46. 初参加イベント(前編)
俺達は、今、World’s Frontierのイベントのフィールドに降り立っていた。
太陽は一番高いところを通り過ぎ、傾いている。一面、銀世界で眩しい。
俺のホームから遠くに見えた高い山脈が、今は間近に見える。今いる場所は、その雪をかぶった真っ白い山脈の麓だった。
“冬将軍到来!インベーダー撃退レース”というのが、今回のイベント名だ。
薬屋のばあさん、バーバラさんが言っていた「冬将軍」というのは、なんと比喩ではなく、この世界の魔物のことだったのだ!
冬将軍率いるスノーソルジャーを、どれだけ抑えられるかで冬の寒さが決まるという。このためにギルドで冒険者が募集されるのが、オーネンの町の”冬の風物詩”らしい。プレイヤー側には、イベントが討伐クエストだということだけが事前に明かされ、参加希望者はギルドへ登録することになっていた。
このイベントは1チーム10人までだ。俺のチームは、カイト、ミシェル、ミント、E2、ロドリゲス、店長、ハデス氏、レン、ジェイクというメンバーだ。
妹のりんは、友達とチームを組むらしく、今回は別行動。変身術士で幼女のピピと黒豹獣人少年で格闘家のキリヤンは、もともと用事があって欠席。
カイトは攻略組なのだが、こういうイベントではクランメンバーと参加しなくてもいいらしく、俺と同じチームになった。
前回はクランメンバーと参加して入賞し、称号”白馬の騎士”をゲットしたらしい。ちなみにそのイベントは、3日間のサバイバル生活の中での競技で、レベル差が影響しにくく、戦闘職だけでは厳しいイベントだったとか。
今回も同じようなイベント設計ではないかと噂されていて、生産と戦闘のバランスを取り、さまざまな職業を取り入れてチーム編成をするところが多い。俺たちは、生産寄りだけどな。
そんな感じでチーム編成が決まったところで、先輩からチャットが入った。
「ルーもカイトも、イベントでは俺とチームを組みたいだろう!
・・・だがな!残念ながら、先約がある!」
先輩のこと、すっかり忘れてたぜ。
まぁ、俺たちのチームは定員いっぱいだったからな。良かった、良かった。
今回のイベントのルールは簡単だ。ゲーム開始から3時間の間に、山から降りてくるスノーソルジャーを倒した数の多さを競うものだ。1体につき、1ポイントが入る。聞いた限りでは戦闘職に有利そうだが・・・?始まってみれば、分かるか。
山脈の麓のこの辺り一帯は、全参加プレイヤーが転送されてきているので、熱気を帯びていた。
イベント開始まで20分を切った。
俺は近くを飛んでいる鳥に、使い魔のアーツ”ファミリア”をかけて、視界を共有させてもらい、空からプレイヤーのいる一帯を見る。開けた雪原の数kmに渡ってプレイヤーがいるところを見ると、イベント参加者は、千は軽く超えてるな。・・・これ、万超えてるんじゃないか?そして、どこもその一帯から傾斜が始まり、北の山脈へと続いていく。雪原の所々には、雪をかぶった紫の森が広がる。
イベントが始まる前に作戦会議だ。満場一致でカイトが取り仕切ることになった。
「最初の1時間は、情報収集をメインにスノーソルジャーを討伐する。
A班は、ルー、ミシェル、E2、ジェイクで、俺がリーダーを務める。
B班は、店長、ハデス、レン、ミントで、リーダーはロドリゲスだ。
A班は雪原、B班は東側の紫の森で、スノーソルジャーを効果的に倒す方法を探るぞ。
1時間経ったら、チャットで連絡を取り合って、作戦を練ろう。」
「「「「おう!!」」」」
E2もジェイクも俺も爆発物を扱うため、森は不向きとして雪原になった。
俺にはグリーンフィンガーのスキルがあるので、森に行く選択もあったが、ファーマーのレンが森の調査に着くので問題ない。カイトに継ぐ戦力は、店長とハデス氏ということだったので、2人が森の探索へと加わる。
時間になると、北風が吹き始め、それが吹雪へと変わった。
遠くから蹄の規則的な音が響き、冬将軍が空飛ぶヘラジカに乗ってやってきた。数百m先で宙に浮いている。
遠近感に違和感を感じる。それもそのはず、冬将軍だけでも10m級の大きさだ。乗っているヘラジカはさらに大きい。
耳まで覆うシルバーの金属製のヘルメットを被り、天辺には馬の尻尾のような飾りが付いていた。顔は全面が黒い面で、目の部分は青白い眼光が光る。服は着流しに、獣の皮を腰に巻いて、モンゴル帝国の兵を思わせる出で立ちだった。
その冬将軍がヘラジカを乗り回し、中空を駆け抜けると、吹雪が強くなる。
そして、吹雪が止んだ時、プレイヤーの集まる一帯の向かいにある山側に現れたのは、数万体のスノーソルジャー。全てが雪で出来た歩兵だ。つまりは、雪だるまだな。その雪だるまソルジャーが氷の剣を片手に攻め入って来る。
アラート音が鳴り、アナウンスが響いた。
「イベント“冬将軍到来!インベーダー撃退レース”を開始します。」
それとともに、血湧き肉躍るプレイヤー達からは雄叫びが上がった!
ロドリゲス達のB班は、プレイヤーの後方を通り、紫の森へと向かう。
俺たちのA班は、このままここで、スノーソルジャーを迎え撃つ。
数mの間隔でスノーソルジャーは押し寄せて来ていた。
まずは小手調べだ。俺は、投げナイフを手にして、投げた。
スノーソルジャーは、HPバーが少なく、あっさりと倒れる。敵の剣も遠距離攻撃だと、脅威にはならない。なるほど、プレイヤーのレベル差はつかないように、ほとんど一撃で倒せる仕様なのだろう。
俺の視界の端では、ポイントが1ずつ上がっていくのが見える。俺たちのチームの合計ポイントが表示されているのだ。開始数分ですでに10ポイントを超えた。10体を倒したということだ。スノーソルジャーをどうやって多く倒すか、それが問題だな。
俺のすぐ横を手裏剣がかすめた。隣の忍者集団の1人が放ったものだ。
「おい!もっと先へ進め!」
同じ集団の1人が注意を促し、メンバーが散り散りになる。
プレイヤー同士の攻撃はお互いに効かないので、今のはさして大きな問題はないが、このあたりは混戦状態で討伐数を稼ぐには不向きだ。
ちなみに忍者職は、大部分が外国人のプレイヤーに占められているという。
ジェイクから聞いた話だ。NINJA好きが多いからな。
そして、カラー☆コスメでタトゥーが流行り、忍者服とタトゥーの両立を目指したプレイヤーの姿が、目の前の集団だ。
タンクトップで腕にタトゥーを入れる忍者は、まだ良いとしよう。
タトゥーを見せたいがために、背中だけ布がないとか、短パンだとか、忍者と言っていいのか?とても迷うところだ。
そこの胸部だけ布を切っている奴は、タトゥーを見せたいのか、乳首を見せたいのか・・・。どっちにせよ、忍者というよりも変態っぽいぞ?
そして、極めつけは、忍者マスクに上半身裸の格好だ。胸に刻まれるタトゥーは、丸で囲んだ漢字に”悟”だ。おい!それは胴着に刺繍されるものであって、肌に直にタトゥーにするのは違うだろ?!
さらには、そっちで背中を見せてる奴のタトゥーは、漢字で”冷蔵”だ・・・。絶対、意味わかってないよな。
ここにいると、忍者が何なのか分からなくなってくるぜ・・・!
「あれがNINJAとか、笑わせるぜ!」
そう鼻で笑ったのは、近くにいたジェイクだった。
ジェイクも花火師とはいえ、忍者のスキル構成しているから、「その黒装束、忍者じゃなくて、日本の泥棒だぞ」と以前に突っ込んだら、「もちろんだ!この格好のモデルは、鼠小僧だからな!」と、ドヤ顔で返されたんだ・・・。もう何も言うまい。
突っ込みどころ満載の忍者集団から離れて、投げナイフでの検証を続けた。
スノーソルジャーは、山脈の方からどんどん湧いて来る。プレイヤー間の縄張りが重なることが効率の悪さへとつながっているため、みんな前へと縄張りを広げに行っている。他プレイヤーへの攻撃は無効で大した足止めはできないので、足の引っ張り合いは起きていない。しかし、前へ進むと、雪が深くなるため、なかなか足を進めることができない。火魔法で溶かしてもせいぜい数㎡だ。カイトも白馬を呼ぶことを考えたが、移動が雪深くて困難なため見送った。多くのプレイヤーが騎馬での進行は断念したようだ。
「イヤン!何、あのセクシーマッチョな集団は?!」
ミシェルはスノーソルジャーの攻勢を抑えながらも、目を輝かせて、よだれを垂らしながら、上半身裸の男性集団を食い入るように見ている。ミシェルの筋肉も、あの男性集団と良い勝負だと思うが、そんなことは口には出さないぞ。
そして、その集団の中央にいたのは、よくよく見ると、先輩だった!
先輩は、積もった雪を憎々しげに見て、不機嫌な声を上げた。
「これ以上進めないだと?!」
5mほどの巨大カバの背中に、金の枠に赤いビロードが張られた豪華なソファが置かれ、その上に偉そうに先輩が座っている。今日も露出が激しいが、バニーガールではない。今日はジプシーの踊り子のような衣装で、小麦肌で髪は黒い。寒そうに見えるが、防寒用に開発されたカイロのようなアイテムを持っているのだろう。真冬に海パンでも寒くないらしい。
しかし、中身が先輩だと思うと、あのひもパンみたいなスカートにもゲンナリするぜ・・・。中身が男だとしても、"まぁ良いか〜"って思う奴もいるぞ。実際、俺の高校にもいた。でもな、パイセンはダメなんだよ。何度も言うが、美女からあのキャラがにじみ出るのが受け付けないっ。
あのうさぎ獣人美女の中身が男だということを知らない男達は、幸か不幸か?難しい問題だ・・・。
先輩が乗るカバの周りには、上半身裸のイカつい男達が歩兵として控えている。先輩を含めてちょうど10人ということは、同じチームなのだろう。見た感じ、クレオパトラと古代ローマの剣闘士の集団といった感じで、統一感がある。イベントになると、チームで衣装を合わせたりすることもあるらしいが、あれが先輩の言っていたファンならぬ奴隷だな。
「ここあちゃんは、ここで待っていてくれ!
いいかぁ!野郎ども!
俺らでソルジャーを一掃して、ここあちゃんに雄姿を見せっぞー!!」
「「「「っしゃー!!!」」」」
そういえば、先輩のゲーム内での名前はここあだったなー(棒)
分かってる。俺は今、現実逃避をした。目の前に認めたくない現実が広がっているのだ・・・。
先輩に愛想を振りまきながら、他の剣闘士をまとめていたのは、なんと虎獣人のガーだったのだ!
そして、先輩の脇には、ゴリラ獣人のシロウまでいる!
思わず、近くにいたカイトに「どういうことだ?!」と責めるような視線を送る。カイトも先輩達の声に気づき、同じ方向を見ていたために、俺の視線の意味に気づいたようだ。スノーソルジャーを剣で倒しつつ、気まずそうに言う。
「あ〜、その、なんだ。
先輩のレベリングに付き合ったのは、シロウとガーらしい・・・。
・・・俺も最近知った。」
「なんだと・・・?! ノオォ〜〜〜!!」
シロウとガーは、魔除けの境界で一緒にプロレスをした。漢の中の漢だと思った。そして、硬派な漢達だと思ってたのに・・・!
「バニーガールのアバターで引っ掛けた男の中から高レベルな奴を選んで、レベリングしてもらった。」と先輩が言っていたのが、まさかこの2人だったとは・・・!シロウ達は、カイトと同じ攻略クランに所属している。攻略の最前線でレベリングできたから、3日でレベル10になったのか!どおりでレベルが上がるわけだぜ。
先輩が男だとは暴露できないなんて・・・。ゲームの暗黙ルールのジレンマだぜ。
2人が先輩の毒牙にかかってしまうなんて、なんという悲劇なんだー!!
打ちひしがれる俺の肩が、励まされるように叩かれる。
「ルー!呆然としてどうした!戦線に戻れるか?!」
悲しみに暮れる間もなく、ジェイクに促され、戦線へ戻る。
頑張れ、俺!気を取り直すんだ!
投げナイフでの効果検証は終わったから、次は粉塵爆弾だな!
一番広範囲の爆弾を放った!
「ハックション!コノヤロー!」というくしゃみ音とともに轟音と閃光が走ったが、俺の直径7mほどの威力では3体ほどを巻き込むのが限界だった。その1発でスノーソルジャーは、やはり戦闘不能になる。
おちょぼ口のボフン草も試してみた。さっきの爆弾よりも爆破領域が細長くなるはずだ。「クチュン」というお姉さんのくしゃみ音とともにまっすぐに閃光が伸び、4体のスノーソルジャーを倒した。うまいポジションで爆発させなければ、いつも4体を倒すのは無理だろう。
ちなみに、おちょぼ口のボフン草が、おっさんからお姉さんのくしゃみに変わったのは、改良の副産物である。誤爆した反省を活かし、口の部分に目印をつければ操作しやすくなると思って、カラー☆コスメシリーズの口紅でボフン草のタラコ唇を塗ったのだ。すると、あら不思議!くしゃみがお姉さんに変わったのだ・・・。なんだよ、これ。
うーむ、爆弾は投げナイフよりも良いのだが、投げナイフの方が使い魔で回収ができる分、この状況でどちらを使うか迷うところだな。
「そっちはどうだい?僕の方は、一番威力のある爆弾でも3体だね。
これなら、銃での攻撃の方がいいかもしれない。」
「俺も5体が限界ってとこだ。悪くは無いんだがな。」
近くでE2とジェイクも爆破を繰り返しているが、やはり俺とあまり変わらないようだ。
E2の主要武器は銃で、このイベントで数をこなすには、爆弾よりも銃の方が良さそうだった。
E2が金属の義手みたいな両手で銃を繰り出すのが、めちゃくちゃ格好いいんだぜ!
すぐ近くで格闘技のような奇声が上がる。
「オラァ!セリャァ!
・・・ヤってもヤっても、キリがないわねェ!」
ミシェルが戦っているのは初めて見たのだが、武器はなんと針だった!白魔法で身体強化をして、裁縫の針を飛ばすのだ。ちょっとトキめいてしまった。いや、ミシェルにではなく、針攻撃にな。"仕事人"かぁ〜。じいちゃんと子供の時にTVで見たんだよなぁ。針を投擲したら、俺も必殺できんじゃね?
そんなことを考えていたら、遠くで歓声が上がるのが聞こえた。
声の方へ視線を向けると、紫の全身ローブの集団がいる。顔を覆う頭巾も同じ紫で2つの目の部分だけを開けているので、ゲーム内とはいえ、異様な集団だ。その中の1人が魔法の詠唱をしていた。あれが、カイトから聞いている”魔界のエンペラー”と呼ばれる魔術師や賢者を中心としたクランだ。
その1人が詠唱を完了し、手を振りかざすと、周辺だけが暗くなり、空から彗星が落ちてきた・・・!落ちた一帯は、すぐさま火の海となり、30体ほどのスノーソルジャーを消し去る。
あの魔法が、コメットか!あれはヤバイな。俺の中の中二病が疼く魔法だ・・・!
カイトの前情報によると、今の所、あの賢者にしか繰り出せない大魔法らしい。現段階で最も広範囲の魔法だということだから、”1発で30体”というのが今回の”1つの基準”だ。
さらに、雪原の中央付近から黄色い声と雄叫びが上がり、誰かが飛び立った。
あれが、カイトの言う”もう1つの基準”だな。
赤のドレスアーマーに、ストレートの銀髪をなびかせた美女が、飛び立ったのだ。背中には、レア種族の堕天使のものである白い羽が目立つ。そして、プレイヤーがいない遥か前方へと飛び、アーツ”突進”を連続で繰り出した。武器のランスには赤い光のエフェクトが飛び、一直線に斬りかかり、40体ほどを切り捨てる。そして、アーツを使わない通常攻撃に戻るが、それでもすごい速さだ。
これが、物理攻撃の最高峰の1人”鮮血のヴァルキューレ”。カイトの姉ちゃん、ツカサさんだ。
ランスが放つ赤い光のエフェクトと赤いアーマー、そして強い者には挑まずにいられない戦闘狂の性格から、”鮮血のヴァルキューレ”という称号を得た。所属するクランも”赤いバーサーカー”という、ちょっとアレな名前だ。
今、ツカサさんが連続アーツで倒した”40体”。これが”もう1つの基準”になる。
俺たちが上位入賞を目指すならば、この2人の有名戦闘職プレイヤーの”1ターンで30〜40体”を基準に、スノーソルジャーを倒す方法を考えなければならない・・・!カイトが事前に話した作戦の一部だ。
投げナイフでの攻撃を続けながら、今の基準を超える方法を考えていたところ、今度はB班が向かった森の方角から声が上がり、大きな轟音が響いた。見た時にはすでに、金髪の身なりの良いエルフの青年が、山の方へ向かって空を飛んでいるところだった。ツカサさんと違って、羽も生えていないのに、どうやって?
「 フェイ!
お ぼ え て ろ よ ー !」
遠ざかって行ってしまったから、何を叫んでいるかはよく分からなかったけど、そのエルフは最前線へと落ちて行った。落下ダメージはないようだが、豪快な落ち方をしていた。
エルフが飛ばされて来た方角を見ると、そこには大きな大砲があった。
近くで羽の付いている妖精が指示を出すと、1人のエルフが大砲の中に入り、別のエルフが着火。大砲は轟音を立てて、エルフを再び最前線へと打ち上げたのだ・・・!
すぐさま、我がチームの司令塔の元へと走り、興奮しながら大砲を指差した。
「カイト!俺も、アレやりたい!!」
「いやいや、待て待て待て。目をキラキラさせ過ぎだ。
まずは、落ち着け!
アレって、大砲で空を飛ぶってことか・・・?」
俺のテンションに困惑しつつ、カイトは話に耳を傾けた。
やっと伏線回収できました。
「冬将軍」の話を出したのは、22話の紙装甲卒業でした。
先輩のレベリングの話は、39話の高難度クエストに出てきます。
大砲で飛ばされたエドワードの落下ダメージがないのは、飛ばしたのがフェイ達なので、プレイヤー同士の攻撃と見なされ、被ダメージ無効ということになっています。




