44. 湖でスケート
湖の洋館のガゼボで、ルイスとマリアンとの昼を終え、午後はスケートだ。
俺は目の前のカイトに驚愕していた・・・!
「ふっふっふっふ。この3時間の成果を見て驚け!」
カイトは自信満々に前置きを述べると、スケート靴に重心をかけて滑り出した。今日始めたばかりとは思えないほど、なめらかに滑る!さらに、スピードに乗ってジャンプし、なんと、横に2回転したのだ・・・!
「お前は、フィギュアスケートの王子か?!」
確かに、このゲームのステータスで身体能力は強化されているが、スキルなしでここまでやるとはっ。プロまではいかないレベルだが、これを3時間でだと?ぐぬぬぬ・・・!
「フィギュアスケートブームで、りんに付き合わされ、散々スケートリンクに連れて行かされたのは、この俺だ!本物のスケートを見せてやる!」
「いや、そのきっかけはどうなんだ?ドヤ顔で言うことか?」
「ルー、ガンバレ〜!」
カイトが呆れ、タアモが歓声を上げる中、俺は足下の氷を一蹴りして滑り出す。シュッシュッという氷を滑る音が軽快に響き、速度を増していく。
スピードが最高になったところで勢いをつけて跳ぶと、目の前の景色が上下に回転した。
宙返りをしたのだ!
「まじか!」
「ルー、すごーい!」
最後はかがんだ体勢で着氷したが、尻はぎりぎり氷に着いてない。
よしっ、成功!
タアモが全力で拍手をしてくるので、手を上げて応える。
さすが、身体能力が上がっているだけあるぜ!
ちなみに、現実のリンクでこれやったら、スケートリンクの人に怒られた。危険なために競技会でも禁止されてるらしい。
それからは、カイトの闘争心にも火が付く。スピードスケートが始まり、3勝3敗という戦績。
勝負ごとで熱くなってはいるが、この貸切状態の湖で速く滑れるというのが、とにかくめちゃくちゃ気持ちいいっ!現実よりも軽やかに滑れる上に、スピードが出るし、ジャンプも高い。風を切りながら、シャッシャッと氷の上を滑る感覚が、病みつきになりそうだ。
しかし、スケート経験者の俺はまだしも、カイトの身体能力はどうなっているんだ?これがステータスの力なのか?!
そして、競争はジャンプ競技へ。
俺の氷像作成アーツで、氷の山を作り、それを飛び越えて、ジャンプの高さを競うというものになっていた。
これも、だんだんと山を高くしていき、一歩も引かない勝負となる。
何度目かのジャンプで、限界の高さまで来たと思われたとき。カイトは、その氷山をジャンプ台のように使い、さらに高いジャンプを見せた。そして、空中で開脚してポーズまで決めやがった・・・!スキーモーグルのスプレッドイーグルのようだ。思わず、見入ってしまい、それがまた悔しい。ぐぬぬぬ・・・。
そこからはまた競技変更で、スキーやスノボのスロープスタイルのようにジャンプの高さと技を競うようになっていった。
それに合わせて氷山も作り変える。今度は、ジャンプ台になる氷山だ。スロープがだんだん上がっているため、その後のジャンプの勢いが増す。
ここで、俺は手段を選ばないことにした・・・!
氷のスロープを滑って、空中へ跳ぶ。
さっきよりも、風を切るスピードと景色が流れるのが速い。
そして、そのまま宙返りを続けて3回して着氷・・・!
「ルー、それは反則だろ!スキル使ったな?!」
カイトにすぐさまバレた。そう、俺は滑走スキルというスキルをたった今、取得したのだ!
スキルポイントを4ポイントも費やしてしまったぞ。ノリと勢いもここまで来たか〜。 このスキルは、必要とされる場面があまりないために、ゴミスキルと言われている1つだ。
「はっはっはっは!カイトくん、それは負け犬の遠吠えというものだよ!」
俺はカイトを挑発する。カイトは悔しそうな顔をした後で、闘志をみなぎらせた。
「受けて立とうじゃないか・・・!」
カイトが氷山を見据えて、滑り出した。
氷のスロープで助走し、ジャンプ。
そして、横へ2回転の後に、宙返りにつなげて着氷しただと?!
「・・・まさか、お前もスキルを取ったのか?!」
カイトはニヤリと笑った。
「滑走スキル、俺も取ったぜ!これでまた勝負は振り出しだな・・・!」
なんだと!まさか、攻略勢のカイトがこんなゴミスキルを取るとは思わなかったぜ・・・!油断したっ。
それからも、俺たちの競争という遊びは続き、滑走スキルはLv.2になっていた。レベルは上がってもアーツはなく、スピードが上がっていくというものだ。
最終的に出来上がった氷山は、ジェットコースターのレールが山をつくる途中で途切れたような格好になった。
「これはなかなか・・・」
俺たちは、呆れ顔で氷山を見ていた。
しかーし!チキンレースの要領でここまで来てしまったのだ。今さら、引かないぞ・・・!
俺は、氷山へと滑り出す。
これで終わらせてやる・・・!最後は、回転や技は一切なしの、飛距離で勝負だ。
長くなった氷のレールを全力で滑り、空中に放り出される。飛び出しも高さも、申し分ない!
「・・・飛びすぎだ!前!!」
カイトの声が響いた時には、すでに遅かった。
俺の目の前には、湖の洋館が迫っていたのだ!
減速することなく、屋根を一部壊しながら、そのまま洋館の屋根の上に転がった。
このゲームでは、PKやフレンドリーファイアは無効だが、自爆行為はダメージが有効となっている。今の落下はその自爆行為に該当したのか、HPを8割ぐらい持って行かれた。
あぶなー!戦闘でもないのに、死に戻るところだった!ちょっと痛いぞ。
すぐに下のカイトから声がかかった。
「おーい!大丈夫か?!」
「あぁ、大丈夫、大丈・・・夫?」
ふと、目に入ったのは、煙突。
そこには何かが突き刺さっていた。いや、誰かが逆さまになって煙突に突き刺さっていた。
赤い星柄のパンツを履いた大きな尻が煙突にひっかかり、短い足が上へはみ出している。上半身は煙突の中だ。
足を引っ張って、その人物を引き上げる。
「ふぃーーーっ!助かったよー。」
現れたのは、恰幅の良い卵のようなばあさんだった。煤けた顔を拭っている。
どこかで会ったことがあるような・・・?
「お嬢ちゃんが助けてくれたのかい?」
「あぁ。俺はルー。」
「あたしは、ベラ。
飛んできた悪魔と正面衝突をしちゃって、うっかり、この煙突にはまってしまってねぇ。
痩せるまで抜け出せないかと思ったよ。ヒャッヒャッヒャッヒャッ。」
しわしわの目をつぶったような顔に笑顔を絶やさず、ばあさんは話した。
格好が黒のローブに黒のブーツ。バーバラさんの面影。それにベラという名前・・・!
「もしかして、バーバラさんの姉の、魔女のベラさんか?!」
「おや、まぁ。驚いたね。ルーはバーバラを知っているのかい?」
つぶっている目をわずかに開けて驚いたベラさんに、俺はバーバラさんと知り合ったことと崖の上に住むことになった経緯を伝えた。
「確かに、あの場所に行けたら、好きにして良いと言ったねぇ。本当にそんな人が現れたとは驚きさ。しかも、ルーも魔女なのかい!えらい偶然もあったもんだねぇ。」
ベラさんは嬉しそうに言った。
「ここで会ったのも何かの縁。それにバーバラがお世話になっているみたいだからね。ルーには、これをやろうかね。」
ベラさんから、うずらの卵のようなものを受け取った。
アウラウネの種 品質 10 レア度 4 成長すると囁く植物。魔女の力が込められている。
「ありがとう!家に帰ったら、さっそく育ててみるよ。」
「さてさて、あたしはバーバラの元へ向かおうかね。また会えるのを楽しみにしておくよ。」
ベラさんはそう言って、煙突の側に落ちていた板に飛び乗って、宙へ浮いた・・・!
その板は、どこからどう見てもスケボーだった。しかも、赤や青のド派手デザイン。それに乗るファンキーなばあさん。
その姿を見て、思わず声をかけた。
「ベラさん!俺も空を飛べるのか?」
「おやおや。何を言うかと思えば・・・。
魔女は空を飛ぶもんさ!」
微笑みながら旋回し、さらに空高く舞い上がったベラさんへ手を振り、別れた。
そして、ガゼボから、元王妃のマリアンの怒号が飛ぶ。
「こらーーーーっ!赤ずきん!人ん家に落ちてきて、屋根を破壊するな!」
俺は、野球で窓ガラスを割ってしまった時のように怒られたのだった・・・。
ベラさんは40話の悪魔と激突しました。




