26. ヤギヤギパニック
「長老、何かあったのか?!」
緊急時の警報音を鳴らしながらやって来たコロボックルの長老に尋ねると、長老は神妙な面持ちで答えた。
“ヤギの大移動の季節が来たようじゃ。今、まさにヤギがこの崖を登っておる。”
え?ヤギが?崖を登る?
“ヤギには、周辺に雨を降らせる能力があるのじゃ。ぜひこの機会に捕獲することをおすすめする。この大捕り物には、我らも張り切って参加しようぞ!”
ヤギを捕まえる??
雨を降らせる??
・・・つまりは、待望のスプリンクラーか!!
ふと、ファーマーのレンに聞いてみる。
「なぁ、ファーマーって、ヤギを飼ってるものなのか?」
「ヤギに雨を降らせる能力があるなんて、初めて知りました!
畜産プレイヤーでも、飼っていないと思います。まだヤギが見つかってないのもあるけど、牛がいるので。ヤギの乳はクセがあるから、そこまで人気が出ないって聞いたことあります。」
とりあえず、現状を把握しないことにはなんとも言えないな。
皆で北側の崖の端へ寄って、下を覗いてみる。
何十頭という白、黒、茶色のヤギが崖をぴょんぴょん登って来ていた。
足場なんてあるように見えないのに、壁面ギリギリを器用に跳んでいる。ヤギのロッククライミングだ。
すでに崖の半分まで来ているな・・・!
「ええー!ぴょんぴょん跳ねてる。うさぎみたい!」
「可愛い!可愛い!」
「あ〜ん、どの子にしようかしら!」
動物マニア達には大好評で、捕獲する気は満々のようだ。
「カイト、お前も参加するのか?」
「あぁ、考えてもみろよ!本当に雨を降らす能力があるなら、魔除けの境界には打って付けだろ?」
なるほど、そうか。
俺は、畑があるから、問答無用で捕まえるつもりだったけど、よく考えたら、ここにいる全員が魔除けの境界を使っているんだもんな。魔除けの境界の維持には、水やりが必須だから、ヤギ確保は全員にメリットがあるのか。
E2とロドリゲスは、観戦するつもりでいたようだが、カイトの話を聞いて、参加することにしたようだ。
ロドリゲスなんかは、ロープを取り出して、捕獲の成功率が高そうだな。
とりあえず、俺も捕獲用に曲がり草というツルを握りしめる。
そして、とうとう第一陣のヤギ達が崖の上へとたどり着いた!
魔除けの境界は、魔物を排除し、許可した者にのみに入場許可を与えるホーム設定が適用されている。それ以外に当たる動物はその対象ではなく、自由に出入りできるのだ。
そんなわけで、ヤギ達は最後の一蹴りでピョーンと魔除けの境界の柵を跳び越えて来た。
一番最初に動いたのはカイトだった。
突入のためのひと蹴りで空中を跳ぶヤギの首に、待ち構えたように縄をかける。ヤギの首にかかるなり、縄を引っ張ると、首が絞まった。あっと言う間に捕まった黒いヤギは、最初こそ暴れて苦しそうだったが、しばらくして落ち着き、今はメェメェ鳴いている。
鮮やかな手並みで確保できたのは、カイトだけだった。
崖の上に登ると、俺たちが待ち構えているのに気づき、警戒して逃げ回る。なるほど、敵と認識される前に仕掛けたカイトは、ますます正解だったわけだ。
捕まったヤギを鑑定してみた。
山羊 品質 4 レア度 4 周辺に雨を降らせる。飼育すると、乳・毛・肉を採取可能。
品質とレア度がついてるのは、畜産スキルの飼育対象だからだ。
ワールド・フロンティアでは、モンスターとは別に動物や虫なども存在している。それらの一部は、飼育対象なのと、スキルなしでもペットにすることもできる。何も採取はできないから、愛玩用だな。もちろん、餌が必要だ。
次に捕まえたのは、ロドリゲス。大工道具のロープを引っ張り出していたくせに、結局、抱えて捕まえていた。
店長はさすがテイマーだ。インベントリから、葉物野菜を取り出して、それを餌にして大人しくさせた。
それを見たレンも、同じ要領で捕まえる。
E2は無駄な動きをせず、眠り薬でサクッと眠らせた。
りん、ミシェル、ミントは、最初こそ、キャッキャッと追いかけっこを楽しんでいたが、なかなか捕まえられず、結局はE2と同じく眠り薬を使った。
俺?俺は、早々に戦線を離脱している。
というのも、何もしないうちに、3匹のヤギがぴょんぴょんとオリーブの木に登り、その実をむしゃむしゃと食べていたからだ。オリーブの木は、俺とジャックがハンモックを吊るしている木だ。子ヤギがハンモックをトランポリンのようにして、嬉しそうに飛び跳ねていた。
“ルー殿、オリーブの木の上の3匹に交渉して、ここに住んでもらえることになったぞ。”
と、コロボックルの長老。
3匹のヤギはどうやら家族のようだ。
一番大きく白いヤギは父。べェェェーと鳴くので、”はちベェ”という名前にしてみた。
二番目に大きく、ミルクティーのような色合いのヤギは母。メェェェーと鳴くので、”メイ”にした。
そして、一番小さい白い子ヤギは、・・・・ユキ・・・・いや、ダメだ。
なぜかヤギヤギ鳴くので、”八木さん”にした。




