38. 先輩登場!
TS(性転換 /transsexual)キャラが出ます。苦手な方はご注意ください。
痛ぇ。頭がガンガンする・・・。
昨日の夜は、現実の方で飲み会があった。
先輩が「バイト先のバーでアブサンを手に入れた」と、宅飲みに持ち込んで来た。
アブサンというのは、ヨモギから作った緑色のロシアのお酒だ。
ちびちびと味わっていたところへ、先輩が今度は「ゲームをしよう」と言い出す。
出てきたのは、かき氷機とシロップである。
アブサンのかき氷と通常のシロップをかけたかき氷を、見た目だけでどちらか当てるのだ。
最初はアブサンの緑に似ていそうなメロンシロップを使っていたのだが、アブサンを氷にかけたら、白くなった。そこから、みぞれかき氷とアブサンのかき氷を見分けるゲームの始まりだ。アブサンのかき氷に当たり続けると、とんでもなく酔いが回る。
最初はかき氷とアブサンという組み合わせを楽しんでいた俺たちだが、その後からが地獄である。食べて行くうちに、アブサンの燃えるようなアルコールと、かき氷を食べた時のこめかみにキーンとくるのが、強くなって行く・・・!
こういうゲーム定番のテキーラでさえアルコール度数は40度なのに、アブサンは70度・・・。最終的には屍累々だ。
まさにバカの極み。二度とやらないぞ!
頭痛が弱まって、ようやくWorld's Frontierにログインできた。
「ルー、ゲンキ、ナイ」
「・・・若ぇのに、どうした?」
ゴブリンのジャックと、先日、仲間入りを果たしたフランケンシュタインのヴィクターが心配してくれる。コロボックル達は、楽器の音を抑えめにしてくれた。優しさが沁みるぜ・・・!ちなみに、ヤギ一家は通常運転で、草を食んでいる。怖ネコはどこか行ってるな。
「飲みすぎてなー。」
「・・・飲んだ時はキュアポーションだ。アルコールを出しやすくする・・・。」
ヴィクター、そのおばあちゃんの知恵袋っぽいの、すごくいいぜ!
俺はさっそくキュアポーションを飲んで元気になり、ホームを後にした。
今日は、カイトと南の森で狩りの予定だ。
オーネンの南の門で待ち合わせをしている。
南の門に行く途中で、人だかりがあった。野次馬根性でそこへ行くと、カイトもいた。
「よぉ、カイト!」
「よぉ、ルー。」
「何かあったのか?」
「さっきまでWFタイムズの生中継をしてたらしい。今も、放送に出てた”すごいプレイヤーがいる”って騒ぎになってるから、ちょっと見てみたんだが・・・。」
苦々しい表情だ。カイトがこういう顔をするのは、珍しいな。
俺も見ようとするが、今は幼児である。ジャンプしても見えない!
「カイト、俺を持ち上げてくれ!」
「ははは。その姿だと、見えないよな。」
笑いながら、カイトは俺を持ち上げた。高い高いをされている状態だ。
「カイト、もうちょい上!」
その時、ざっと人波が引いて、渦中の人物が現れた。
「もしかして、カイトさんですか!」
そう言って現れたのは、170cm超えの女の子だ。
姿がすごい!なんと、うさぎ獣人のバニーガールだった!
黒いウサ耳に金髪ロングパーマ、網タイツに、かかとの高いハイヒール!
赤い口紅をして、口元にはほくろという絵に描いたようなお色気美人。
極め付けが、すごい胸の谷間!ありえないほどの巨乳・・・!
あ、危ない・・・!あまり見過ぎるとセクハラになるところだった・・・。
これは伝説の職業の”遊びに・・・” あ、違った!よく見ると職業は"ギャンブラー"だった。
なるほど、これは人だかりができるわけだな。
カイトは、持ち上げていた俺を下ろすと、静かにその女性の顔を見返す。なんだか剣呑な雰囲気だ。
「そうだけど、どちら様ですか?」
「やっぱり〜!
カイトさん、ぜんぜん変わってないんだもん〜!
さ・す・が、イッケメ〜〜ン!
すぐ分かっちゃったぁ〜!
あたし、ここあ☆
あたしと、パフパフ♡しませんか〜?えへ☆」
そう言って、バニーガールはカイトに握手を求めてきた。
周りがざわつき、男たちの口から「パフパフ」「パフパフ」という言葉が聞こえる。
あ、これ、あかんやつや。鈍い俺でも分かった。
俺の後ろのカイトから発せられる温度が氷点下まで下がる。しかし、意外にもカイトはバニーガールの握手を受け入れた。
「何やってるんだよ?シンゾウ・・・!」
カイトが凍てつくような冷たい口調で言う。相当お怒りなんだが、チャットに切り替えて、相手の本名をバラさない冷静さは保っているようだ。いや、むしろ、そのために握手したのか?!
「・・・おい、いくらなんでも、バレるのが早すぎるだろ!なんでわかった?」
早くも、バニーガールは、正体を現した。
VRで創られた女性の声がさっきよりも低音になったのだが、本性を知っているので、もう粗雑な男の言葉にしか聞こえない。こいつは、まさに昨日一緒に飲んでいた大学の先輩、津世木 心蔵♂だった。
「なんでも何も、キャラがだだ漏れだ。
それにその名前、最近ハマってる女の子の名前だよな?」
俺も”ここあ”っていう、先輩が騒いでいたキャバ嬢の名前でわかったけど、カイトは最初から何か勘付いていたようだな。姿はぜんぜん違うのに、なんでだ?
ちなみに、姿は本物のここあさんには似ていない。姿まで似てたら、引くけどな!そして、実際のここあさんは先輩のことがうざくて、源氏名を変えてしまったらしい。 先輩はここあさんが急にいなくなったと大騒ぎだ(笑)
「く〜〜〜、それが敗因か〜!
これだから、巨乳に目もくれないイケメンはっ!
先輩を気遣う気持ちはないのか?!
お前、生意気だゾ!」
生意気だぞって、いつの時代のいじめっ子のセリフだっ。
「いやいや。そもそも、お前留年して、もう先輩じゃないだろ?」
カイトが真顔で切り返す。そうなのだ、先輩は今年留年して、俺たちと同じ学年になっていたのだ。
俺?俺はなんとなく、クセで呼んでいる。
「お前は本当に可愛くないよなー。もうちょっとルーの可愛げでも見習えっ。あいつの俺を尊敬している目と言ったら・・・!」
「おいっ!俺がいつお前を尊敬した!?」
ここは、断固として否定するぞ。
「ん?なんだガキ・・・?
・・・って、お前ルーか?!
ヒャーッハッハッハ〜ー!!
なんだよ!その格好!
分かった!女の子にチヤホヤされようと、そんな格好してるんだろ!」
「お前と一緒にするな!」
俺のツッコミなど構わず、爆笑する先輩。
「シンゾウは、なんでそんな格好してるんだ?」
「今は、ここあよ☆」
カイトの質問に対して、瞳をキュルンと光らせて、胸の谷間を強調して言う。
けど、中身が先輩だと知ってしまうと、ウゼェ〜〜。
質問したカイトも、青筋を立てている。
「漢の夢を実現しただけだ!
生まれ変わったら、美女になってモテたい!って、よくあるだろ。」
それで、このキャラかよぉ。
「夢のHカップ☆アバターになってみたわけだが、いやぁ、男が引っかかる引っかかる!
あまりにも面白いぐらい引っかかるんで、キモすぎた奴は、片っ端からGMコードを発動したった。
アカBANの嵐よ!」
なんつーことしてんだ?!先輩のエゲツなさにドン引きだが、これは擁護できん!
このゲームでは、セクハラや過剰な嫌がらせなど、倫理に触れるようなことをして、GMコードで通報され、事実認定されると、アカウントが停止されるのだ。通常は3回警告でアカウント停止。まれに、一発退場もある。
「それで自信を持った俺は、イケメンに一泡吹かせてやろうと思って、カイトを探してたってわけだ。
最近、この町でよく見かけるって話を聞いたから、待ち伏せてみた!」
なぜ、そこでドヤ顔をする。即刻、正体がばれたくせに。そして、やり方がゲスいんだが。
顔に青筋を立てたカイトが「おおっと、手がすべったー(棒)」と言って、長剣をバニーガールの顔すれすれに叩きつけた。
「あ、あぶ!危ないだろ!PKなしって言っても、ビビるだろーが。」
「ビビらせたんだよ!」
後でミントから聞いたのだが、この日のやりとりが噂になったそうだ。
先輩が実は男というのは俺たち以外にはバレなかったようだが、白馬の騎士、つまりカイトがエロバニーにちっともなびかなかったという噂が広まった。女性の見た目で態度が変わらないイケメンとしてさらに人気が出たのと、女には興味がないんじゃないかという意見も出て、そっちの方面でも人気が出たらしい。
問題児キャラが出る宣言にも関わらず、ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今まで何度か出てきた「先輩」というのは、この人でした。
3話、20話、22話など、以前から伏線を張っていました!
この38話の時間軸は、35話のジェニファーのファッションチェックの中継のすぐ後になります。
35話のスズキは、バニーガールの中の人が男だと気付いてます。
スズキは一目で"この狙い過ぎな格好は、中身が男性の確率80%"と思って、鎌をかけてフレンド登録を持ちかけたところ、拒否されたので、確信しています。
ヴィクターの知恵袋では、ゲーム内の二日酔いしか回復できません。主人公に効いたのは思い込みの力、つまりプラシーボ効果です(笑)
今後の配信は、水曜日と土曜日を予定しています。よろしくお願いします。




