39. 高難度クエスト
「津世木くんは、随分とはっちゃけてるねぇ。
私が大学の頃の友人を思い出すよ。彼らは、今は丸くなったがね。」
そう曰ったのは、俺の大学の教授だった。
温厚で人気のある教授の大学時代は、バブル全盛期。
その話を聞いた生徒たちの間で、先輩のあだ名は、”バブリー”や”パイセン”になった。
たまに、どんな稼ぎ方をしたのか怪しむぐらい、羽振りがいいことがあるからな。
ちなみにその教授から俺は「本条くんは、今時珍しいぐらい付き合いがいいね。」と言われた・・・。多分、先輩によく連れ出されるからだろう・・・。
「ルー、聞いてくれ!
このHカップ☆アバターになってみて発覚したんだが、Eカップ以上でウェスト58ってめちゃくちゃ奇跡的なクビレなんだよ!
この実寸感覚を知ってしまうと、カレンちゃんの公式スリーサイズに疑惑をかけざるを得ない、俺のジレンマ!」
「その怪しい手つきをやめろ!周りから白い目で見られてるのが分からないのかっ。」
そして、先輩の爆弾発言に、このオーネンの南門近くに集まっていた一部の男性陣がざわめく。
カレンちゃんは、先輩のお気に入りの巨乳グラビアアイドルである。
「いや、もしかしたら、あっちゃんも、イーちゃんも、πちゃんも、皆・・・?!
うぉーー、なんというパンドラの箱を開けてしまったんだー、俺は!」
自業自得である。そして、俺も知りたくなかったぞ、パイセン!
「でもよ、気づいたんだ・・・。
何カップでも、ウェストが58じゃなくても、女性は素晴らしいと・・・!」
綺麗にまとめたつもりか?!それはストライクゾーンが広いだけだろ!
しかし、Hカップ・ウェスト58の女性姿の、今の先輩が発した一言は、ここにいた女性プレイヤー達から称賛の拍手が送られた・・・。まじか。
そこへ、カイトがツッコミを入れて遮る。
「馬鹿やってないで、俺たちに用事があったんだろ?」
「おう。最近、みんなこのゲームにハマって、遊んでくれないんだよ。
てなわけで、俺もゲーム始めたった!
お前ら、今からどっか行くんだろ?俺も連れてけ。」
なんだよ!ただの構ってちゃんかよっ。通常運転だな!
今日は、この間のお化け屋敷でブラインドを食らった経験から、状態異常回復のキュアポーションを自分で作ることを決めていた。あと、ゲーム内の二日酔い対策だな!だから、その材料もある南の森へ来たのだ。
「納得いかねぇ〜〜!」
「俺も、こいつに関しては納得行かない!」
「まぁまぁ、ルー坊、カイト。これが、世の中の現実ってもんよ!」
さっきから、獣型や昆虫型のモンスターと戦っていたのだが、先輩は3日前に始めたばかりにも関わらず、レベルが10だった・・・!
俺はレベル4。俺の方が先に始めたのに・・・。ぐぬぬぬ!
よくよく聞くと、バニーガールのアバターで引っ掛けた男の中から高レベルな奴を選んで、レベリングしてもらったらしい・・・。先輩ェ。
しかも、先輩の職業はギャンブラーなのだが、スキルがすごかった!
トランプカードを使ったランダム召喚なんだが、カードの数で兵隊が出現する。レベルの制限で「5」まで、つまり5人までの召喚だそうだ。そして、J・Q・Kが出ると、範囲魔法攻撃になる。もちろん、強い攻撃は出現確率がとても低い。ジョーカーが出るとハズレで、何が起こるか分からないらしいけど、切り札攻撃っぽくて、いいかもな。
さらに、魔法は白魔法、つまり、回復やバフなどの魔法を取っていた。
そして、武器はモーニングスターでガンガン殴る。
「なんだ、ここ?」
俺たちの前に建っていたのは、2階建の砦だった。
「南の森にこんなのあったかな?」
攻略クランにいるカイトも知らないようだ。
「まぁ、入ってみるベぇ。」
先輩が警戒もせず、気軽に扉を開けて入る。
「何奴?!!」
黒いカラスの獣人で、兵士の格好をした3人組がそこにいた。
そして、俺たちはあっという間に捕縛された・・・!
レベル19のカイトまで一瞬だ。どういうことだ?!
俺たちはロープで巻かれて、2階に連れてかれ、床に転がされる。
そこにいたのは、1本の角を頭から生やした、青みがかった紫の肌の魔族・・・!
数は少ないものの、モンスターのさらに上の強さを持つというのが魔族だ。
性格は、気まぐれで残忍な快楽主義となっている。
「シャイロック様、怪しい3人組を捕まえました。」
「ほぉ。俺がいる時に来るなんて、マヌケな奴らだ。」
そう言って、俺たちを見て、値踏みする。
「まぁ、この程度の強さでは、何もできんだろう。」
「・・・しかし!」
「そうだな。ただで解放するのはシャクだ。
・・・おい、お前ら、何か一発芸でもやってみろ!」
ことも無げに言われた。・・・一発芸?!
「思い出した・・・!
これは、南の森のクエスト“シャイロックのお気に召すまま”だ。
成功率3%以下の高難度クエストと言われている・・・!」
やっと思い出せたことを悔しがりながら、カイトが言った。
はぁ??高難度クエスト?これが?
一発芸って、なんだよ、そりゃ。いきなりやれって言われてもな。
「よし、俺がやろう!」
頼もしく、名乗りを上げたのは先輩だ。
「・・・そいつの縄を解いてやれ。」
「っは!」
シャイロックが先輩に視線を寄越して、カラスの獣人に縄を解かせた。
「魔法少女やります!」
先輩は手を上げて、元気良く言った。
ステータス画面から、ネット検索で音楽を引っ張ってきて、ここにいる全員に聞こえるように流す。
・・・これは、りんが小学生の時にハマってた、魔法少女の変身の曲だな。
そして、先輩はくるくる回って、変身の呪文を満面の笑顔で叫んだ。
「ミラ♪クルクル☆パー!」
何しろ、今は美女の姿なので、ちゃんとハマっては、いる・・・。しかし、俺とカイトの目には、どうしても先輩の男の姿で見えてしまうのだ・・・。キャラがにじみ出過ぎなんだよ!
先輩は回復魔法を発動させて、変身時のエフェクトを再現しつつ、魔法少女お決まりの換装シーンに突入した。
バニーガールから一瞬で真っ裸になったのだが、なんと、胸部と下半身の大事な部分がビキニ型に透明になって見えなくなっているのだ!
透明になった部分は、そのまま後ろの景色が見える。
どうやってるんだ・・・?!
しかし、この大事なところが、見えそうで見えない感じ。
回復魔法のキラキラも手伝って、まさに魔法少女の換装そのものだ!
そして、さらに状態異常回復の魔法で閃光を放ったと思ったら、そこには、魔法少女の衣装を着て、完璧にポーズを決めた先輩がいた・・・。
ウィンクしてやがる・・・。
なんなんだよ、これは・・・。
「はーっはっはっはっは!興が乗ったぞ。
そいつらを解放してやれ!
なかなか面白かったから、お前たちにはコレをやろう。」
ピローンというシステム音とともに、アナウンスが流れた。
「クエスト“シャイロックのお気に召すまま”を達成しました。パーティー全員に報酬が与えられます。」
「やったぜ!」
先輩はガッツポーズをして、嬉しそうに声を上げている。
どこかで見たような石の箱に入っていたのは、鈍い銀色の拳大のイガ栗?いや、トゲが太めだから、小さいドリアン?
鋼の心臓 品質6 レア度6 高位悪魔の毛の生えた心臓から作られた。瀕死時の攻撃力30%増。使用回数:5回
「まじかよ。このレア度のアイテムをほんの数分で手に入れるとか・・・。」
カイトも呆れ顔である。
高難度クエストの成功率3%はどこ行った?!
俺は今の光景を見ていて、AIが発達しても残る職業に”宴会部長”があるという笑い話を、なんとなく思い出していた。
「知らなかったのか?
このゲーム、真っ裸になると、放送禁止部分があの透明ビキニになるんだぜ!
それで、この一発芸を思いついたんだ!」
ドヤ顔である。
通常の着替えは、システム画面で装備名を入れ替えれば、一瞬で済むのだ。
あの変身は一度真っ裸になってから、魔法少女の服に着がえていたというのが、種明かしだった・・・。
つまり、裸踊りをしただけなのだ・・・!
「なんで、そんなこと知ってるんだ・・・。」
「初めてログインしたら、まずは真っ裸になって、アバターがどうなってるか見るだろ?
まぁ、予想はしていたけど、肝心なところが見えないんだよな!しかも、触るのにも制限があってな〜。」
うん、実に先輩らしい理由だった。初ログインしたら、真っ裸になることを当然のように言ってくる。
ちなみに真っ裸を試したのは、本当にログインした後すぐで、開始時にオーネンの港に着く前の開拓船の中らしい。俺は、あの開拓船の上で、VRとサウンドに感動したんだがな!
「あの魔法少女の服は?」
「あれは、ファンが俺にプレゼントしてきたんだけど、インベントリの肥やしになってたやつ。」
ファンと言うのは、その偽ボディで悩殺した奴らのことか。しかも、この3日で・・・。
「あの魔法少女の変身ポーズは・・・?」
あれは、ちょっと練習したレベルではなかった。
「それはな、聞くも涙、語るも涙な、俺の失恋と関係していてな・・・。
ここあちゃんの前の前に好きだったハルちゃんが、あの魔法少女の大ファンだったんだ。
だから、一生懸命振り付けを覚えた!
だが・・・、ハルちゃんは実は、男の娘だったのだ・・・!
・・・死闘にも思える葛藤の末、一つの答えにたどり着く・・・。
俺の恋愛対象はやっぱり女の子だと・・・!
くっ・・・!泣いてないぞっ!」
「だから、振り付けを覚えた」辺りから、付いていけないんだが・・・。
うん、パイセンらしい!
クエスト “シャイロックのお気に召すまま”の達成条件は、
「羞恥心がゼロ(脳波測定)+AIと運営のさじ加減」というおふざけクエスト。
羞恥心ゼロの難易度が高く成功率が低い。
主人公が「開拓船の上で、VRとサウンドに感動した」回は2話でした。




