42. 調査クエスト(後編)
「にーちゃん達!祭壇の遺跡にある鏡で、バリアが張れるようになるぞ!」
ラウルが空き地から逃げ出しながら、助言を残して去って行った。
「「「「バリア?!」」」」
俺、ピピ、レン、キリヤン、全員の目が輝き、心が1つになった瞬間だった。
ラウルの助言にすぐに対応する。
「ピピ、レン、キリヤンが先にバリアを手に入れるんだ!」
「え!ルーさんは?!」
「俺はもう状態異常にかかっているから、このまま迎え撃つ!」
エンガチョの攻撃によっては、キュアポーションが効かない状態異常になる。それなら、状態異常にかかってない3人が先にバリアを取った方がいい。
そう話して、渋々納得した3人は、こちらを顧みながらも、空き地の中央にある遺跡へと走った。
俺は、ぬかるみに近づき、先ほどの作戦会議の内容を検証し始めた。
まずは、投げナイフだ。エンガチョに刺さるが、HPは削れなかった。やっぱり、物理攻撃は効かないか・・・。
次は火炎瓶だ。火炎瓶を投げる前に、泥攻撃が飛んできた。泥の量がさっきよりも多く、避けきれなかったので、そのまま受けてしまう。
相打ちで連投した火炎瓶が、ぬかるみで燃え上がり、HPバーを少し減らした。
そして、3人が戻ってくる前に異変が起きた。攻防を繰り返すうちに、火炎瓶で攻撃しても、エンガチョのHPが全く減らなくなったのだ。なぜだ?!
「ルーさん、大丈夫でしたか?!」
「あぁ。だけど、困ったことになった!」
戻ってきた3人に、物理攻撃が効かなかったこと、火炎瓶が効かなくなったことを話す。
「それと、どうやら、ぬかるみが大きくなっているみたいだ!」
「「「!!」」」
最初に火炎瓶を連投した時は、炎がぬかるみを覆い尽くしたのに、今はぬかるみの方が広いのだ。初めは気のせいかと思ったが、やはり徐々に拡大している!
「とにかく、攻撃をしましょう!ルーさんは、今のうちにバリアを手に入れてください!」
レンの言葉に従い、俺は遺跡の祭壇へと向かった。
崩れた石の遺跡の真ん中の台座に、丸い鏡が置かれていた。鏡は錆びついてしまって、何も映っていなかった。
やり方は聞いていなかったが、とりあえず、その鏡に触れてみた。すると、ピローンという音が鳴って、アナウンスが聞こえた。
遺跡内でバリアを発動できるようにしますか?
俺は迷わず、Yesと答える。そして、すぐに3人の元へと取って返した。
戻る途中で、3人がすっ転ぶのが見えた。エンガチョは、泥攻撃ではなく、さっきレンが使ったような足止めの土魔法を放ったようだ。前触れのない魔法だったため、3人は防ぎ損ねてしまった。しかし、続けざまに放たれた泥攻撃は、バリアで弾くのが見えた!
キリヤンが反撃に出て、風魔法の攻撃を仕掛ける。
「エアーカッター!」
相手は高さのない泥なので、通常とは違い、上から下に落とすように放ったようだ。やるな!しかし、HPは全く減らなかった。またか!なぜだ?!
「レンくんの言ったとおりかも!ピピがまた攻撃してみるね!」
ピピは、もうシャイラットではなく、カマイタチの姿に変身していた。カマイタチは風を操るモンスターで、見た目はイタチだ。そして、シャイラットと同じく、ピピが変身するイタチは通常よりも小さかった。つまり、かわいい。
「カマイタチ!」
ピピが、カマイタチの必殺技を使う。空中に無数の白い筋が生まれ、ぬかるみ全体へ襲いかかる。すると、今度こそ、エンガチョのHPが少し減った!
そして、何度目かの泥攻撃がエンガチョから放たれる。俺もすでに3人の側まで来ていたから、攻撃対象になっていた。
4人全員が両腕をクロスして、叫ぶ!
「「「「バリア!!」」」」
俺の周りには、透明な膜が張られ、そこへ泥が降りかかった!透明なガラスに弾かれるように、泥が落ちていく。そして、5秒ほどで膜が消える。おおぅ!初めてバリアを使ったぞ!
作戦を練るために、全員で一時撤退し、エンガチョから少し離れる。
「ルーさん!みんなで試したら、範囲攻撃が効くことが分かりました!」
「やっぱり範囲攻撃か!」
「待って待って!ピピをなでなでしてる場合じゃないよ!
さっきのキリヤンのエアカッターは効いたよ?どうして?」
レンと俺でカマイタチになったピピを撫で撫でしてたら、ピピからストップが入った。皆で一斉にキリヤンを見ると、キリヤンはその視線に気づき、ピピに伸ばしていた手を、慌てて引っ込めてしまった。そして、気まずそうな顔で話す。
「・・・最初のは、泥攻撃が飛び出して来たところにエアーカッターを使った。そしたら、HPが減った。さっきのは、同じような場所に攻撃をしたつもりだったけど、効かなかった。」
キリヤンの話を聞いて、全員で考え込む。そして、ひらめいた!
「分かった!エンガチョには弱点となる”核”があるんだ!」
「「「核?!」」」
「あぁ。エンガチョは、ダメージが通るのが核だけなんじゃないか?
たぶん、あのぬかるみの中で、攻撃が届かない所へ核を逃していたんだ。」
「そうか!だから、ぬかるみ全体への攻撃が効いたんですね!」
「すごいぞ!キリヤン、お手柄だ!」
俺がキリヤンを褒めると、三白眼でジロリと睨みつけて来る。
ピピが俺とレンのやり取りをよく聞いて続ける。
「でも、どんどん泥が広がってるよ!もっと広くなったら、ピピのカマイタチも効かなくなっちゃう!」
「そうなると、ヤバイな。よし!早めに取り掛かろう!」
作戦会議を終え、エンガチョとの戦闘に戻った。
ピピは、カマイタチのまま、全体攻撃を繰り広げて、HPを地道に削る。
そして、エンガチョの泥攻撃が俺たち全員に向けて、放たれた。最初よりも広範囲に泥が飛んで来る。
「「「「バリア!」」」」
4人全員が唱えると、バリアによって泥攻撃が防がれた。すかさず、レンが魔法を返す。
「ウォーターウェーブ!」
レンはファーマーのスキルと相性が良い土魔法と水魔法の両方を取得していた。
今、放ったのは、ウォーターボールよりも広範囲な水魔法だ。それが、エンガチョに襲いかかる。さっき泥攻撃を放ってきた元の辺りに直撃した。すると、水が泥を洗い流し、出現したのは黒い球体の塊。核は本当にあった!
水魔法でのダメージはわずかだったが、そのコアが現れているうちに、俺が投げナイフを放つと、HPが1割も削れた!
その後すぐに、キリヤンも渾身の蹴りで、黒い核を飛ばした。泥は核を追いかけるように、一緒に飛び、石の塀に直撃。2割以上のダメージが入った。今までで一番のダメージだ!
その後も露わになった核に魔法攻撃を打ち込むなどをしてから、再度、作戦会議を開く。
「水魔法で核を洗い出して、物理攻撃をするのが一番じゃないかな?」
レンの意見に全員が同意する。
結局、最初の予想とは真逆で、魔法よりも物理攻撃が効いたのだ。
「オッケー!ピピ、魚になる!」
元気よく賛同したピピは、ドッペルゲンガーでテッポウウオに変身した。
このモンスターは魚の姿だが、空を飛び、口から放水して攻撃する。2つ目の町近辺にいるモンスターで、やはり通常フィールドにいる個体よりも少し小さいらしい。幼児の俺でも、小脇に抱えられるぐらいだ。つまり、かわいい。
「俺も水袋を投げたら、核を洗い出せたぞ。」
「じゃあ、ルーさん、ピピ、僕で核を洗い出して、キリヤンが攻撃!」
作戦の傍ら、相変わらず、俺とレンはテッポウウオのピピを撫で回していた。鱗がツルツルして、気持ちいい。キリヤンが手を伸ばしかけたところで、ピピが声を上げる。
「待って、待って!ピピをなでなでするのは、後でもできるよ!
キリヤンがずっと攻撃になるけど、疲れちゃわない?」
俺たち3人の視線がキリヤンへと向かうと、キリヤンは手を止める。
「・・・俺は、大丈夫だ。」
キリヤンが真剣に答えた。
「キリヤン、期待してるぜ!」
俺は励ます言葉をかけながら、テッポウウオのピピを差し出す。
「お、おぅ。」
キリヤンは戸惑いながらも、ピピに手を伸ばし、撫でた。
一瞬にして、目が輝く。口をもごもごさせているのは、笑顔になりそうなのを必死で抑えているんだろう。分かりやすいな。
3人でキリヤンをニヤニヤと見守った。
さぁ、作戦の開始だ!
「ウォーターウェーブ!」
レンの水魔法でエンガチョの球体の核が露わになったところで、キリヤンがロングシュート!
核がすごい勢いで、石積みの塀に直撃した。
塀から跳ね返ってくるうちに、核は再び泥をまとっていた。今度はピピがモンスターのスキルを使う。
「水鉄砲!」
テッポウウオは口を大きく開いて、消防の放水並みの水を浴びせる。再び、泥が洗い流されて出てきた核を、キリヤンがバナナシュート!
核はカーブを描きながら、石積みの塀に直撃。また跳ね返ってきた泥に、今度は俺が水袋を投げて、使い魔で水を放水。三度、露出した核に、キリヤンが強いシュートを放つ!
とうとう、エンガチョのHPを全損させた。
その時、泥の核がブルブルと震え、爆発した・・・!大量の泥がこちらに目がけて飛びかかってくる!
「「「「バリア!」」」」
すぐさま、俺たちは反応し、泥攻撃はバリアで弾き飛ばされ、飛び散る。
最後の自爆攻撃だったみたいだ。
無事、戦闘が終わった!
バリアを持つ俺たちが負けるはずないのである!
それにしても、キリヤンがサッカー小僧だと言うことが判明したな。
最後のシュートなんか、無回転シュートだったぞ。しかも、シュート全部が同じ所にピンポイントで当たるって、何やねん。キリヤン、意外とこの”核”蹴りを楽しんでいたんじゃないか。
作戦はいたって単純。俺たち3人が核を洗い出し、キリヤンがそれをひたすら蹴る。
ほとんど、サッカーのシュート練習だったな。
「ナイスシュート!」
「キリヤン、やったね!」
「キリヤンもすごいけど、ピピも頑張ったでしょう?」
俺とレンの称賛と、ピピのおねだりに対して、キリヤンは深くうなづいた。
エンガチョのドロップは、俺とレンが”すごく良い堆肥”。ピピとキリヤンは、アクセサリーに加工できそうな水晶だった。
ドロップの確認を終え、ピピは元の姿に戻り、遺跡の抜け穴を出たところで、ラウルがおっさんから怒られていた。
2人だけでなく、さらに4人の町人が集まっていた。
「冒険者の方々、息子を助けていただいて、ありがとうございました!
堆肥の素はラウルが持ち出したようで、面目ない。」
「にーちゃん達、ごめんな。助けてくれて、ありがとう!」
「間に合って、良かったです。」
「もう危ないことしちゃ、ダメなんだからね!」
レンが花屋のおっさんを宥め、ピピがラウルを諭した。
ラウルがなぜ堆肥を持ち出したかと言えば、不審者にそそのかされたのだと言う。
「バリアを使えるようにしてやるから、あの遺跡の中にこの土を撒いて、毎日、堆肥の素をかけてくれないか?」と不審者が言って、あの遺跡へ続く抜け穴に案内されたらしい。それ以来、不審者は の足取りは不明だ。
バリアを盾にされたら、仕方ないよなー。けど、勝手に物を持ち出すのはダメだ!
案の定、そのことで、ラウルはおっさんから説教を受けている。クエスト報酬の植物も、もらうことができた。
俺は、花屋のおっさん達の横にいた町人の1人に話しかけた。
「バーバラさん、こんな所でどうしたんだ?」
そう。集まっていた町人の1人は、薬屋のばあさん、バーバラさんだった!
バーバラさん以外の町人は、町の門番と同じ格好の兵士で、俺たちに軽く事情聴取をしてエンガチョの調査をすべく、去って行った。
「それはこっちのセリフさ。まさかあんたがエンガチョとやりあった冒険者とはね。
それで、病気にかかったりしてないだろうね?」
「あ、俺、病気にかかった。」
「この無鉄砲が!無茶なことしてるんじゃないよ。
エンガチョの病気に効く薬が必要だから、私が呼ばれたんだよ!
仕方ないね。これを使いな。」
「これは?・・・”万能薬”?」
「その病気にはこの万能薬さ。キュアポーションでは治せないんだよ。」
へぇ。こんな薬があったのか。
この間、カイトと先輩と南の森でキュアポーションの材料を手に入れた。その後、調合をしたのだが、レシピはバーバラさんの薬屋から買わせてもらったのだ。あの時にこの薬のレシピを見た覚えがないな。
「この間、バーバラさんの薬屋に行った時に、このレシピあったか?」
「ない。普段は冒険者に売ってない。町人向けの薬さ。」
そういや、バーバラさんの薬屋は町人向けの薬が色々あったな。その中にあったのか!
俺はバーバラさんににっこりと微笑む。
「このレシピ、譲ってもらえませんかね?」
「なんだい!ずうずうしい子だね。まぁ、条件によっては考えてやらないこともないよ。今度またうちにおいで。」
よし!新レシピゲット!
万能薬は、ポーションよりさらに激マズだった・・・。
「ルーちゃん、病気が治って良かったね〜。」
「あぁ。」
「あ!僕たち、そろそろログアウトする時間!」
お、現実時間で夜の8時を超えたようだ。子供はもうすぐ寝る時間だな。
「え〜!もうルーちゃんとお別れ?!」
ピピが会った時と同じように、俺に飛びついてきた。
「ルーさん、今日はありがとうございました!」
レンの笑顔に俺も笑って返す。
「ああ、また遊ぼうな。」
「はい、また!
キリヤンも最後に何か・・・」
レンがキリヤンの方を向いて、別れの言葉を促したところで・・・。
「・・・俺、」
目と鼻から、滝のように水が流れている。
キリヤンは、号泣していた・・・!
「・・・俺、
・・・今日、楽しかっだ・・・!」
最初はクソガキだったのにな。
・・・なんてピュアなんだ、キリヤン!
「キリヤン、ピピもー!ピピも楽しかったよ!」
「僕も楽しかった!」
「俺も楽しかったぞ!」
ピピがキリヤンに抱きつき、レン、俺が駆け寄って声を掛けると、キリヤンは泣きながら、笑った。
キリヤンが泣き止むまで待ってから、俺たちは記念撮影をして、笑顔で別れた。
写真はすぐにピピから送られてきた。4人とも泥だらけだ。
小学生と一緒に泥遊びして、バリアして、エンガチョを倒して、めちゃくちゃ満喫してしまったぞ。
・・・そういや、結局、クエストを受けられる条件が何だったのか、分からなかったな。
一瞬、とある仮説がよぎる。
・・・まさか、”精神年齢が10歳”なんていう条件じゃないよな?!
主人公は考え過ぎてしまいましたが、隠れクエスト条件は実は単純で、アバターの体格でした!塀の隙間を通ることできるサイズのプレイヤーに限られています。
キュアポーションの材料を取りに、カイトと先輩と南の森に行ったのは、39話です。
バリアは、残念ながら、遺跡内でしか発動できません。




