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41. 調査クエスト(前編)

 


 俺とレンは、オーネンの北門の前に来ていた。ここで待ち合わせがあるのだ。


 花屋のクエストには、レンの2人の友達も参加する。つまり、その2人もあの羊皮紙のクエストを()()()()()()()()のだ。

 あのクエストの参加条件というのは、何か・・・?レンとの共通点である栽培系スキルではないかと、俺は考えていた。クエストに参加する2人を見るまでは・・・!


「本物の赤ずきんちゃんだ!かわいい!

 ピピ、妹が欲しかったの!」


 俺に飛びついて来たのは、かぼちゃパンツを履いて、ローブを羽織った女の子だった。頭の上に赤いリボンで一つにまとめた赤毛が毛先に行くに連れて金髪へ変わっていく。ポニーテールほど長くはない髪は箒のようで、元気いっぱいの印象にぴったりだ。レンより少し年下だろうか。とはいえ、今の俺のアバターと、背の高さはあまり変わらない・・・。


 抱きついていたのをレンに引き剥がされて、その子はにっこり笑って手を握ってきた。お馴染みの通り、このゲームでは握手でフレンド登録が完了する。


「あたしは、ピピ。よろしくね!」

「俺はルーだ。よろしくな!」


 ピピは変身術士だった。栽培スキルは持っていないと言う。変身術士というのは、モンスターに変身できる職業だ。テイマーやサモナーがソロ向きで複数のモンスターをパーティー枠にするのに対して、変身術士はプレイヤー自身がモンスターに変身するため、パーティーにも向く。


 そして、ピピの横には黒い猫耳の三白眼の少年がいた。グレーの髪で肌は浅黒い。職業は格闘家で、やはり栽培スキルは持っていないらしい。あのクエストの条件は、栽培スキルではないようだな。


 少年は、こちらの自己紹介が終わっても、目を逸らして何も話そうとしない。見かねたレンが話しかけた。


「キリヤン、自己紹介しなよ。」

「・・・」


 俺はピピの真似をして、真正面から突進した!すると、キリヤンと呼ばれる少年が俺の頭を片手で鷲掴みにして、突進にストップをかける。


「何だよ!何するんだ?!」

「いや〜、ピピみたいな挨拶(ハグ)をした方がいいのかと思って。」

「そんなわけあるか!」

「俺はルーだ。よろしくな。」

「・・・」


 ピピにしたように、握手のために手を差し出すも、キリヤンは目を逸らして無言だ。


「俺はルーだ。よろしくな。」

「・・・」

「俺はルーだ!よろしくな!」

「わかったよ!」

「それで、お前は?」

「・・・」

「ニャンニャンと呼ぶぞ。」

「俺はキリヤンだ!黒豹(くろひょう)獣人だ!」


 黒い猫耳と黒い長い尻尾は、猫じゃなくて、黒豹だったのか!

 あの普通の猫よりも長い尻尾は触ってみたかったぜ。だが、それは無理だろう。警戒心を露わに毛を逆立てているからな。

 ようやくキリヤンが握手に応じたところで、レンが気を遣って小声でフォローしてきた。


「ルーさん、すみません。キリヤンは人見知りなんです。」

「気にすんな。こういう子もいるだろう。」


 実際、俺の幼馴染もこんなもんだったな。というか、レンが出来すぎなのだ。


 俺たちは自己紹介を終えたので、花屋へ向かう。

 オーネンの街のエリアで言うと、北エリアでバーバラさんの薬屋の近くだな。茅葺(かやぶき)屋根の商店街のうちの1つが花屋だった。戸口は無く、オープンな店構えだ。花だけでなく、薬草なんかも売っている。店番をしているつなぎを着た犬獣人のおっさんに、レンが話しかけた。


「すみません。ギルドで依頼を受けて来ました。」

「おお!やっと来てくれたか!」


 おっさんは待ちかねていたようで、店に入るやいなや、依頼内容をまくし立てた。


 そして、今、俺たちは、店のカウンターの後ろで麻の布をかぶり、花屋の中を(のぞ)き見ている。

 カウンターで店番をしているのは、目が悪く耳の遠い爺さんだ。この爺さんは、花屋のおっさんの父親。おっさんが配達をしている午後のこの時間帯のみ、代わって店番をしている。


 依頼というのは、この時間帯に堆肥(たいひ)(もと)を1つ盗んでいく犯人を捕まえて欲しいというものだった。万引きGメンみたいで、ちょっと興奮してしまうな!他の3人も麻の布の下でそわそわして、何度も花屋の中を覗いている。しかし、ここから堆肥の素は見通しにくいところにあり、あまり覗くと犯人に見つかりそうだった。


「シッ!」


 キリヤンが指を口に当てて、静寂を促す。

 誰か来たようだ。

 キリヤンの豹の耳と同様、俺の猫耳フードも何かの音をキャッチした。4人で黙り込み、微動(びどう)だにしない。


「じいちゃん、俺出かけてくる!」

「なんだって?」

「出・か・け・て・く・る!」

「ああ、ラウルか。行ってらっしゃい。」


 レン達よりも少し年下に見える犬獣人の子供が、耳の遠い爺さんとやりとりするやいなや、出て行った。


「なんだ〜、この店の子かぁ。」


 ピピが安堵のため息をついたところで、俺は(かぶら)っていた麻の布を()がし、立ち上がった。


「おい!今、犯人が来るかもしれないんだぞ!」


 俺が犯人に見つかることを危惧(きぐ)したキリヤンが、小声で抗議してきた。


「・・・いや、今の子が犯人だ。」

「「「!?」」」

「これを見ろ。追いかけるぞ!」


 俺の動画とマップを共有モードにして、3人のステータス画面に表示させながら、駆け出した。

 さっきの花屋の息子のラウルという子はすでに角を曲がり、1ブロック先にいる。GPSがその場所を示していた。足が速いのは、流石に犬獣人か。


 今日は調査系のクエストだと聞いていたので、E2いわく”最新技術”のコガネムシゴーレムも持って来ていたのだ。カメラとGPS付きだ。堆肥の素の近くにセッティングしたコガネムシゴーレムが、動画で花屋の息子が堆肥の素を持って行くのを(とら)えていた。そして追跡機能とGPSにより、俺のマップでラウル少年の足取りを追っていたのだ。


 もともとホームに設置してコロボックルの日常を常時撮影するためのものなのだが、今日だけこっそり配信停止して、借りて来た。なのだが、ロドリゲス、ミント、ミシェルにはこのことが即刻バレた。あの3人はコロボックル動画のヘビー視聴者なのだ!生産の(かたわ)ら、コロボックルの音楽を聴きつつ、休憩時に演劇を楽しんでいるからな。コガネムシゴーレムが俺のものとはいえ、ちょっと罪悪感が。早く戻さねば。


 ラウル少年を追って来た俺たちは、教会の近辺まで来ていた。見つからないように距離を取りつつ、たどり着いた先は行き止まりだった。


「行き止まり?」

「いや、GPSの反応はこの奥だ。」


 ピピが漏らした疑問に俺が答える。

 隣ではレンが、石積みでできた(へい)(すみ)から隅までまで、よく見ている。ずいぶん古い石積(いしづ)みだ。


「ここです!」


 レンが塀の中の1つの大きな石を指差す。さっきのカメラの映像で、ラウルは塀の石を1つ取り外していた。レンがそれと同じと思われる石を見つけたようだ。その石を持ち上げようとするも、持ち上げられない。獣人のラウルの方が力があるためだろう。俺も加勢しようかとした時、キリヤンが前に出た。


「どけ。」


 手をかけ、間もなくして石が持ち上がった!キリヤンは、獣人で格闘家なのもあり、筋力値が高いのだろう。

 その塀に出来た隙間は、俺達の中で一番大きいキリヤンがギリギリ通れる大きさだった。


 俺達4人が石積みの隙間を()つん()いで通り抜け、背の高い木々を通り過ぎた先は空き地だった。


 そこは、余裕で野球が出来そうな広さだった。原っぱとぬかるみが所々にあり、たまに(こけ)むした四角い石が散らばっている。


 空き地の中央付近には、(くず)れた古い石畳があり、丸いオブジェが置かれた台座があった。石積みの塀よりも古く感じた。どうやら何かの遺跡のようだ。このゲームでは、古代の失われた文明の遺跡というのが度々出て来るらしいから、これもその1つなのだろう。


 その石畳の周りには、ラウルを含め、5人の子供がたむろしていた。

 そして、ラウルは堆肥の素をぬかるんだ地面に()いているところだった。


「なんだ、お前ら?」

「僕たちは、君のお父さんに堆肥の素を盗んだ犯人を捕まえるように頼まれた冒険者だ。」


 レンが毅然(きぜん)と告げた。


「げ!」

「堆肥の素を持って行くのを、ピピも見たんだからね!」


 ピピが指摘すると、ラウルは一瞬気まずそうにしたが、開き直った。


「捕まえられるものなら、捕まえてみろ!」


 そうラウルが言い放つと同時に、他の子供たちも一緒に散り散りに駆け出す。

 ラウルが脱兎(だっと)のように逃げ出すのを、すぐにキリヤンが追いかける。犬獣人相手とはいえ、キリヤンはレベルを上げた黒豹獣人だ。すぐにラウルを追い詰め、あと1歩というところまで来た時だった。


「バリア!」


 ラウルが両腕をクロスして叫ぶと、球状の光の膜が張られ、掴みがかったキリヤンの手を弾いた・・・!

 バリアだと?!このゲーム、そんなのもあるのか!


「へへ!」


 ラウルが得意そうに笑い、再び逃げて行く。

 今度は俺が曲がり草を走るラウルへ投げつけた。届きさえすれば、巻きついて捕獲することができるはずだったが・・・!


「バリア!」


 再び、ラウルの周りに球状の光の膜が張られ、曲がり草も弾かれてしまった。

 次はレンが土魔法を唱えた。


「アースバインド」


 ラウルの足元の土が盛り上がり、拘束しようとする。


「バリア!」


 なんと、バリアは魔法までも霧散させてしまった!防ぐのは物理攻撃だけじゃないのか?!


「ドッペルゲンガー!」


 ピピが叫ぶと、頭につけていた赤いリボンの中央の石が光る。宙返りをして着地する時には、ピピが”シャイラット”というモンスターに変身していた。ピピの赤いリボンだけは頭に残っている。

 シャイラットは、東の草原のレアモンスターだ。たまにしか遭遇しない上に、素早いため、すぐ逃げられてしまう。全長50cmほどで、ハムスターを二足歩行させたようなモンスターだ。その上、カンガルーのようなジャンプをするので、可愛いと評判だ。ピピが変身したシャイラットは、さらに小型で、バレーボール大だった。

 ピピは、素早さを武器にあっというまにラウルへ接近した・・・!


「つ〜かまえたっ!」


 ピョーンとジャンプして、ラウルの胸に飛び込む!


「バリ・・・かわいい!」


 ラウルはバリアを唱える前に、とっさにシャイラットのピピを抱っこしてしまう。


「今だ!飛び掛かれ!」


 俺が叫び、残りの3人でラウルへ飛びかかる。

 俊足なキリヤンが一番乗りでラウルを拘束。さらに、レンが違う方向から飛びかかって来ていた。


 捕獲完了も間近と思われたその時、空を切る音がした。音がした方を見ると、(どろ)がこちらへと飛んで来ている!全員の直撃を避けるために、一番近い所にいた俺が、その泥に立ちはだかる。ベチャっという音とともに重い打撃を受けると、HPは減り、状態異常が発生していた・・・!


 ラウルを(かば)いながら、その泥が飛んで来た方から遠ざかる。

 俺がポーションを飲みながら様子をうかがっていると、ラウルと一緒に逃げ出した子供達が悲鳴を上げた。


「エンガチョだーーーっ!」


 子供達がそう呼んで、怯えた視線を送った先には、先ほどラウルが堆肥の素を撒いていた()()()()だ。そのぬかるみは不自然に(うごめ)き、敵を示す赤いHPバーと”エンガチョ”と言う名前が表示されていた!

 俺は大声で、遠くのラウルに向かって問い掛ける。


「ラウル!エンガチョって言うのは何だ?」

「・・・エンガチョは病気の元・・・!」


 他の子供と同様に、怯え始めたラウルが答える。

 それでか・・・!俺のステータスには、”疾病(しっぺい)”という初めての状態異常が表示され、HPが徐々に減り始めたのだ。しかも、キュアポーションを飲んだのに、状態異常から回復しない。レンが俺を気遣(きづか)う。


「ルーさん、大丈夫?」

「あぁ。ラウル達は帰らせよう。

 レン、ピピ、キリヤン、戦闘いけるか?」

「「うん!」」


 レンとピピが元気よくうなづき、キリヤンは無言でうなづいた。

 俺達は、エンガチョが近づいて来る様子がないのをいいことに、作戦会議を始めた。


「しかし、あの泥はなるべく喰らいたくないよな。」

「そうですね。それに、あのエンガチョって、斬ったり蹴ったりして効くのかな?」

「確かにな。じゃあ、一発目だけ物理攻撃を試してみて、あとは魔法攻撃なんかを中心にするかな。」

「・・・ルーちゃん、レンくん、あたしをなでなでしながら、作戦会議しないでよー!」


 俺は、真面目に作戦会議をしながら、シャイラットになったピピの背中を撫でていたのだ!俺のもふりテクニックは、タアモと八木さんから定評があるんだぞ。レンは、もふり上級者なことに、尻尾を撫でていた!

 ピピが禁止しなかったとはいえ、獣化した幼女を撫でるのは、まずかったか。俺とレンは、黙って撫でるのを止める。


「なでなでされたら、眠くなっちゃうの!」


 ダメじゃなかったようだ。

 ピピから許可が下りたところで、キリヤンがこっそりとピピへと手を伸ばした、その時。


「にーちゃん達!祭壇の遺跡にある鏡で、バリアが張れるようになるぞ!」


 ラウルが空き地から逃げ出しながら、助言を残して去って行く。



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