18. 地上げ屋ざまぁ回?〜ジェニファー視点
私は、情報屋クラン”WFタイムズ”のジェニファー。
セキ先輩の特ダネをもとに、今、ブラック・トレードと言うクランの本拠地の前にいる。巷で話題の地上げ屋のクランだ。
今日は、”魔除けの境界”の発売日。
この画期的な新商品は、土地バブルの崩壊を確実に招くわ。
こんな日だからこそ、地上げ屋の崩壊の瞬間をカメラに収めるべく、ここに来たってわけ!
私はこの記事を人気記事にしてみせる!!そして、セキさんと肩を並べるような記者になって、お近づきになり・・・ぐふふふ・・・!
漏れ出したピンクな妄想に、私の猫獣人のしっぽが無意識に踊り出す。
「ジェニファーさん、顔が崩壊してますよ〜。また、セキさんの妄想ですか?」
私に付いて来た黒髪・黒目・凡人顔のカメラマンのスズキが声をかけてくる。ここまでアバターをいじらないのも珍しいわよね。髪と目の色ぐらいはイジりそうなものなのに。
「ほっといてよ!!
それより、またあんたなの?!なんで私付きのカメラマンはいつもスズキなのよ!」
「まぁまぁ。俺がジェニファーさんを好きということでいいじゃないですか〜。それより、いつもの猫語が抜けて、素に戻ってますよ〜。ほら、ニャンニャン〜。」
こいつのいちいち癇に障る話に付き合ってる場合じゃないわ。私は気合を入れて、ブラック・トレードに乗り込んだ。
「初めましてニャン。私は、WFタイムズの記者、ジェニファーと申しますニャ。こちらは、カメラマンのスズキですニャン。」
私は営業用の猫語で笑いかけて、隣にいるスズキも紹介した。
猫語は、話を引き出すためのロールプレイ、いわばテクニックよ!猫好き、女好き、ケモナー、幅広い層に有効だわ!
きんきんきらきら、成金趣味な応接室の中で、目の前に立っているのは、ブラック・トレードのクランのマスター。金髪碧眼で見目麗しい長身のエルフの男だ。隣には20cmくらいの妖精の女の子が飛んでいる。
「これはこれは、WFタイムズの記者が取材に足を運んでくれるとは・・・!
私も有名になったものだな。
エドワードだ。テッドと呼んでくれ。」
と、私に手を差し出してきた。
ワールド・フロンティアでは、握手をするとフレンド登録ができる。いきなり、連絡先を交換しろってことね。たとえ、私が魅力的な女性だとしても、隣のスズキには一切、握手を求めないというのは、いかがなものかしら。
「エド、あたしという者がありながらー、猫耳女子に目がくらむなんてー」
妖精の女の子が飛び出して来て、抗議したけど、エドワードは妖精を掴んで口を抑え込んだ。
「(おい!紛らわしいこと言うな!!
お前の悪ふざけで、
僕にロリコン疑惑がかかってるんだぞ!)」
小声で言ってるつもりだろうけど、聞こえてますけどー。
エドワードは、何事もなかったかのように、肩をすくめて愛想笑いをした。
「失礼、この子はサブマスターのフェイ。見ての通り、妖精でね。」
この妖精、よく見るとプレイヤーだわ!しかも、最初のキャラ設定で、低確率で当たる妖精のピクシーね。ブラック・トレードのクラマスが妖精を連れてるっていうのは本当だったのね。
「さっそく、エドワード様のお話を伺いたいのですが、よろしいですニャ?」
「もちろんさ、なんでも聞いておくれ。」
エドワードはドヤ顔で足を組む。
そのエドワードの拘束から逃げ切ったフェイが、よく通る声で口を挟んだ。
「エドワードの名前は王子っぽくてカッコいいからつけましたー。本当の名前は二郎なんですー。」
「うぉい!!
(・・・・・フェイ、いい加減にしろよ?!)」
「アバターも300%ぐらい美形に盛ってますー。」
「うぉい!!
(・・・・・僕に何か恨みでもあるのか?!)」
再び、エドワードがフェイの口を手で押さえ込んで黙らせる。小声でフェイに文句を言っているのは、もちろん、聞こえていた。
ちっ!もっと早くからカメラを回しておくんだったわ。
この地上げ屋、やっぱり顔を盛ってたわね。私の独自統計では、金髪碧眼のエルフは、リアルの顔と比べて、盛ってる率が一番高いのよ・・・!同じ金髪碧眼でも、カレドヴルフの白馬の騎士とは、大違いね!あっちは本物の天然イケメン記念物!
そんなことより、この妖精、サブマスなのに、クラン内で対立でも起こしているのかしら??内輪揉めして、うっかりポロリをしてくれると、こちらとしても助かるのだけど。
「それでは、撮影をさせていただきますニャ。」
ここまでのところ、妖精の件以外ではエドワードに動じた様子はないわ。まだニュースは届いていないということね。いいわ、予定通り!
私は、こくりとうなづいて、スズキに合図を送ると、撮影を開始した。
「では、まず始めに、現在、ブラック・トレードの持っている土地がどれだけあるかを教えていただけますかニャ?」
「このブラック・トレードが所有している土地は、オーネン、ツールーズ、スリーベリーにあります。そして、最近解放されたエリアにある町フォービアにも進出しつつありますね。」
エドワードが誇らしげに言う。
「なるほど、今、確認されている全ての町に所有地があるということですニャ。
しかし、巷では、地価と家賃の高騰が問題になっていミャす。それについては、どのようニャお考えを?」
私がジャブのつもりで打った質問に、しらじらしいため息で答える。
「ええ、私どももその点については、心苦しいばかりです。限られた土地しかないのに、買い手は多数。値上げをせざるを得ないのですよ。」
口を押さえられている妖精がもごもご言っているのが残念だが、インタビューを進める。
「確かに需要が供給に追いついていないですニャ。しかし、ここ最近の値上げ幅は、家賃を払えなくなって、放り出される人も多いほどですニャ。」
「そうなんです!需要と供給が合わないことが全ての原因なのですよ!私共にはどうにもできないんです。家賃が払えず、放り出された人たちには気の毒としか言えないですね〜。」
家賃の上げ幅について言及したところで、しょうがない&俺には責任がない論に持っていかれて、冷笑された。
噂通り、イケ好かない奴のようね。ここから、本性を暴いてやろうじゃないの!!
私が次の言葉をかけようとしたところで、扉がノックされて、1人のエルフが駆け込んできた。
「マスター、大変です!!」
顔面を蒼白にして入ってきたのは、これまた見目麗しい金髪碧眼のエルフ。・・・こいつも盛ってるわね・・・!
「・・・どうしたんだい。今は、接客中だよ。」
エドワードが迷惑そうに答えたが、男は次を続けた。
「土地を売りたいと言う人と、賃貸を終了したいと言う人が続出しています!!
町の外の土地をホーム化する道具が見つかったそうです!!町中の土地代の下落が止まりません!!」
ドンピシャだわ。私達の待っていたニュースがついにもたらされた!
ブラック・トレードのバブル崩壊前後の激変ぶりを撮影するために、わざわざこのタイミングでここを訪れたのだから!
同じクランメンバーのステファニーには「やり方がゲスい」とか散々言われたけど、この記事を持って、不名誉な呼び名を卒業してやる!!
スズキが今もカメラを回していることを確認して、ことの成り行きを見守る。
「・・・本当か?!」
エドワードが起きていることの大きさを認識し始めて、顔つきが真剣なものに変わった。
「大手商人クランのゴールドラッシュをはじめとして、ホーム化の道具が売られているという裏が取れました!
100㎡が平均価格8万Gほどで取引されているため、ほとんどのプレイヤーはそちらに流れています・・・!」
「何だ、その馬鹿みたいに安い値段は!
フォービアの土地を買い占めて、これから売りさばこうというところだったのに!よりにもよってこのタイミングか?!」
エドワードが机を手で叩いて、歯を食いしばって悔しがる。そこでさらに2人のエルフが部屋に入ってきた。
「ツールーズからの報告が入りました。」
「スリーベリーからの報告も入ってきています!」
「どちらも、解約の顧客が殺到して収拾がつきません・・・!」
「オーネン支店では契約解除、返金が相次いでいます!30分前時点で合計1000万Gの返金が発生しています!」
「マスター、このまま収入源の減収と途中解約による返金が増えていくと、うちの財政が・・・!」
「何ということだ・・・!」
エドワードは、完全に私達の存在を忘れて、膝から崩れ落ちて顔色が悪い。部屋の中のエルフ達が絶望を感じ始めている。
・・・予定通り、バブル崩壊の瞬間が撮れているものの、実際に目の当たりにすると・・・。
その時、意気消沈したエドワードの手を離れて、妖精のフェイが飛び上がった。
「エドのざまぁ回、キターーーーーーッ!!」
場違いなほどの歓喜の声が上がった瞬間だった。
それからはあっと言う間で、フェイの指示でブラック・トレードの損害がギリギリのところで抑えられていく。
「モタモタすんな!顔だけエルフ!!」とフェイは部屋にいたエルフ達にビシバシ指示を与える。あんなに顔色が悪かったエルフたちが指示を受けて、水を得た魚のようにいきいきとしている。「フェイさんの命令、しびれるぅ〜」と聞こえてきた。
エドワードは、目を白黒させて、呆然としたままだった。
フェイに聞くと、「エドをいじるのが、私の生きがいなの!!」と目をキラキラさせて言った。「エドの面白いところはね、大成功して、調子に乗っちゃて、その後、落とし穴で盛大にこけるところなの!!リアルでも、ゲームでもね!」と濁りの無い目で力説されたわ。
さすが妖精。こんなにエグいことを言ってるのに、可愛いわ。”可愛いは正義”って、こういうことだっけ・・・?
フェイがギリギリで損失を止めたのは、エドワードの次の成功から落とし穴までを早く見たいからだった。
なるほど、これは・・・・"ドS妖精とへたれエルフ"ね。
そこまで手をかけるなら、「恋人なの?」と聞いてみたら、「へ?恋人(笑)ウケる(笑)」という返しだった。どおりで、「あたしという者がありながらー」が棒読みだったわけね。
取材が終わり、フェイは「あなた達の動画と記事、とても楽しみにしているわ」と満面の笑顔で私たちを見送った。
いつもは取材対象とフレンド登録を交わさないスズキが、そのドS妖精とは珍しくフレンド登録していたので、不思議に思って聞いてみた。
「フェイさんとは、気が合いそうだと思って。」
そう言ったスズキの笑顔に、なぜか悪寒が走ったわ。いつもの人畜無害な笑顔のはずなのに!
エドワードは「覚えてろよ〜」系悪役です。
エドワードと言う名前の愛称は、テッドと言うのは本当にあるらしいです。
「エドが滑ったわけじゃないんだからねっ!
私はテッドとは呼ばないけど(笑)」byフェイ




