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45. 武器の改良



「久しぶりだな、ルー!

しかし、ブッ!ハハハハッ!本当に幼児になってるじゃないか?!」


目の前で笑っている青年は、黒装束に黒い手ぬぐいを頭に巻き、鼻の下のところで結んでいた。

しかも、今は闇夜。完全に泥棒にしか見えない・・・!


青年はその泥棒の格好とは裏腹に、粗野(そや)な感じはしない。話し方も気の良い兄ちゃんだ。種族はドワーフだが、背は低くはない。細マッチョという風貌(ふうぼう)。頭の高い位置で濃紺の髪を結び、目は一重(ひとえ)の切れ長で、おしゃれな和風の武芸者という感じだ。


実は、この泥棒は、現実(リアル)でも俺の友達であるジェイクだ。

現実ではガタイの良いアメリカ人なのだが、現実とは違うキャラにしたようだ。カイトが西洋っぽくて、ジェイクが東洋っぽくしたのは面白いな。


いつもは、ジェイクの片言の日本語と俺の片言の英語で話している。高校英語以上の単語が必要になるとカイトが通訳することがあるんだが、今はゲームの自動翻訳機能で流暢な日本語だ。設定をいじると、サブカル日本語翻訳というのもあって、江戸っ子風とか関西弁風というのもあるらしいが、ノーマルモードを選んだらしい。


ジェイクがゲームをしていることは聞いていたのだが、今まで予定が合わず、会えていなかったのだ。


「天使がジェイクと友達だったとは驚いたよ!それなら、話も早い。」


E2が俺とジェイクを見て、微笑んだ。

俺も驚いた。ジェイクはE2とも現実で友達で、E2と同じ魔導機関車のクランに所属していたのだ!


今日は、このジェイクとE2と一緒に、オーネンの東の草原に来ていた。町からは離れ、森の中に飛び地としてある草原だ。最近は、魔除けの境界で草原の土地が囲い込まれているらしいが、この辺にはプレイヤー所有の土地がないようだな。さすが、フィールドが広大なだけある。


そして時間は夜。

初めて、夜のフィールドへ来た。お化け屋敷の”湖の洋館”は夜だったが、あれはダンジョンの中みたいなもんだからな。

今日の目的は狩りや採取ではない。武器の改良だ!

近々、このゲームのイベントが開催される予定もあるので、(おろそ)かになっていた攻撃力の補強をしようと思ったのだ。


お化け屋敷で首無し騎士を倒した時のドロップ品である、暗闇のカンテラであたりを照らす。

俺たちがいる周りだけは昼間のように明るくなった。けれど、光が届く範囲より外は、細くなった三日月の明かりだけだった。三日月と言っても、現実の5倍ぐらいある。それから、この世界では、朝も夜も大きな天の川が流れているが、今晩は月の明かりが少ない分、とてもよく見える。

明るいところから、暗いところを見てもそこそこ見えるのは、ゲームマジックだろう。夜目が効くスキルを取るとさらに良く見えるらしい。


「じゃあ、さっそく天使の新作武器を見せてもらおうか・・・!」


E2が俺を促す。

いつもの爽やかな熱血漢とは違い、目がギラついている・・・。E2は自分の好きな分野や興味のある分野になると、このスイッチが入るからなぁ。


俺は、インベントリからあるものを取り出し、目の前の(ひら)けた草原に向かって投げた。

そして、ブーーーッというオナラのような音とともに、閃光(せんこう)と爆発が起きる。


暗闇のカンテラの明かりを超えて暗いところで炸裂させたために、爆発がはっきりと見えた。直径3mほどの威力だ。

新作武器というのは、爆弾だ・・・!


先輩のギャンブラーのスキル”トランプカード”のように、切り札や範囲攻撃になりそうなものを考えていて、出来上がったのが爆弾だった。


お化け屋敷で”ボフン(そう)”という草を採取して、思いついたのだ。ボフン草は、お化け屋敷の霧を発生させていた植物だ。ブーブークッションのような形をしていて、地面の水を吸い込み、呼吸のように水蒸気を空気中に吐き出す。そして、刈り取って、その風船部分を潰した場合は、中に入れた液体や粉末を一度だけ霧状に噴射させることができる。

その作りを利用して、中に小麦粉を入れて、使い魔で吐き出させると同時に、放火草で発火。すると、狙い通り、粉塵(ふんじん)爆発を起こすことができた!


欠点は、吹き出し口が正面から見るとタラコ唇みたいに見えて、人面草っぽくて不気味なところだな。

そして、形がブーブークッションに似てるように、無理やり吐き出させる時の音がオナラ音だった・・・。隠密には全く向かん!


「本職を置いてここまで爆弾を作るとは、なかなか見所があるじゃねーか!

・・・しかし、ブハッ!オナラ音て。ッハハハハ!さすが、ルーだ!」


ジェイクはカイトと友達なだけあってか、笑い上戸だ。


「粉塵爆発とは考えたね!これだと、金属がいらないし、栽培スキル持ちにはコストが低く抑えられる。」


E2は目を輝かせて、俺の爆弾を評価した。技術に夢中なあまり、オナラ音は気にならないらしい。


「この粉塵爆弾をベースに改良するとなると、金属の粉も足したら、改良になるんじゃないか?」

「やっぱりそう思うか?E2はどう思う?」

「そうだね。粉塵爆発も金属の方が威力が大きくなると聞くよ。この鉄粉を使ってみてはどうだろう?」


E2がインベントリから、袋を取り出す。中には鉛色の粉が詰まっていた。

ジェイクは”花火師”というレアな職業を選んでいた。爆弾の製造もよくしているらしい。今日は、俺の爆弾とジェイクの花火の品評会みたいなものだな。その効果を見やすいように夜を選んだ。


「鉄粉を試したことはあるか?」

「いや、ないな。手元にある小麦粉で試してみて、出来てしまったから、そのままだった。

それじゃあ、鉄粉100%から試してみるか!」

「実験!実験!なにごともチャレンジさ!」


そして、巻き起こる爆発。しかし、範囲は先ほどよりも小さくなっていた。閃光は強く見えたんだけどな・・・?


「・・・鉄粉の方が重いから、小麦粉よりも舞い上がらなくて、範囲が小さくなったんじゃないかな?」

「なるほど。範囲は狭いけど、閃光が大きかったことを考えると範囲内の威力は上がっている可能性もあるな。」


冷静なE2の分析に、ジェイクが面白そうに付け足した。


「・・・ってことは、範囲が欲しければ、小麦粉。威力が欲しければ、鉄粉ってことか?」

「多分な。でも、威力が強くなれば、範囲が広がる可能性もある。」

「う〜ん。そしたら、一挙両得!小麦粉50%、鉄粉50%だ!」

「いいね!いいね!」


E2が俺の作業を興奮して見守る中、俺はボフン草に粉を詰め込んだ。


再び、巻き起こる爆発。おおっと、今度は小麦粉100%に近い範囲まで爆風が起きたぞ!


その後、ナイトバットやブラックウルフなど、夜行性の魔物と戦いながら、戦闘での爆弾の威力を確認しつつ、実験を続けた。結果、小麦粉100%よりも範囲がやや広くなり、威力も上がる比率を見つけ出した!小麦粉比率も高いので、手持ちの小麦粉でも大量生産できるぞ。今なら金があるから、爆弾を買うこともできるが、自分で武器の改良して使いこなすというのが面白いんだよな。


最近覚えた使い魔のアーツ”ファミリア”で、野生のフクロウの目を借りて、上からの視点で爆発範囲を見てみた。

ハロウィーンでりんにゾンビをけしかけた時は、このアーツを使ってリアクションまで見ることができたのだ。しかし、りんの「アンギャーー」って叫びは、いつもなのか?

上から爆発範囲を見ても、やはり威力は増しているようだ。


「いいんじゃないか?!」

「うん、最初よりも威力が上がっているね!」

「なるほど、こういう配合比率になるんだな。・・・お!こういうのはどうだ?!」


ジェイクがインベントリから、テープを取り出した。

粉を詰めたボフン草を手に取り、タラコ唇にテープを巻くと、おちょぼ口になった。渡されたそれを投げ出し、着火。やっべ。誤って近くに落としてしまった。さっきよりも甲高いオナラ音が響き、閃光が細長く伸びた。・・・こちらへと!


「あぶねーーー!!」

「うわっ!」

「おらよっと!」


俺はジャンプで爆発をかわし、E2も驚いたものの難なく爆発をかわした。

ジェイクは花火師なんだが、忍者のようなスキル構成も持つので、身軽に避けた。

いや、待てよ。今の危なかったの、俺だけじゃないか?このゲームは、プレイヤーからプレイヤーへの攻撃は効かない。しかし、自爆はあるのだ。


「いやー、はっはっは!まさか成功するとはな。」


ジェイクが試したのは、発射口を細くすることで、飛距離を伸ばすことだった。それによって、爆発範囲は狭くなったが、長くなった!5mは超えてたんじゃないか?

今のは方向を誤ったが、改善できそうだ。使い魔でコントロールするのだ。良い改良の方向性が見えてきた!

俺の爆弾の改良がひと段落したところで、今度はジェイクの花火を見せてもらうことになった。


「じゃあ、まずは普通の花火からだな。」


数百m先に設置した10本ほど太めの筒、つまり発射装置に、火魔法で一気に同時に着火した。

ヒューっと打ち上げ花火が上がる音とパンと言う破裂音が、何発も交錯する。

白い小さな花火が連続で10個ほど小気味いい音を響かせた下で、柳のように青い花火がしなだれかかる。

最後は最も高い高度で、赤い牡丹のような大輪の花火が咲いた。


「「おおおおーーーー!!」」


俺とE2は感嘆の声を上げて、ピィーーィっと指笛を鳴らした。


「こんなデカい花火を特等席で()れるなんて、最高かよ!

花火大会の大トリになってもおかしくない花火だったな?!」

「すごいじゃないか!前よりも大きくなってる!」

「ありがとう!ありがとう!

俺もこの花火の出来には満足してる。

けど、絶賛するには、まだ早いぜ。話は、次の最新作の花火を見てからだ!」


ジェイクが自信満々の笑みを見せ、3つの特大の発射装置を取り出した。見た目は垂直に立てた大砲のようだ。真ん中のものが特に大きい。プレイヤーの身長を超えている。インベントリはこの大きさでも入るのか。さらに遠い距離にその発射台を置き、火魔法で着火した。


一発目の打ち上げ花火の音が鳴り響くと同時に、俺たちの目の前の夜空には白い花火がドット状に広がり、それがすぐに形を成した。高低差の激しい山々の水墨画のような風景が出現する・・・!

もはや、花火とは言えない画力である。煙が絵を描くような画風で、立体感さえ感じるのだ!


二発目の打ち上げの音が響くと、稲妻がいくつも走り、一発目の水墨画のような風景がかき消えていった。


そして、三発目は、ヒューっという打ち上げ音とともに、白い光でできた1匹の大きな鯉が夜空へと登っていき、パンという音とともに、無数の白い光となって散る。その光が収束していくと、巨大な東洋の龍へと姿を変えていた・・・!


これは、あれか?この龍に願い事を口にすべきなのか?

俺とE2は空を見上げて、口をあんぐりと開けていた。


「はーっはっはっはっは!その顔を見ると、俺の花火は成功かな?」

「・・・いやもう、すご過ぎて、花火とかの次元じゃなくね?」

「・・・なんという芸術!素晴らしい!」


俺たちの絶賛の嵐に喜んだジェイクは種明かしをしてくれた。

この新作花火は”幻影(げんえい)花火”と言って、自在に形を変えるメタルなスライム物質と忍術の幻影を仕込んで作ったらしい。


「まだ改良点もあってな。この花火だと色が出せていないんだ。」


さっきの龍も水墨画のようだったのは、そのためだったのか。あれはあれで良かったけどな。

俺はインベントリから着色剤を取り出して、ジェイクに渡す。


「これは使ってみたか?」

「ん?着色剤?ルーの開発したカラー☆コスメとは違うのか?」

「カラー☆コスメの材料になってるんだが、防具や服の色を染色するのにも使われているんだ。割と応用が効く素材だから、花火にも使えるかもしれないぞ?」

「ヘぇ〜、それは知らなかった!試してみる価値がありそうだ。」

「実験!実験!すぐに取り掛かろう!」


ジェイクとE2が花火製造に取り掛かる側で、俺はさっきの爆弾の改良を再開した。

作業をしていたところ、ぐーっという音が聞こえた。


「・・・僕のお腹の音だ!」

「E2!お前また実験に夢中になって、飯を食べてなかったろ?」

「それなら、ここらで飯にしようぜ!色々持ってるからな。」


俺は、そこいらの枝を集めて着火し、焚き火を作ったら、インベントリの中から生肉を取り出した。

リブ、豚トロ、鶏もも肉を切り出し、金属の串に刺し、焚き火の脇に突き刺した。焼けるまで少し待つだけだ。


「おいおい、色々持ってるって、全部肉かよ!最高だな!」

「よだれが止まらないよ!」


おっと、忘れるところだった。塩胡椒(こしょう)を取り出し、肉にふりかける。

その時だった・・・!


「ハクション!チキショー!!」


おっさんのくしゃみ音とともに、爆発が起きた。目の前で・・・!

気づくと、俺のHPが半分になっていた。E2とジェイクも爆発に巻き込まれたのに、なんともない。

それはそうだろう。敵襲でもなんでもなく、さっき作りかけていた俺のボフン草が爆発したのだから・・・!

ジェイクは花火をちゃんとインベントリに閉まっていたため、二次災害はない。

呆然とする俺にジェイクがポーションを振りかける。その横で、E2が疑問を口にした。


「・・・なぜ爆発したんだろう?」

「・・・もしかして、胡椒か?!」


俺は中に何も入れていないボフン草を取り出し、胡椒をかけてみた。


「ブエックション!コノヤロー!!」


・・・やっぱり、おっさんのくしゃみだ。いや、原因は胡椒だったのだ!


「っぶ!はははははは・・・!おっさんのくしゃみをする草とか・・・!」


ジェイクが大爆笑している。


「天使よ!これは、爆発力が上がったんじゃないか?!」


E2よ、君は良い実験材料があるとまっすぐだなー。おっさんのくしゃみもスルーだ。

そして驚くべきことに、E2の指摘の通り、胡椒を入れたボフン草は爆発力を増したのだ!

クシャミ音のために、相変わらず隠密には向かないが、オナラ音よりマシだろう。


俺はその後も実験を続け、胡椒と小麦粉と鉄粉の黄金比を見つけ出し、最終的に爆発範囲は7mとなった。おちょぼ口のやつだと、範囲は狭まるが長さが伸びて10mになった!


ジェイクの方も小規模な幻影花火で着色剤を試してみたところ、成功していた。俺たちは思い思いに試作を作り、時間となったので、お開きにすることにした。


「ルーには、これをやろう!」


ジェイクがボーリングの玉ぐらいの鉄球を渡してきた。思ったよりも軽い。さっき打ち上げていた花火よりも小ぶりだ。


「これは?」

「”幻影花火”だ。さっきのドラゴン花火もこれで仕込んだのさ!この突起を押しながら、イメージしたものが花火になるんだぜ!」

「すげーーー!俺がもらちゃっていいのか・・・?」

「話題の赤ずきんちゃんに使ってもらったら、知名度も上がるってもんだろ?」


ジェイクは、茶目っ気たっぷりにニヤリと笑った。


「そういうことか!いいぞ。目立ちそうなところでドカンと打ち上げてやる!」

「おー!よろしく頼むわ!」


もう1つ、ジェイク作成の幻影花火も受け取った。どこで打ち上げてやろうかな〜。




胡椒が出たあたりでお察しかと思いますが、爆弾配合はゲーム内物理の法則に従ってますので、ご了承ください。

ハロウィーンでりんにゾンビをけしかけたのは36話、

先輩のギャンブラーのスキル”トランプカード”が出てきたのは39話でした。

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