20. 店がオシャレすぎて辛い・・・
目の前で、箱が消えていった。
今、ゲーム内のオンラインショップで商品を発送したところだ。ゲームだけあって、瞬間転移で商品が送られる。
露店や路面店を出すこともできるが、どちらも費用がかかる。気軽に売るなら、オンラインショップだ。
そんなわけで、数日前からオンラインショップで魔除けの境界を売り出した。
今発送したのは、"魔除けの境界 眠り姫ver"という商品だ。りんにせがまれて作った。魔除けの境界にバラが咲いているだけなのだが、これが意外と売れている。もちろん、一番人気は有刺鉄線リングverだ。
ふっふっふっふ・・・!
1週間前は金欠だったけどな、この数日で所持金がなんと50万Gに!
笑いも止まらないってもんだー!
大金持ちやないかーーい。
ほんまに、魔除けの境界サマサマや〜。
魔女のベラ様々や〜。
その代わり、調合で引きこもっていたから、レベルは上がってない。
今のステータスはこんな感じだ。
名前:ルー
年齢:21歳
職業:ウィザード
レベル : 2
種族:妖精
HP:50
MP:60
筋力:5
敏捷:20
耐久:5
知性:30
器用:75
魅力:60
運:75
ギフト :
生産品質上昇
動物好感度上昇
スキル:
グリーンフィンガー(ハーブ) Lv.2、
調合(呪い)Lv.2、
使い魔Lv.2、
投擲 Lv.2、
料理 Lv.1、
称号 : 崩壊の赤ずきん
スキルでは、グリーンフィンガーがLv.2に上がって、”変異”というのを覚えた。
植物のサイズや味を調整できるというアーツだった。MPを消費するから、収穫物全部に使うのは難しそうだな。
さっそく試してみた。ポーションの材料である薬草の苦味を抑えたら、品質は変わらないけど、味がさらに美味しくなったのだ・・・!
ただし、薬草にもともとない甘みを追加するということはできなかった。今ある特徴のみを調整できるということなのだろう。それでも、意外とできることはありそうだな。
使い魔もLv.2に上がって、使用枠が3枠から5枠に増えた!ジャックと怖ネコに常時使用してるから、ありがたい。
そして、称号をゲットだぜ!
カイトの話だと、クランクラッシャーとか、土地バブル崩壊の立役者とか、有刺鉄線の赤ずきんとか、色んな候補があったらしい。俺は「崩壊の〜」は気に入ってるぞ!赤ずきんは納得いってなかったんだけど、今回の件で「赤ずきんちゃん、ありがとう!」と色んな人から言われてしまうとなぁ。
このWFの称号は変わったシステムだ。ゲーム内の口コミの噂(音声データ)と掲示板上での書き込みをもとに、一定数に達した呼び名を、AIが抽出して運営が決めるらしい。どおりで、掲示板がゲーム内にあるわけだ。もちろん、誹謗中傷は排除される。
通常、称号がもらえるタイミングは、イベント後が多いという。
そんな選出方法だと知れてから、どこかの大規模クランが検証をした。内輪で呼び名を作って呼び、掲示板に書き込んでみたが、称号にはならなかった。仲間内を超えて不特定多数に広がった呼び名かどうかまで判断されいる、もしくは故意か自然発生かを判断しているのでは?というのが、その時の検証結果だ。AIすげぇ。
ところで、カイトも称号を持っていて、それが「白馬の騎士」だった・・・。
今思えば、魔除けの境界をお披露目した時に、アッキーが言ってた「白馬の騎士」って、称号だったのか。いや、「白馬の騎士」て名前自体は、笑えるけれどもっ!
さっきの称号システムの話を聞いちゃうとさ、きっと女子達が「白馬の騎士」って噂したんだろうな・・・と思うわけですよ。それも称号になるほど多数の女子が・・・。
なんかさ、「イケメン有罪!」と俺は声を大にして言いたい!!
俺の称号は、もちろんカイトに大笑いされたよ!称号がアナウンスされて、即刻、チャットが来たからな。
ちなみに、称号の報酬は、一律で50,000Gとスキルポイント2だ。
レベルが2に上がった時の2ポイントも含めて、合計4のスキルポイントは、そのまま貯蓄中。
攻撃力強化でスキルを取得しようかとも思ったけど、投擲で攻撃の幅が広がる目処が立ったから、新スキル取得は保留。スキルポイントは、すでに取得しているスキルに振ると経験値になり、レベルの上昇に貢献させることもできるんだけど、それも今は保留かな。
取得できるスキルの数に制限はない。スキルを取り過ぎると、分散してレベルが上がりにくくなるので、ほどほどのスキル数にするのが定番だ。
今日は畑と調合をやって、ジャック達と朝飯と昼飯を食べた。この後は、カイト達との待合せがある。
オーネンの町のすぐ外にある待合せの店に来た。この辺りの敷地は、魔除けの境界で作ったようだな。周りにも建物が建ち並んで、すでにオーネンの外郭の街になりつつある。ヨーロッパの街が何重にも壁を築いて、街を形成してきたのに似てる。
目の前にその店があるんだが、おしゃれ過ぎて、入る勇気が出ない・・・。なんというアウェー感!
「ニ”ャー」
怖ネコがこの店の扉の前で、生意気にも「まだ入らないのか」的な鳴き声をあげてくる・・・。
一見、現実にあってもおかしくない店だ。いや、俺の近所には絶対ない。そして、俺がせいぜい行く新宿にもないぞ。これは、あれだ。銀座とか表参道の香りがする!
屋根は黒で、木目の壁と黒い柱をベースに作られている。色合いは、狼の晩餐とそんなに変わらないはずなのに、あちらは大衆食堂、こちらはお洒落カフェになるのはなぜか?
看板には「黒くまカフェ」。看板の文字までオシャレに見えるんだが、添えられた絵だけは、異質だった。鮭を狩るツキノワグマなのだ。
これ、あれだろ?北海道のお土産で昔から売ってる木彫り人形と同じだろ?しかも、それがデフォルメで可愛くなってるわけでもなくて、リアル。それがかえって、おしゃれな店のおしゃれユーモアなんじゃないかと疑心暗鬼になって来て・・・。
結論、おしゃれな店は入りずらい!
だってさ、俺が最近入った店って、先輩に連れてかれた雀荘だよ?そんな俺が、こんなシャレた店・・・。
「ルーちゃん!こんにちわ!」
葛藤中に後ろから声がかかる。
振り向くと、ミントが笑顔で手を振って、こちらへ向かってくる。
「おー、ミント、こんちわ〜!」
今日の待ち合わせのメンツには、ミントも入っている。
「今日はお店の中で待合せだよね?」
「そうなんだけど、店がオシャレ過ぎて、入りづらい・・・。特にあの看板・・・。」
俺がそうこぼしたら、ミントが満面の笑みになった。
「本当に!?嬉しい!!
実は、このカフェのデザインは私がしたの!
あの看板の絵も、私が描いたんだよー!」
「え、まじで?」
俺は、とっさに店の前にいる怖ネコと熊の絵を見比べる。
同じ作者にしてはかなり作風が違うよな。それができるということは、前にミントから教えてもらってはいたけど。
2つの絵から、それぞれ別の恐怖を与えてくるとは・・・!ミントが、一番不気味な気がして来た・・・!いや、絵描きとしてはすごいんだよな・・・?
しかも、このオシャレ過ぎて入れない店も、ミントがデザインしたとか・・・?!
ヤバいよ!ヤバいよ!この子、天才だよ・・・!
「ほんと、ほんと!
実は、このお店の依頼も、ルーちゃんのおかげで来たんだよ〜。」
ミントが店の扉を開けながら、話す。
例の”魔除けの境界のお披露目”の動画は、かなりの再生回数を記録したらしい。WFタイムズ記者のセキいわく、エリアボス初討伐の動画に迫る再生回数だったとかで、ずいぶんと感謝された。しかも、動画再生数が10万回を超えると、ゲームを盛り上げたことを評価され、報酬金額がもらえるらしい!俺も分け前をもらったぞ。
俺の決めシーンで、怖ネコは頭の上に乗って映ったから、こいつも有名になった。で、女性を中心に「かわいいー!!」という声が怖ネコに殺到。ミントは人気画家になったとさ。まじか。怖ネコ、かわいいのか・・・。
「・・・ってな話で、俺が入るのが怖くなるほどのしゃれた店を作っちゃうミントってスゴイよな!!」
お店の中で、すでに席に着いていたアッキーとカイトとりんに、力説してみた。
「ミントさんのデザインがすごいのは私も大賛成なんだけど、
おしゃれ過ぎて入るのが怖いとか、お兄ちゃん、バカじゃないの?」
そして、りんのこの一言である。りんの肩に乗っているリスが、やれやれと言った感じで肩をすくめている・・・。妹と母の口からこの”バカ”というセリフを人生で何度聞いたことか。耐え忍ぶだけだけどな。
俺も妹に萌えてみたかったぜ・・・。
「まぁまぁ、りんちゃん。
これで全員そろった。
・・・すみません、店長!」
こうゆう時のカイトは、本当にいい奴だぜー。
「標準語の"バカ"って、ほんまエグいわぁ。アホの方が愛がある。」
アッキーはカイトの横で、ブツブツとこぼしていた。
そして、カイトが呼んだ店長は、なんとツキノワグマだった!
ツキノワグマが、白いカッターシャツと黒いベストを着て、ネクタイとソムリエエプロンを付けてる・・・!
誰もつっこまず、平然とオーダーしてるところを見ると、みんな来たことあるのか?人気店なのか?
店長がオーダーを取り終わったところで、いそいそと俺に向かって両手を差し出して来た。
え?握手?
店長の横には、いつのまにか店員が立っていて、一礼をして話しかけて来る。
「失礼します。
フレンド登録は断っていただいても構いませんので、赤ずきんさんとぜひ握手をしたいと、店長が申しております。」
丁寧に話す店員のセリフに、店長がコクコクとうなづいている。
・・・というか、店員さん、ガーゴイルですよね?
青い肌に、背中には蝙蝠のような大きな羽が付き、ガタイが良い。店長と同じく、カッターシャツにベスト、ネクタイとソムリエエプロンを付けている・・・。さらに、丸いメガネをかけていて、とても品のある中年男性の話し方。イメージでは、うん、執事だな。
よくよく見たら、ツキノワグマな店長がプレイヤーで、ガーゴイルはテイムモンスターだった。まじか。
ガーゴイルって、絶対強いだろ・・・!ここから何エリア先のモンスターなんだよ・・・。ということは、店長こそ、おしゃれカフェ店長と見せかけて、かなり強いんじゃ・・・?
そして、AIの仕事ぶりに、史上最高に驚いている。
俺は、呆然としながらも、店長と握手した。
でかい熊手なのに、両手で優しくシェイクハンドしてくる。ツキノワグマの黒目もキラキラしている。人柄を表してるなー。
「店長、ようございましたね。」
ガーゴイル氏が感無量というような笑顔を店長に向ける。この、忠臣っぷり・・・!
「赤ずきんさん、ありがとうございます。
このお店を構えることができたのは、赤ずきんさんが魔除けの境界を発売されたおかげです。」
最近、魔除けの境界の件で、お礼を言われることが多いけど、このガーゴイル氏の言葉にはグッと来るものがあった。
・・・グッと来たんだけどさ、でも、やっぱ、ガーゴイルに魔除けの境界について感謝されるのって、なんか変だよな・・・?
そんな店長が入れた紅茶はめっちゃ美味かった!
コーヒー派だけど、この紅茶なら毎日飲んでもいいな。なお、コーヒーはまだ発見されていない。それもあって、紅茶はメジャーな飲み物だ。
店長はやはり料理スキル持ちで、紅茶の茶葉も自分で作っていた。
緑茶なら、俺も作れるんだけど、紅茶は発酵が必要で作れない。
料理スキルのLv.5まで行くと発酵というのがあるとか・・・!まだまだ先だけど、やる気が出るね。
さらに、店長から教えてもらった話では、港の前の市場で別の大陸(プレイヤーが来たことになっている大陸)から輸入された紅茶も売っていて、その品質が10らしい!これは買いだ!!
今回は店長から情報をもらうばかりだったから、次は俺も店長に新情報を提供できるようになりたい。
そんなこんなで、結局、店長とはフレンド登録した。
店長の名前は「店長」だった(笑)最初からカフェの店長をしたくて、その名前にしたらしい。
そして、ガーゴイル氏の名前は、「ハデス」だった。店長がつけたにしては意外な名前だと思ったら、「私めは、もともと名前持ちでして」という言葉がハデス氏から飛び出した。ネームドモンスター・・・。




