしていた。その戦闘力は、さっき見た鮮血のヴァルキューレのアーツや魔界のエンペラーの賢者の魔法よりも高いようだ。
やっぱり、チームの純粋な戦闘力だけで勝てるイベントじゃないんだなー。
ここからの挽回というのはなかなか厳しいものがあるが、いや、俺たちの作戦がうまく行けば、あるいは・・・?!
「よし!最初は俺から行くぞ!」
勇んで声をかけると、カイトが最終確認をする。
「順番はルー、俺、ジェイクの順番でいいな?」
「ああ、俺も準備万端だ。いつでも行ける!」
当初の作戦では、実行部隊は俺とカイトだけだったのだが、作戦詳細を聞いたジェイクがやる気になって、名乗りを上げた。
ミシェル、ロドリゲス、レン、ミントが、今完成したばかりの装備を、俺たち3人へ託す。
「それじゃあ、アタシからは、この風のマントよ!
軽量化だけじゃなく、追い風効果が付くようにしたワ☆
もちろん、防寒効果もあるのヨ!暖かくして行ってらっしゃい♪」
ミシェルから、渡されたマントを俺達3人がそれぞれ羽織った。
「時間がなくて、うさ耳は赤ずきんちゃんにしか付けられなかったの・・・。ア〜ン、残念⤵︎」
嘘だろ?!俺のだけ、リアルうさ耳(白)が付いてた・・・。時間なかったのに、1セットだけでもうさ耳を付けて寄こすなんて、ミシェル、有能すぎるだろ!褒めてないからなっ。
「俺達からは、このスノーボードだ。頼んだぜ!」
ロドリゲスのおっさんが、軽々と3つのスノーボードを渡してきた。
俺が赤、カイトが青、ジェイクが緑だった。なんだよ、格好いいじゃないか!
装着してみると、実際も軽い!スノーボードって、こんなに軽かったか?
そんな俺の心配を見越すようにレンが言う。
「軽量化はされてますけど、さっき紫の森でテイムしたトレントのスキルで強度のある木材にしましたから、安全ですよ!」
「私の着色で、さらに滑りやすくしてるからね!」
ミントもスノーボードの性能をアピールしてくる。
なるほど。レンが木材を用意して、ロドリゲスが木工で加工、ミントが着色した合作なのか。
それにしても、このボード、金属じゃなくて、木材とは・・・!
すると、今度はE2が俺の心を読んだように話す。
「このボードが木材でできてるなんて、信じられないよね〜。
ここだと鍛治が難しいし、材料の関係で木材になったんだけど、ここまで素晴らしいものになるとは!
金属で作るよりも良いものになってると思うよ・・・!」
E2の目がキラキラして、うっとりしているのを見るに、とても良い物のようだ。
「皆、短時間でここまで用意してくれて、ありがとうな!」
ひとまず、スノーボードをインベントリに仕舞った。
「それでは、ルーさんには、軽量化の魔法をかけますので、こちらへ。」
ハデス氏に促されて、店長がフワフワした綿毛モンスターを俺に向かって軽く投げた。
フワフワと頭上へ飛んで来て、白いキラキラとしたエフェクトが俺にかかる。
「うん、ステータスがちゃんと”軽量化”になったぞ。ありがと、店長!」
俺のお礼に、店長がニコリと笑ってうなづいた。
「こちらの軽量化は、”3分間”が制限時間となりますので、お気をつけください。」
ハデス氏の忠告に急かされるように歩き出すが、軽量化の効果が予想以上で、フワフワと足元がおぼつかない。
両脇からロドリゲスとE2に支えられる。
これ、連行される宇宙人みたいになっていないか・・・?いや、なってるな。カイトとジェイクが笑っている。
そして、俺は大砲のような物の中に入れられた。ちょっと狭いが、中で体育座りをするように待機する。
これは、このイベント用に今、ジェイクとE2が改造した発射台だ。元はジェイクの持っていた打ち上げ花火の発射装置だった。
イベント序盤でエルフの男が打ち上げて、飛ばされた大砲を参考にしたのだ。
「ルー、準備はいいか?」
着火担当のジェイクが興奮を抑えた声で聞いてくる。
「もちろん!
一丁、ぶちかましてくれ!」
「OK!皆も準備はいいね?」
「「「「「おう!」」」」
ジェイクが、ゴホンと仰々しい咳払いをして、カウントを始めた。
「・・・5・・・4・・・」
「「「「3・・・2・・・1・・・」」」」
“3”のカウントから全員の声が合わさるが、0のカウントはズドーンという爆音にかき消されて、聞こえなかった。
その後は、体と視界がぐるぐると回り、数秒なのか数十秒なのか、どれぐらい経ったか分からない。頭ではVRだと理解しつつも、歯を食いしばってやり過ごす。しばらくすると、回転が終わり、鳥のように空を飛んでいた。
ヒャッハーーーーーッ!俺、飛んでる!!
・・・はっ!いかん、いかん、作戦を遂行せねば!
なんとかテンションを落ち着かせて、マップと目の前の景色を見ていると、俺達が立てた作戦通り、良い位置に着地できそうだった。
大砲で飛ばされたエルフよりも、遥かに遠いエリアまで飛んでいる。
E2とジェイク作の発射台、ミシェルのマント、店長の軽量化モンスターによって、飛距離は格段に上がっているのだ。
とうとう、俺は目的地の雪原に着地した。
皆がいるところから数kmは離れている。
最後もフワリと着地できたから、飛んでた時間は”軽量化”の効果が切れる3分以内だったようだ。体感時間は、もっと長く感じたな。
予想通り、落下による被ダメージも無い。ジェイクが俺を飛ばすのが、他プレイヤーからの攻撃と判定されて、落下ダメージが無効になってるんじゃないかってカイトが言っていた。
チャットがチーム全員につながっているのを確認して、声をかける。
「こちら、ルー。
無事、目的地に着きました!どうぞ。」
チャットの向こうから、ワッと声が上がった。
俺が目的地に着地できたということは、作戦の第一関門を突破したのだ!そりゃ、歓声も上がる!
「こちら、カイト。やったな!俺も今から向かう。」
さっき俺が飛んだ段取りと同じく、カイトの準備が終わると、カウントダウンが始まった。
その後に、ジェイクも続く予定だ。ジェイクの発射は、E2がやってくれることになっている。
俺はそれまでに、やることをやらねば!
時間を見ると、イベント終了まで30分を切るところだった。
周りを見渡すと、こんなところまでスノーソルジャーが湧いている。いや、むしろ、望むところだ!
インベントリからスノーボードを取り出し、装着すると、周りのスノーソルジャーを蹴散らしながら、雪上を滑り、俺に割り当てられた仕事に取り掛かる。
あれから10分が過ぎようとしている。
スノーソルジャーを倒しつつ、ようやく、自分の仕事が完了し、同じ仕事を終えたカイトとジェイクと合流をした。
カイトがチャットでチーム全員に呼びかける。
「山側の準備は完了した。残り時間が少ないため、このまま作戦を決行する!」
ギリギリまで俺とジェイクは、近くに湧いたスノーソルジャーを排除する。
チャットから聞こえるチーム全員のカウントダウンに合わせて、俺も声を上げる。
「「「「・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0!」」」」
“0”のカウントと共に爆音が響いた。
それも一発ではない。何発もだ・・・!
爆発に巻き込まれない離れたところから、3人でそれを見ていた。
爆発は今俺達がいるところと同じ標高で、横一直線で起こっている。
もちろん、それはそう仕込んだからだ。俺とジェイクとE2が作った爆弾を、たんまり設置し、この連続爆破を引き起こした。
その爆弾の設置が、俺とカイトとジェイクの仕事だったのだ。
・・・問題はここからだ。
一連の爆発が終わったと思われたその時。
今度は、ゴゴゴゴと地鳴りのような音が響き始める。
そして、山頂の方から、地滑りのように雪が滑り落ちて来て、俺達の横を通り過ぎて行った。
爆発によって、雪崩が起きたのだ・・・!
「「「「おお!!!」」」」
本当に雪崩が起きたことに、こちら側だけでなく、チャットからも驚きの声が上がる。
俺が大砲を見て思いついたのは、飛ぶだけじゃなく、この雪崩が最終目的だったのだ。
以前、とある雪山へ観光に行った際に、人工で雪崩を起こす時期に当たってしまい、足止めを喰らったことがあった。何もすることがないから、人工雪崩について調べて暇を潰していた。それが、こんなところで役に立つとはな!
2万ポイントほどだったチームのポイントが一気に跳ね上がる!
現在進行形で雪崩は山の麓へ向かっていて、スノーソルジャーを飲み込んでいる。ポイントは上がり続けていて、どこまで伸びるか検討もつかない・・・!
ヒュ〜♪というジェイクの口笛で我に返ると、両隣のジェイクとカイトが笑っていた。
俺は、カイトには右の拳を突き出し、ジェイクには左の拳を突き出す。2人がそれに応じて、拳を当てる。
「やったな!」
「おう!」
「それじゃあ、最後の仕事に向かおう!」
ジェイクの仕切りに、カイトがいち早く反応し、スノーボードで滑り出した。
「今度は俺が一番だ!」
「させるかっ!スケートの決着、ここでつけよーぜ!」
「おいおい!
俺はスキル取得したばっかなんだから、ハンデくれよな!」
ジェイクがブーブー言ってるが、奴は俺達の中で一番ボードが上手い。誰がハンデをやるか〜!
作戦の詳細を聞いたジェイクは、実は滑走スキルを取得してまで、この実行部隊に加わった。たぶん、滑走スキルを使ったスノーボードをやってみたくなっただけだと思う。
その証拠にとんでもなく、はしゃいでる。
「ひゃっほーーーい!!」って叫びながら、側転する勢いで滑り降りてる。気持ちは分かるが。
この滑走作戦では、湧き出るスノーソルジャーを多く倒すために、3人でコースが重複しないように離れ、斜面をなるべく蛇行して滑っている。
てか、この斜面、40度超えてないか?
通常、30度も超えると急斜面に見える。40度超えの斜面なんか、崖に見えてしまう人がいるぐらいだ。
なのだが、スピード狂のジェイクは、蛇行でスピードが落ちるのを嫌がり、俺やカイトよりもカーブが浅い・・・。気持ちは分かるが。
「おい、コラ!ジェイク!
作戦忘れて、ぶっ飛ばし過ぎるなよ!」
我らが司令塔のカイトから、釘を刺されてやんの(笑)
「ルー、お前は無駄にジャンプ入れたりして、命中精度を落とすな!」
おうふ。俺も怒られたぜ・・・。
俺の思い付いた雪崩案は一か八かの作戦だったが、カイトがその次案として、こうして滑走しながら、スノーソルジャーを倒す案を思い付いたのだ。雪崩が起きなかった場合も、これならポイントを稼げる可能性が高いからな。普通に頑張っても上位入賞は難しかったから、ギャンブルに打って出ることに皆がOKを出してくれた。
カイトは滑走で剣での攻撃の効率が上がっている。俺とジェイクは、爆弾を惜しまずに使いまくる。
麓では他のチームメンバーも追い上げをしている。
ポイントは10万を超えたが、今も上がり続けている。
ウッホホーイ!これは、トップも狙えてしまうんでは?!
時間を見ると、残り時間は5分ほどになっていた。
前方に何本かの大きな木が見えた。その木はどれも雪崩で飲み込まれ、樹氷のようになって、倒れ込んでいるようだ。滑走する俺達から見ると、巨大な雪のモンスターが迫って来るかのようだった。
ふと思いつき、ジェイクにチャットをつなぐ。
「ジェイク、この間もらった花火。ここで打ち上げてもいいか?」
「ここでか・・・?!
・・・ルーにあげたのは、発射台が必要ない花火だからできるとは思うが・・・。」
「よし!俺に任せろ!大船に乗った気でいろよな!」
「・・・OK!ルーに任せた!」
俺は、インベントリから鉄球のような花火を2つ取り出しながら、スピードを上げた。
カイトとスケートをした時のように、この樹氷をジャンプ台にして、勢いをつけて飛ぶ!
空中に飛んだ時、絶景が見えた。ジャンプして視界が高くなった分、空が広がったような気がした。イベント開始時にすでに夕方へと傾いていた空は、今や宵闇に少し夕焼けが残るほどだった。これは花火にうってつけの空じゃないか!スローモーションにも感じる時間の中でそんなことを思っていた。
花火の1つを放り投げる。1個目はジェイクお手製の幻影花火。
ヒューっという音の後にパーンと破裂音が響き、赤い花火が散ると、一緒に広がった赤い煙が集結していった。
そして、現れたのは、20m級の赤いドラゴン!腹はグリーンで、以前の東洋風とは違い、今回は西洋風のドラゴンだった!
かっけ〜〜〜!
案の定、チャットの向こうでも歓声が上がっているのが分かる。同じチームだけじゃないな。チームメンバーの周囲のプレイヤーがどよめく声も漏れ聞こえて来た。
そして、問題の2個目。
同じく幻影花火なのだが、こちらは未完の花火だった。この花火の突起を押しながらイメージすると、そのイメージが完成品となる。さっき花火を思いついたタイミングで、俺はそのイメージを完成させていた。
次の樹氷のジャンプ台を飛ぶ。そして、花火の鉄球を空に向かって投げる!
響く破裂音、宵闇に文字が浮かび上がった。
ー 赤ずきん参上!
花火師ジェイクを夜露死苦! ー
俺は花火の字面を二度見した。
チャットの向こうも沈黙しているのが伝わって来た・・・。
待ってくれ!弁解をさせてくれ!話せば分かる!
まず、ジェイクに頼まれたのは、こうだ。
「話題の赤ずきんちゃんに使ってもらったら、知名度も上がるってもんだろ?」
ここで大事なのは、俺がジェイクの花火を紹介するということだろ?
絵心のない俺は、考えた。絵じゃなくて文章にしようと。
そして、我ながら、シンプルで良い文章を思いついた!
ー花火師ジェイクをよろしく!赤ずきんより。ー
なんかひねりが足りないよな〜。で、少し考えたら、もっと良い文章が浮かんだんだ。
ところで、俺が現実で住んでる地域は、都心の郊外にある。
ベッドタウンなんだけど、昔よりも人口が減ったみたいで、補修されていない公共物がちょこちょこある。その中の1つにトンネルがあるんだが、そこは落書きばかりで、小さい頃に父さんに聞いたことがある。「誰がこの落書きをしたのか?」「なんて読むのか?」って。それに対する父さんの答えは「昭和のヤンキーの落書きだな〜」って。
つまりだ。俺はその良い文章を思いついた時に、うっかりその落書きも思い出してしまったんだ。
ジェイクの発明が優秀だと言うべきか・・・。その一瞬の思いつきが見事に花火に再現されてしまった。
その結果がこれだ。
ー 赤ずきん参上!
花火師ジェイクを夜露死苦! ー
俺の思い出の中のスプレーアートと、同じ漢字・デザインだったんだぜ・・・。
「「ぶっ、はーはっはっはっはっはっは・・・!」」
沈黙の後、ジェイクとカイトの爆笑が夜空に響き渡った・・・。
そして、まもなくして、俺が初めて参加したイベントは終了時間になった。




