2. スキルの確認
攻撃魔法が使える魔法職を選択したはずなのに、それらしきスキルがない。なぜだ?!
とにかく、ランダムで選ばれた、3つのスキルを確認してみることにした。
ステータス画面の職業スキル「グリーンフィンガー」をタップする。
グリーンフィンガー(ハーブ) Lv.1:植物を育てやすく、扱いやすくなる。特にハーブ類、薬草類は採取・育成・加工にプラス効果。
え!?ファーマーのようなスキルなのか・・・?
ここに植物がないから、確認しようがないな。これ以上、分かることはなさそうだ。今は考えるのをパスしよう。
よし、次!勢いをつけて次のスキルをタップする。
調合(呪い)Lv.1:素材を調合し、薬などを作る。呪い効果をかけることができる。
今度は、短い。けど、こちらは、グリーンフィンガーよりも分かりやすいかもしれない。調合といえば、薬師や錬金術師が使うスキルだ。呪いを「のろい」と読まないのか。おまじないの「まじない」か。この職業特有のプラス作用のようだな。
参った。2つのスキルの効果がわかったところで、攻撃色のあるスキルはない。生産職にリーチがかかっているな。最後のスキルをタッチする。
使い魔Lv.1:対象に1つだけ役割を与えることができる。ただし、攻撃は不可。餌を与えないと一定時間でリリースされる。使用枠:3枠。
説明は色々書かれてるけど、使い方のイメージがつかないスキルだ。この「餌」という言葉。テイマーのモンスターを使役できるスキルに似ているな。それにしても、攻撃不可は厳しい。
魔法職だと思って取った”ウィザード”という職業は、実際は生産職なのだろう。
どおりで、種族をランダムにしたら、妖精のブラウニーが出るわけだ。器用と運が高くて、生産向きだもんな。種族から派生するギフトに「生産品質上昇」もあったし。
思わず、苦い笑いが漏れてしまう。今頃は、攻撃魔法をぶっぱなす魔法使いになっていたはずが、本当にどうしてこうなった・・・!
俺が頭を抱えていると、船の甲板にイカつい、身長を2mを超えるほどの犬耳のひげおやじがやって来た。
いつのまにか嵐は止んでいて、サウンドも穏やかなものへと変わっている。
「野郎ども、そろそろ上陸だー!」
そのNPCの船長が声を上げると、船員たちがマストの調整やイカリを下ろす準備に取り掛かる。NPCというのは、プレイヤー以外のキャラクターで、このゲームではAIが搭載されているので、とても自然な言動をする。
船長を追うように船先へ行くと、すぐそこに島が迫っていた。
港の人が肉眼で見えるほど近い。オレンジの屋根と白い壁で統一された町を見るのは壮観だった。一緒にやってきた他のプレイヤーも船先で、声も上げずに島に見惚れていた。
それもそうだろう。島の美しさはもちろん、島を視界に入れたところで、ゲームのサウンドがちょうどクライマックスに達したのも手伝い、鳥肌が立った。ここでゲームタイトルが入っても、なんらおかしくなかった。
さっきまで自分の容姿とスキルに凹んでいた俺も、徐々に近づいてくる新大陸を見て、テンションが上がる。
船を降りてまた、景色に釘付けになる。
この始まりの町はオーネンと言って、ゲーム内では特別大きな町ではないらしいが、とても活気があった。
船から降りた所は港の広場だった。その先には市場が広がり、人があふれかえっている。屋台が集まる市場のさらに奥から建物群が続く。あちらの方が町の中心地なのだろう。
建物は軒並み3〜4階建てで、屋根はオレンジ、壁は真っ白い漆喰だ。どの家の窓辺にも花が咲いている。これだけ見れば、確かにヨーロッパの街並みだけど、その建物の下では、現実でありえないブルーの街路樹が立ち並んでいて、仮想現実を実感させられる。
港から続く通りには、石畳が敷き詰められている。今、その上を馬車が走り過ぎた。速くてよく見えなかったけど、馬ではなく、緑のダチョウのような動物に見えた。
しばらく、この光景を目に焼き付けていた。周りの船から降りて来たプレイヤーも同じで、その場で動けずに目を見開いているが、少しするとハッとして、町へ繰り出して行った。
俺も我にかえって、カイトと連絡を取ることにしていたのを思い出す。教えてもらっていたIDへチャットする。コールが2回鳴った後に、よく知った声が聞こえた。
「よぉ、ようやくログインしたか!」
「おー、今、港に着いた。」
「…ルウトだよな?…声が高くないか?
港ってことは、本当に着いたばかりか。」
やっべ。子供の姿だから、声も高くなってるのか。VRの芸が細かすぎるぜ。
俺の声が高いことを特に気にせず、カイトは話を続ける。
「で、結局、キャラはどうした?やっぱり、メイジにしたか?魔法使いたいって言ってたもんな。」
「・・・メイジ?いや、ウィザードだけど。」
「・・・ウィザード?そんな魔法職あるのか?」
「ん?魔法職って、そんなに何種類もあるのか?
攻撃魔法を使うつもりで選択したけど、スキルに肝心な攻撃魔法がなくてさ。生産職っぽいんだよな。」
微妙に会話が噛み合わない。2人の間に沈黙が落ちて、カイトの声が少し遠くなった。
「・・・なぁ、ウィザードって何だ?今、ログインしたばっかの友達がウィザードになったって言ってんだけど。」
カイトは、近くにいる誰かに話を振ったようだ。少ししてから、チャットに戻って来たけど、嫌な予感がする。メイジも「魔法使い」の意味だよな?ウィザード以外にも魔法職があったのか?!
案の定、魔法に関する職業はいくつかあった。メイジは火・水・風・土の魔法がスキルで出てくる魔法職で、俺がもともと取りたいと思った職業だった。
そして、ウィザードはというと、別名「魔女」・・・。なるほど。確かに、3つのスキルを組み合わせると、釜の中で薬草をグツグツ煮込み、フクロウの使い魔を肩に乗せる魔女が出来上がるな・・・。
カイトが周りに聞いた話によると、魔法職の中で’ウィザード’は有名らしい。最初の職業選択でメイジよりも先に出てくるから、うっかり選びそうになる人が出て、’ウィザード・トラップ’と呼ばれてるとか。おい、そういう意味の有名か・・・。実際、俺はそのトラップに引っかかったわけだが。
そして、ウィザードは派生スキルが、生産寄りなのもあって、選択する人が少ないと。さらに、調合をやりたい人なら、薬師や練金術師の職業を取るから、あえての魔女を選択することもない。完全に不人気職だな。
俺は魔法職を取ったつもりだったから気付けなかったが、職業選択の時に、職業の大まかな説明を表示させることができたらしい。掲示板をよく見なかったのも裏目に出た。
そして、チャットの向こうでは、カイトが大爆笑してる。腹抱えて息切れしながら笑う奴の姿が見える気がした。
「メイジと間違ってウィザードを取るかぁ・・・・ふははッ!
相変わらず、やってくれる!
・・・で、どうする?キャラ作り直すか?」
完全に面白がりながら、試すような口ぶりで、ニヤニヤと聞いてくるカイト。この上、妖精で見た目が幼児になってるなんて知られたら、さらに笑われること間違いなしだな。
「・・・いや、ウィザードは変えない。このまま行く。」
一瞬、キャラ再作成も考えたが、やめた。魔法を使うのは、確かにやりたいことの1つだったけど、もう1つやりたいと思っていたことは生産系にある。残るスキル枠で、そのスキルを取ろう!魔女とブラウニーのスキルはそれと相性がいいだろう。それに、この魔女の不遇っぷり。逆に燃える・・・!
俺の意外な真剣さを受けて、カイトはからかうことはなく、それでも面白がっていた。
「そうか。そしたら、合流するのは、予定通り、明日にしよう。俺は、今、パーティー組んでるから。」
こうして、俺達は明日の待ち合わせを決めて、チャットを切った。
明日までに準備することはいっぱいある!




