3. 初めての冒険…からの、爆誕?!
俺は港を出て、カイトから聞いていた冒険者ギルドに向かった。受付嬢は、美人揃いだったのはお約束。まぁ、NPCだけどな。ここでサクッと登録を終えて、次に向かうのは、道具屋。調合や農業などの道具の値段を確認するためだ。
だいたい3,000Gぐらいか。装備も考えると、10,000G以上必要かもしれない。初期の所持金は1,000。圧倒的な金欠・・・、ゲームでも金欠とか、泣けるぜ・・・。
今のステータスと装備を考えると、資金稼ぎは、町中でバイトみたいなクエストぐらいしかできないな。でも、せっかくだから、フィールドに出たい!
最初の死に戻りは、初回ログイン特典でデスペナルティは無いから、フィールドへ出てみることにした。
東門を抜けると、開けた草原にポツポツと冒険者が見えたが、そこまで多くはない。意外だな。今も初ログインする人が増えているから、この辺は混んでると思ってたが。
初心者向けの狩場だけあって、一角うさぎやスライムなどの弱い魔物を見かけるが、見通しの良い草原地帯だから、敵を遠巻きに避けて通ることもできた。数が多い敵はなるべく避けて、この先の森で、できる限り素材を採取するのが目標だ。
今の俺の装備は、白っぽい生成りのローブ、布の服、皮の靴という初期装備。同じく初期装備のヒノキの杖はイベントリの中。代わりに石ころを手に握っている。
ここで戦闘用のスキルを1つ取っていた。’投擲’だ。
攻撃魔法も考えたが、MPがなくなったら戦えなくなるのはキツいので、今回はやめた。
剣術も楽しそうだけど、高校のときに野球をやってたのもあって、投擲を取ってみたくなったのだ。このゲームだとどれぐらい投げられるのか…?スキルほどのプラスではないけど、現実世界での身体能力は動きに反映されるという。
それに、今のステータスだと、筋力や敏捷さが必要な接近戦じゃなく、器用さがものを言う弓や投擲などの遠距離攻撃が良いと思ったんだ。
草原では、石ころや植物を片っ端からイベントリに入れている。石ころは硬さや大きさにも違いがある。本当にこの世界は細かいな。やりこみがいがある。
20mほど離れたところに灰色の毛皮の一角うさぎを見つけた。草むらに身を隠して狙いを定めると、シューティングゲームのような照準が視界に出現し、芝犬ほどの大きさのうさぎをロックする。それを合図に石ころを投げた…!
よし!当たった!現実よりもコントロールとスピードが上がってるのが爽快だな!
うさぎがこちらに気づいたところで、すかさず二投目。同じぐらいの石ころを投げたのに、一投目の方がダメージが入ったのは、不意打ち攻撃だったからだろう。
うさぎが近づくにつれて、緊張感が増す中、三投目と四投目を続けて投げる…!
四投目はとうとう避けられたが、うさぎが遠ざかるように避けたので、襲いかかってくる前に五投目がヒット!
うさぎは光となって消えた…!
よっしゃ、初勝利!
ドロップ品は、一角うさぎの皮だった。
うーん、この距離で一角うさぎをギリギリ倒せるとなると、2匹以上が相手とか、もっと素早いモンスター相手は厳しいな〜。戦闘能力はこれから上げればいいか。今はただ、どこまで進めるかだな。
道中、単独でいた一角うさぎを2匹だけ倒して、ようやく森に差し掛かる。
道が整備されてない森の中に入ることなんてめったに無いから、ワクワクしてきた!
足を踏み入れると、土や木々、花の香りが混ざった、森特有の香りがした。
広葉樹の広がる森で、たまに毒々しい紫の葉をもつ木があったり、見たことがない動物が視界を走ったり、蝶がひらひら飛んだりしている。魔物じゃない動物や昆虫もいるみたいだ。
ここへ来て、一角うさぎに加えて、ゴブリンやスライムというRPG定番の魔物も出てきた。
ゴブリンは醜悪な顔付きだけど、なかなか人間味のある行動をする。群れることが多いから、今回は茂みに隠れて、戦闘は回避だ。しかも、今の俺だと、ゴブリンよりも小さいんだよな…。
スライムは、有名なキャラとは違って、目も口もない水の塊だった。ちょっとがっかりしたけど、愛嬌があると倒すのに躊躇しそうだから、これで良かったかもな。俺の投擲の精度も上がり、スライムの核に一撃で当てる確率も上がってきた。
ワールド・フロンティアは、切りつけても流血のグラフィックはないし、魔物を倒すと光の粒子になって消えて、ドロップを落とすだけなので、残酷なシーンはない。
しばらくすると、野生の果物がなっているエリアに出くわした。クランベリー、イチゴ、ザクロが多いみたいだな。所狭しと実がなっている。サイズは、どれもリンゴ大だ。これは、自分の食事用に確保しよう!
そこへ、茂みから「ウホ ウホ」と声が聞こえて、赤いゴリラが2匹現れた。ゴリラと言っても、サイズはオランウータンぐらいなのだが…、
「あれは、レッドコング!?」
思わず叫んでしまった。
さっきギルドで軽く調べた中で、警戒していた魔物だったのだ!まさかこんなに森の浅いところで出くわすとは!
距離を取りながらも、イベントリから石ころを取り出し、逃げる方法はないか考えていた。それくらい、今の俺では倒すのが厳しい…!
すると、レッドコングが地面にあった物を拾って、投げつけてきた!
わずかにダメージが入ったが、何を投げた・・・?!豪速球で見えなかったぞ!
ゴリラが投げるものと言ったら、ウ○コしか思い浮かばないんだが・・・。
当たった胸のあたりを見ると、べったり赤く染まっている!・・・血・・・?!ではない、クランベリーだ・・・!
そして、もう1匹のレッドコングが両手で胸を叩き、ゴリラお決まりの威嚇をした。胸を打つたびに大太鼓を打つような音がする。腹に響く音が落ち着かない気分にさせる。デバフ効果なんかは、無さそうだ。
ザワザワとした木の葉がこすれる音が、そこかしこの木の枝からする。
周囲を警戒していると、四方八方の上方からビュンビュン物が飛んできた。
木の上には10匹ものレッドコングがいて、俺に向かって物を投げつけてくる!もしや、さっきのは、威嚇ではなく、仲間を呼ばれたのか?!
たまに石ころが混ざっていて、HPを1割ほど削られる!
たまらず、正面の2匹から背を向けてダッシュしたが、クランベリーやザクロや石ころの集中砲火を浴びた…!視界も悪くなって、つんのめって転び、自分のHPバーがレッドゾーンにとっくに突入していることを知る。それに驚いているうちに、さらに何撃か受けたのを感じたところで、俺の視界はブラックアウトした。
気付くと、オーネンの港の広場にいた。最初に船で着いたところだな。
はぁ。これが死に戻りか…。
覚悟していたとはいえ、しょっぱい気持ちになるもんだな…。
今回は、デスペナルティがないのは良かったけど。
歩き出すと、初ログインと思われる初期装備の人達がちらほら見え、周りの喧騒が大きくなるのを感じた。
気のせいか…?視線を感じる気がする。
とりあえず、港を離れて、次の目的地に向かおうとしたのだけど、やっぱりすれ違う人にジロジロ見られてる気がする。主にプレイヤーから。
視線に居たたまれなくなって、ローブに付いてるフードをかぶった。
そこで周りのザワつきが、さらに高まる。なんだ…?
「ちょっとぉー!ソコの赤ずきんちゃん!!」
鼻声の野太い大声が聞こえた。気になって振り返ると、筋肉隆々で浅黒い肌の2m近くある大男のプレイヤーが立っていた。そいつは、大男というだけではない。プラチナブロンドに、前髪はパッツン、さらに頭の高い位置にツインテールという、インパクトが半端ない髪型をしていた。服はヒョウ皮のワンピースに、厚底の黒いブーツを履いている。ノースリーブでミニスカートだから、二の腕と太ももの物凄い筋肉が丸見えで、恐怖すら感じるぞ。
うそん。予想外なキャラきたー。
このゲームでは、性別も容姿も選べるから、このタイプは、女性の性別を選ぶのかと思ったんだけど、世界は広いなー(遠目)。むしろ、これだけ自分を突き通せるのは、スゴイ…のか?先輩に新宿2丁目に連れてかれて揉みくちゃにされた経験が蘇るぜ…。
それにしても、なんつー強烈な画だよ…。目が…目が…!
自分が呼びかけられたわけではないので、そのツインテールマッチョを見て、再び前を向いて歩こうとした。
「ちょっとぉー!アナタよ!アナタ!」
そう言って、そのツインテールマッチョが俺の前に周り込んできた。
「へ?俺…?」
ぽかんとした顔でツインテールマッチョを見返す。
「そーよぉ!アナタよ!
アタシは、ミシェル☆
防具屋やってるんだけど、アナタのその赤いローブが気になっちゃって!!
見せてくれないかしら?」
すごい勢いで体を乗り出してきて、両手を組んで祈るように言う。目ヂカラが、顔面力が、スゴい…!
ハッ、気を取られている場合じゃなかった。
今、この人、なんて言った??赤いローブ??
俺は自分のローブを見下ろす。すると、確かにローブが赤い。初期装備でベージュっぽい白の生成りのローブを着ていたはずなんだが、はて…?
俺はステータスを開いて、装備を見たが、やはり生成りのローブを装備していた。
とにかく、ミシェルは防具屋としての純粋な好奇心で聞いているようなので、ローブを見せた。
「ウソッ?!
これ、初期装備の生成りのローブじゃナイ?!
生成りのローブに赤なんてあるの?!」
「いや〜、俺も分からなくて。気付いたら、赤になってて。
あ、でも!さっきまで東の森にいて、レッドコングにクランベリーとかザクロを投げつけられまくったから、それかな?」
考えてみると、それしか原因がないな。
俺が、ローブが赤くなったと思われる経緯を、順序立てて話すと、ミシェルが唸る。
「アタシも、鮮血のヴァルキューレの赤い装備に憧れて、赤い素材で染めまくったんだけどねっ、クランベリーもザクロもそこまでの染色にならなかったのよねー⤵︎」
テンションが下がったところで、急にミシェルの顔つきが変わる。
「いや、待てよっ!!」
と劇画調のキリリとした顔に、ドスをきかせた低音の野太い声を乗せてくる。
「もしや、材料の量と染め具合に関係が?!
東の森の素材で色を定着させやすいものがある可能性も…?
初期装備の耐久が高いのも関係あるかもしれないわね…!
それに、死に戻りって時間の経過はどうなるのかしら…?」
と、真剣に色々考え始めた。
レッドコングに何発ぐらい、どんなものの投擲を食らったかなどの質問に答えてあげたら、ミシェルが満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう!!
赤ずきんちゃんのおかげで、赤いドレスができそうだわ♪
装備作るときは、アタシの店に来なさい!
サービスしちゃうから♡」
ミシェルは最後まで押せ押せのまま、握手してから、スキップする勢いで帰って行った。
このゲームでは、握手などをすると、フレンド登録がされる。もちろん、断れるが。
Oh〜,今のでミシェルとフレンド登録されたぜ…。俺って流されやすい日本人だな…。
てか、赤ずきんちゃんて、俺か…!!
ミシェルの話からすると、赤い装備はまだ珍しいらしく、注目されてたんだろう。この容姿と相まって、赤ずきんちゃんとしてな(苦笑)
洗ってみたのだが、結局、ローブは元の色に戻らなかった。
なんということだ・・・。
初期装備はしょぼいが、耐久は無限になっている。そのため、装備を喪失しないのは良いんだけど、赤い色が落ちないとか…。
ワールド・フロンティアよ、こういうところはリアルでなくてもいいんだぜ。
赤ずきんちゃんの爆誕である。




