43. 湖で魚釣り
家をお披露目して、レン達と調査クエストを終えた次の日。薬屋のばあさん、バーバラさんの依頼で、南の湖に来ていた。万能薬のレシピを教えてもらう条件というやつだ。
“霜降り茸”という霜柱にしか見えないキノコを取ってくるのが、その条件だった。
なんでも、夏場の暑さ対策の保冷剤になる材料を、この時期から確保するらしい。へぇ〜。で、この素材、牛肉にかけると、あら不思議。霜降り肉の味になるのだ!これは、自分用も確保せねば!バーバラさんはポーションをあげた時に、「食レポか?」とツッコミたくなるぐらいグルメだったからな。意外と、霜降り肉を食べる方が本命なのかもしれない。
この南の湖はお化け屋敷がある効果なのか、周辺の気温がいち早く下がり、霜降り茸が早い時期から生えるらしい。そして、同時期に湖の水が凍ると聞いたので、色々と準備してやって来た。
3階建の洋館であるお化け屋敷は、湖の対岸から見ると、おもちゃの家ぐらいに小さく見える。要は、それぐらいに湖が大きい。その大きな湖が、今日は丸ごと凍っていた!
早々に霜降り茸を確保し終え、凍った湖のど真ん中で料理スキルの”氷像作成”というアーツを使い、湖の氷を直径30cm幅の円柱に削る。
このところ、空腹回復効果のあるポーションを作りまくったせいか、料理のレベルが3になり、このアーツを覚えたのだ!
これは、付属効果として冷却効果があり、一瞬で冷やしたり、凍らせたりと料理スキル持ちに重宝されている。しかし、メインの氷像作成はなかなか使われることがなく、ゴミ扱いされていた。西洋料理などで、優れた料理人が氷像を作るから、アーツになったんだろう。もちろん、攻撃には使えない。
そのアーツで、湖の氷もサクッと削ることができた。微妙にMPを消費したが、なかなか便利じゃないか?
湖の氷を削って何をするかって?
決まっているじゃないか!憧れのワカサギ釣りだ!
ワカサギが釣れるかは分からないがな。
今日のメンツは、カイトと白熊のタアモだ。
カイトは、釣りスキルを持っていないので、近くでスキルなしのスケートをしている。
スキルがなくても、通常の身体能力でスケートを滑ることはできる。スキルがあると、プロ以上にできるのだ。
色々と準備して来たのは、釣りだけではない。スケート靴も、ミシェルに頼んで作ってもらっていた。
俺はスケートの経験があるが、カイトは初めて滑るらしく、さっきから転びまくっている。カイトのできない姿は珍しい。バッチリ動画を撮ったぞ!
ワカサギ釣りに飽きたら、俺もスケートをするつもりだ。
「ルー、あっちだよ。さかな、いっぱい!」
「タアモ、よくやった!」
白くまのタアモが、湖に開けた穴に顔を突っ込んでいたのをやめて、顔を上げた。モフモフな頭をわしゃわしゃと撫でて褒める。
最近、発覚したのだが、タアモは魚群探知機のように、魚がいそうなポイントを教えてくれる。
狩猟犬ならぬ、漁猟熊なのだ!
俺とタアモは、ポイントを変え、氷像作成のアーツで湖を削った。2箇所穴を開けて、削った氷を椅子にしてタアモとそれぞれ座り、釣り糸を垂れた。
外気は冷たく、息は白いが、ミシェルから買った防寒具で、動かなくてもちゃんと温い。
「ルー、きた!」
最初に釣り糸が引っ張られたのは、タアモだった。
近くで様子を見守ったが、俺の手伝いは必要なく、あっさりと釣り上げる。
釣れたのは、ワカサギだ!本当にワカサギが釣れるとは!
タアモは、「やったー!」と叫んで嬉しそうだ。
その後も、ワカサギがどんどん釣れる。40匹近くになった。
そろそろ昼も近いので、ぼちぼち切り上げようかと思い始めたその時、俺の釣り糸がしなった。
さっきまで釣っていたワカサギの要領で、釣ろうと思ったのだが、なんだかおかしい・・・そう思った矢先・・・!
ズガーーン!という氷が割れる大きな音がして、一瞬にして俺の足場が崩れる・・・!
慌てて、釣竿から手を離して飛び退く。
「タアモ、離れろ!」
注意を促しながら、俺は投げナイフを取り出す。
湖から現れたのは、闘魚というモンスターだった!
巨大な金魚のモンスターだ。全長は5mを超え、ド派手なヒレがつき、色はケバケバしい極彩色でテカっている。特徴的なのは、金魚なのに闘牛のようなツノを持っているところだ。
水族館のショーのシャチのように、上半身を氷の上に乗り上げている。
口には俺の釣り糸を加えたままで、再び、湖の中に潜る。
「俺の釣竿が!」
気付いた時には遅かった。闘魚が咥えた釣り糸に引っ張られて、釣竿も湖の中へ引きづり込まれてしまったのだ!
そして、闘魚が再び氷を割って登場した時には、釣竿を咥えていなかった・・・!
嘘だろ?!俺の釣竿は湖の底か?!
氷の穴から顔を出していた闘魚は、ツノを赤く光らせて、魔法を発動した。魚らしからぬ、ファイヤーボールのような魔法だ。火の玉が俺めがけて飛んで来る!
避けることには成功したが、火の玉は俺がさっきいたところに落ちた。そして、氷の足場が融けて、崩れ落ちたのだ!
ほんの1mだけ避けて安心してはいけなかった。足場は直径3mも崩れ落ちたので、慌てて飛び退く。
なるほど、この穴から湖に落ちると、ヤバそうだ・・・!
闘魚に袋叩きに合うか、凍傷なんて状態異常もありそうだ。
俺が投げナイフの連投で闘魚にダメージを与えたところで、闘魚は湖の中へと逃げていく。
そして、また別の氷の下から穴を開けて出て来ると、すぐに火の魔法を撃って来た!
足場を崩されるのは絶対のようだな。俺は、足場の氷の崩壊を回避するため、遠くへ飛び退く。
今度は火炎瓶を投げると、ダメージが大きく入った。火の魔法を使っても、魚は魚ということか。
闘魚は毎度、氷の穴を新しく割って湖の中から登場し、火魔法でさらに穴を開け、湖の中へと戻って行く。そのパターンの繰り返しだ。
何度目かの登場の時、ツノが赤く光らず、全身が赤くなった。
そして、ファイアーボールを警戒していた俺のもとへ、闘魚が突進して来たのだ・・・!
足は無いので、氷を滑って迫り来る!
闘魚の頭にはツノがある。闘牛のように、ツノで俺を刺そうってか?!まじかよ!
慌てて、闘牛の進路から離れようとするが、ツノが左腕をかすめ、ダメージを負ってしまった。
通り過ぎた闘魚は、そのまままっすぐ滑り、開いていた穴から湖の中へ潜っていく。
気づくと、そこかしこに闘魚が開けた穴ができていた。モグラ叩きのようだ。
まずいな。火魔法だけじゃなく、さっきみたいな突進という攻撃パターンもあるようだ。
ツノが赤くなるか、体が赤くなるかで、闘魚の攻撃を予測しながら、火炎瓶での攻撃を繰り返す。
ようやく、闘魚のHPはあとわずかというところで、声がかかった。
「おーい!俺も手伝うか?」
遠くでスケートを練習していたカイトが俺たちの戦闘に気づき、戻ってきたようだ。
カイトの出る幕はなく、倒すのも目前というところで、闘魚は湖の中へと逃げようとする・・・!
その時、どこからともなく声がした。
「ポチ、戯れは、やめなさい。」
すると、闘魚が開けた氷の穴のうちの1つから、おっさんが現れた・・・。氷にゴンと頭をぶつけて。
ずぶ濡れでゼーハー言っている。薄い髪の毛が張り付いてるのが切ない。俺の父親の家系もあんな感じだからな。他人ごとじゃないぜ・・・。
そして、この湖は今、極寒。古代ギリシャの彫刻が着てそうな白い布を巻いたような服で、左肩が丸出し。しかも、ずぶ濡れ。見てるだけで、寒いぃー!
「ゼーハー・・・。ちょっと待ってくれ。人間に化けるのが、久々でな。」
そう言って、息を整えたおっさんがビシッと姿勢を正して名乗りを上げた。
「俺はこの湖の主、精霊だ!」
おおぅ。このゲームのリアリティは素晴らしいに尽きるんだが、リアルなあまり、精霊がおっさんのずぶ濡れ姿で現れるとは。なんとも言えない哀愁がある。
「俺のペットが悪いことをしたな。」
ポチと言うのは、闘魚のことだった。
「お前の落とした釣竿は、この魔動リールの釣竿か?それとも、この木の釣竿か?」
「俺の釣竿は木の釣竿だ。
けど、その魔動リールの釣竿はすごく欲しいぞ!」
「小僧、正直者なだけでなく、なかなか見る目があるな!この魔動リールの良さに気づくとは!
あいわかった、この魔動リールもやろう!」
「するっと、もらったな・・・。やっぱりルーの運の良さのせいか?」
やったー!俺は魔動リールの釣竿を手に入れた・・・!
カイトが何やらブツブツ言ってるが。
そこから、おっさんの魔動リールの自慢話が始まった。話を聞いている限り、この魔動リールはおっさんの私物だったのか?
側で成り行きを見守っていたカイトが、おっさんの話が途切れたところで、うまいこと口を挟む。
「この湖で、運が良ければ遭遇できる精霊というのは、女神と聞いたんだが?」
「あぁ。それは夏季限定の担当だ。ワシ、冬季限定。」
冬季限定って。プレミアム食品みたいな言い方するなや。そして、まさかの交代制。
女神が「寒いのまじ無理ー」と言うので、おっさんが冬の担当になったらしい。
「あっちの女神は、なんでもかんでも金に替えるんだが。
なんだ小僧、金の方がいいのか?」
「いや、俺はこっちの方がいいや。ありがとうな!」
「うむ!大切に使うがいい!」
おっさん精霊は上機嫌で、ペットの闘魚とともに、湖の底へと帰っていった。
やはり、金の斧みたいなイベントだったようだ。
女神精霊だったら”金の釣竿”になっていたのか・・・!それならば、休日に釣りに行きそうなおっさん精霊に当たって正解だったな。実際、このゲームでは金はそこまでの価値はない。最近、ミスリルが発見されたから、ますますその傾向が強くなっている。
腹も減って来たので、カイトに声をかけた。
「そろそろ飯にしようぜ!」
「そうだな!どこで食べよう?」
「どこかゆっくりできそうなところは・・・、あ!」
凍った湖を歩いてやって来たのは、湖のほとりのお化け屋敷。
「おい、ルー。まさか、ここで昼飯にするのか?」
「逆に、ここ以外無いだろ?」
屋敷の裏庭のガゼボは湖に面していた。
お化け屋敷の攻略のときに、特別報酬をくれた元王妃の幽霊であるマリアンが、今日もガゼボに座っている。傍らには人魂がいるので、元王様のルイスもいるようだ。
「お久しぶりね。ごきげんよう。」
「よく来たな、冒険者よ。」
「久しぶり、マリアン!ルイス!」
「私達を呼び捨てとは良い度胸ですわね!
まぁ、良くってよ!死者と生者の間に身分などありませんものね。
それで、今日はどういったご用件?」
「昼飯でも、一緒にどうだ?湖で魚を釣ったんだ!」
「あら、それは良いわ!陛下もお魚はお好きですから。」
「あぁ、喜んでいただこう。」
横でカイトが呆れている。
「さらっと誘ったな・・・。しかも、本当に食べることになってるし・・・。」
釣り上げたワカサギで、天ぷらを作った。
外はサクッ、中はふわっと出来た!
それを、氷の湖を見ながら、食べる。残念ながら、お化け屋敷効果で、湖からガゼボに入ったとたん、おどろおどろしい曇り空になってしまう。まぁ、でも、広大な景色を見て食べると、うまいっ!
カイトも揚げ物は好物なので、嬉しそうだ。タアモは口にいっぱい油を付けて、がっついていた。マリアンとルイスも喜んでいる。そして、話は先ほどの精霊の話だ。
「この湖に精霊がいるなんて、知りませんでしたわ。そもそも、私、この大陸についても、ここと港町ぐらいしか知りません。こちらへ来て数年で亡くなりましたからね。」
「私に至っては、この大陸のことはさっぱりだ。旧大陸のことぐらいだぞ。」
「へぇ。旧大陸には何があるんだ?」
「いくつかの王朝があるぐらいだな。
何しろ、こちらの大陸の方が、世界の始まりの起源だと言われておる。見つかるまでは、幻や伝説と言われておった大陸だ。ドラゴンの目撃情報が何よりの証拠よ。他に幻獣や天使、巨人なんかもいると言われておる。」
俺もカイトも驚いた。天使と巨人の話は聞いたことがなかったな。
この世界、そんな設定だったのか。現実で例えると、ムー大陸やアトランティスみたいな幻の大陸だったということかな?
「あとは、勇者だな。旧大陸には勇者がいた。しかし、私が処刑される前に、勇者も新大陸に渡ったという話を聞いておる。」
元王様のルイスは、さらっととんでもないことを付け足した。
「勇者?勇者って、聖剣とか持ってる?」
「いや、勇者は拳一つで岩をも砕く戦士で、剣は装備せんのだよ。」
ほっ。エクスカリバーを持つ”ギルさん勇者説”は否定されたな。しかし、勇者すごいな。相当な力自慢だな〜。
マリアンとルイスの登場は、32話の「幽霊からの特別報酬」でした。ギルさんのエクスカリバーの話は、14話「見習い包丁と酔っ払い」に出てきました。




