29. お化け屋敷(前編)
冒頭のみ、ホラー風味です。
俺たちは、長い長い廊下を歩いていた。
廊下はうす暗く、突き当りが見えない。
窓の外の光は、雲の間からのぞく赤い月の光のみ。
壁に規則的に並ぶロウソクは頼りなく、少しの風で火が震え、影が不気味に揺れる。
床には、昔は真紅だったであろう高級なカーペット。しかし、今は色あせ、所々が破れ、見るも無惨な有様だ。数歩進むごとに、床板が軋む。
何が現れてもおかしくない廊下を、身構えながら進む。
誰かの息を飲む音さえ聞こえるに静かだ。
背後から水の落ちる音がした。
・・・ピチャ・・・ピチャ・・・ピチャ・・・
音が近づいて来て、俺たち4人は一斉に振り返った・・・!
10m後ろには、踝丈のスカートのメイド服を着た女性が立っていた。薄暗くて顔が見えない。
手から水が滴り落ちている。水?いや、・・・血?!
女性が消えた・・・?!
「「「「!?」」」」
いや、消えたわけではなかった。
一瞬で、女性が目の前に現れたのだ・・・!
今度こそ、はっきり見える。
その女性の顔に、目がないのが・・・!
「アン ギャーーーーーーーーー〜ー!!!」
りんの悲鳴が洋館全体に響き渡った。
「りんちゃん、落ち着いて〜。もう怖いのはいなくなりましたよ?」
りんの獣魔のリスと一緒に、ミントがりんを宥めてくれている。
カイトも見守りつつ、周囲の警戒は怠らない。
・・・しかし、「アンギャーー」って悲鳴は、妹とは言え、ウケるな(笑)
俺たちは今、4人でオーネンの町の南に位置する”湖の洋館”に来ている。
その名の通り、湖のほとりにある洋館で、別名は「お化け屋敷」。
アンデッドのモンスターが集まる廃墟だ。ゲーム時間の昼間に来ても、洋館に入ると夜になる設定がされている。
ここへは、ミントが欲しがっている着色剤という画家の絵の具が目的で来た。それに、単に面白そうだったからな!
屋敷に着いたのは1時間ほど前だった。霧が立ち込める入り口の門で、ピンポーンというアラートが鳴った。
俺たちの前に表示されたウィンドウには、雰囲気たっぷりのおどろおどろしい字で、こう書かれていた。
心臓の悪い方、妊娠中の方、体調の悪い方はご遠慮ください。
※屋敷内で特に異常な脈拍・動悸を感知した際は、緊急離脱となり、所持金・所持品・経験値等の全てが、前回のログイン時に戻されます。ご了承ください。
驚いたことに、遊園地のお化け屋敷なんかで見る看板と同じようなことが書いてあったのだ!
「うわぁ!こりゃ、本気でお化け屋敷だな。りん、大丈夫なのか?」
「お兄ちゃん、私がお化けを怖がっていたのなんて、小学校までよ!今の私は全然大丈夫なんだから!」
そう言って、りんは盛大なフラグを立てていた。小学校までって、たった2年前だろ(笑)
屋敷に入って分かったのは、モンスターとは別に屋敷の使用人としてのNPC幽霊がいるのだ。
NPC幽霊は、現実でのお化け屋敷のお化けよろしく、お触りなしで、脅かしてくる!しかも、芸が細かいのが、この屋敷内のゲームサウンドはほぼ無音で、たまにキィキィと建て付けの悪いドアからするような音がするだけなのである。そこへ床の軋みや幽霊が近づいた音をさせる。さらには、この屋敷界隈だけ肌寒く、文字通り、背筋が凍る。脅かすために全力で環境を作っているのだ。
そして、NPC幽霊に脅かされて驚き、声を上げると、モンスターに見つかるという流れが出来ている。ここへ来るまでにも、何度となくアンデッドモンスター達とやりあってきた。レイス、ゾンビ、スケルトン、お化け蜘蛛。アンデッドモンスターのフルコースだ。
てなわけで、俺たちは今も、絶賛、襲撃を受けている。
「ルー!火を!」
カイトが騎士のアーツ"チャージ"で溜めていた力を使い、体当たりのごとく叩き斬ると、スケルトンはバラバラになった。
スケルトンは骨が崩れただけでは、終わらない。カイトの掛け声で動いていたので、投擲で投げた瓶は、スケルトンがバラバラになったタイミングで届き、見事な炎となった。これでスケルトン一体は一丁上がり!
新しく攻撃手段に加えたのは、火炎瓶。
ポーション用の瓶に、オリーブオイルを詰めて、”使い魔”で放火草を着火させ、炎を引き起こすのだ。
”魔除けの境界”の着火方法から思いついた。使い魔は直接の攻撃でなければ、使えるようだな。
自作武器だが、思った以上に良い攻撃手段になった!初級の火魔法ほどの威力だろう。事前に作っておけば、MPを気にせず、使用できる。特に今回は、火・光・回復魔法に弱いアンデッド相手だからな。
りんとミント側のスケルトン退治も終わったようだ。
りんはテイマーで、ベンジャミンという名のリスのモンスターを1匹テイムしている。
リスは、あれで近距離攻撃をしながら、素早い身のこなしでヘイトを集める回避盾だ。あのリスパンチで攻撃って、解せぬ・・・。モフッてるだけだろ・・・。そこへ、ミントが短剣で切りつけるか、りんが風魔法を打ち込んでいた。
ミントは羊の獣人で、筋力よりも素早さ重視のステータス構成になっている。そして、俺と一緒で、生産特化で攻撃手段は少ない。今回は、聖水を多数用意して来たそうだ。聖水をかけた短剣で切りつけると、攻撃ダメージが上がる。
前情報でミントから聖水のことを聞いていたので、それを入手出来る教会へ行った。オーネンの町の教会は蛇と亀のモチーフが入り口に付いていて、時間を知らせる鐘のある塔が高くそびえていた。勇んで入ろうとしたら、門前払いされてしまった。魔女は、教会へ入ることさえできなかったのだ!しかも、魔女は聖水の使用・調合もできなかった。あわよくば、聖水を調合で作ることもできるのかと考えていたのだけどな。まぁ、ここでハンディキャップを負う分、どこかで取り返させてほしい。
スケルトン一行を退治したところでカイトが、皆がうすうす気づき始めていたことを口にした。
「同じところを繰り返し歩いているな・・・。」
「確かにずっとこの長い廊下だな。でも、抜け出す方法はあるんだろう?」
「アイテムの入手できる場所と出現モンスターは下調べしたのですが、こんなダンジョンの造りになっているとは・・・、面目ないです。」
「大丈夫よ!謎解き脱出ゲームも楽しいもの!」
凹むミントを今度はりんとリスが慰める中、カイトは顎に手を当てて、考え事をしている。こいつの考えるときのくせだな。
しばらく経って、ようやく口を開いた。
「事前に謎かけに当たるものが無かったから、この場で解ける仕掛けがある可能性が高いはずだ。繰り返しの中にも、どこか異質な部分が隠されていると思うんだ。」
「・・・つまり、ずっと同じ廊下を歩いているように見えて、実は1箇所だけ脱出箇所があるってことか?間違い探しみたいな?」
「そうだ。俺の考えでは、一定間隔で雲からのぞく赤い月が怪しいと思う。
このゲームはかなりリアルに作られているのに、毎回同じように雲から月が出てきていた。
それに、一定時間で月が出るものかと思って、さっきから時間を測っているんだが、その法則はなさそうだ。そうなると、一定”距離”で出現している可能性がある。」
どおりで、立ち止まって長く考えていたはずだ。時間を測ってたのか。
相変わらず、キレキレだな。
「なんだ、もうほとんど答え出てるな。」
「まだ推測だけどな。」
「すごい!さすが、カイトさん!」
「本当に、すごいです〜!!」
「じゃあ、月が出るところまで進んでみるか!」
俺たちは、歩みを再開させた。
そして、窓の向こうに赤い月が出てきたところで立ち止まる。
ちなみに、World's Frontierの月は、かなりデカい。現実の5倍ぐらいの大きさだろうか。通常は白なのだが、この洋館から見える月は赤い。
「ここからが問題だ。どこかに違和感がないか探してみてくれ。」
「うへぇ。俺、間違い探しとか苦手なんだよな。」
「私、得意〜!」
「私も頑張ります!」
りんが自信満々に答えて、あたりをキョロキョロと見渡す。
ミントもしゃがんで目線を変えたり、目を皿のようにして探している。
「あ!あそこのロウソク!なんかおかしい・・・?」
自分で得意と言っただけあって、最初に違和感を見つけたのは、りんだった。
一定間隔で廊下の壁に取り付けられたロウソクは、火の揺れとともに影も揺れているのだが、りんの見つけたロウソクだけ影の揺らぎが大きい!
「俺が近づいてみるから、皆は下がって戦闘準備を。」
カイトが先陣を買って出て、あとのメンバーは何が起きてもいいように身構えた。
1mまで近づくが、何も起こらない。
剣を持つのと反対の手で、インベントリから聖水を取り出したカイトは、その聖水を怪しいロウソクの影に投げつけた!
「ギシャーーーーー!!!」
バケモノのつんざくような悲鳴と共に、ロウソクの影が大きくなり、現れたのは1匹のシャドウデーモン。一反もめんを黒くしたような悪魔が飛んでいた。
先手必勝!バケモノの悲鳴が終わらないうちに、火炎瓶を投擲。
不意打ちが良かったのか、クリティカル攻撃となった火炎瓶は、炎を天井まで吹き上げた!
その炎が完全に消し去る前に、カイトが飛ぶシャドウデーモンに向かって、スラッシュで斬撃を飛ばす。
ここまでで相手のHPバーを3割減らした。
シャドウデーモンは、スラッシュを受けてノックバックした勢いのまま、急旋回。長い尻尾を鞭のようにしならせ、その一打ちが突風のように俺たちの間を駆け抜ける。打撃のような強い衝撃が走った。気づくとHPを2割ほど失っている。
俺はHPポーションを取り出し、自分にかけた後は、すぐにミントにも投げる。このパーティーでステータスが低い俺たちから回復する。
その横で、りんが手をかざし、「エアカッター」と唱える。
飛んだ風の刃はシャドウデーモンを壁に叩きつけた。
そこへすかさず、ミントが短剣で切りつけて、すぐに飛び退ける。
シャドウデーモンがミントを睨みつけたところで、りんの獣魔のリスが割って入り、聖水をぶっかけた。
リスパンチじゃなくて、ホッとしたぜ。
しかし、聖水でかなりのダメージを負ったシャドウデーモンはお返しとばかりに、リスを尻尾でふっ飛ばした!
「キャー!ベンジャミン!」
ふっ飛ばされて、大ダメージを負ったリスに、りんが回復魔法をかける。
その間、俺は投げナイフを投擲。まだ壁際にいたシャドウデーモンは、投げられたナイフで壁に一瞬、縫い付けられる。
「シャイニング!」
カイトが発した光魔法は、シャドウデーモンに向かって急速に吸い込まれるように飛び、集まった光の粒子が爆発した。辺り一面が一瞬白くなる。さすがの弱点攻撃で、シャドウデーモンの残りHPは1割を切った。
「ギシャーーーー!」という遠吠えとともに、黒い波紋が空中に広がり、視界が暗転する。ブラインドの状態異常か?!
「一旦、下がれ!尻尾がくるぞ!」
カイトの叫び虚しく、2撃を受ける。
その後、ようやく視界が戻った。
俺は回復に回り、ポーションを俺、ミント、カイトへと使う。その間にりんは自分の回復魔法で獣魔と自分自身を回復した。
そして、ミントが一撃し、カイトが一撃したところで、シャドウデーモンを倒すことができた。
4人がかりでも大変だったのは、シャドウデーモンがここの門番的な役割だったからだろう。
ここで俺の投擲のレベルも上がり、「連投」を覚える。その名の通り、2連続で投げられるので、1ターンの攻撃力が2倍だ!
シャドウデーモンを倒した後で、キラキラリーンとシステム音が響き、
「シャドウデーモンの幻影が解除されました。」というアナウンスと共に、壁に扉が出現した。




