17. 儲け話
「"魔除けの境界"の調合方法を公開する?!」
商人のアッキーが驚きのあまり、声を上げた。
「ほんまに?!
公開せずに、独占したほうがボロ儲けやん?」
アッキーが焦って確認をしてくる。
「俺もそう言う話をしてみたんだけどな。
ルーは、独占するつもりはないそうだ。」
カイトが苦笑いで答えて、俺も話を続ける。
「これだけ土地が高騰してる中、1人で売っても、暴動が起きそうで怖いからな。PKができないゲームだけども。
それに、ここにいる3人みたいな人達に土地を渡した方が、よっぽど面白いことになりそうだ!」
地上げで困っていた画家のミント、魔導技師のE2、大工のロドリゲスを見て、俺はニヤリと笑った。
「なるほど、それで俺の出番というわけか?」
記者のセキがカイトに向けてそう言った。
セキは、情報屋のクランに在籍していて、ワールド・フロンティアのプレイヤー向けにニュースを配信している。WFタイムズという媒体だ。
記者や学者などの職業のアーツに「スクロール作成」というのがあるのだ。オリジナルで作成したレシピも、スクロールにすると、他の人にも簡単に使えるようになる。配合を教えるだけでも作れないことはないが、スクロールで習得した方が品質・効果が上がる。
発案者のカイトが今回の落としどころを切り出す。
「セキに配合方法をニュースで配信してもらって、アッキー達商人には実物商品とスクロールを売ってもらえないかと思ってる。できるだけ多くの人が作れるようになると、価格も安くなるからな。」
セキがその話に感心して唸った。
「・・・そういうことか。
この魔除けの境界は、水をあげて枯れないようにしないといけないのがデメリットだが、土地の確保には十分だ。そのデメリットも問題にならないだろう。
今の土地の値上がりは、そもそも町の中の限られた土地しか買えないことが原因だからな。魔除けの境界によって、町の外の土地も買えるとなると、確かに土地の値段が安くなるだろう。」
カイトがクランの薬師に頼んで作った魔除けの境界は、俺が作ったものよりも品質は低かったが、1ヶ月の効果でも、十分に売れる見込みがあるそうだ。
「売価が安いなら、欲しがる人は増えるで!売上が見込めそうやわぁ!
うちのクランは助かるけど、ルーは、ほんまにそれでええの?」
アッキーの問いに俺がうなづくと、カイトがフォローするように言った。
「ルーが見つけたのは、大発見なのは間違いないけど、俺は、代替品や魔法が他にも見つかる可能性が高いと思ってる。
というのも、効率は高くないが、魔除け薬の濃度を濃くしても、同じような効果が出たんだ。
それから、なんと言っても、魔除けの境界のレア度は2と低い。きっと、土地を確保する方法はいくつかある。つまり、土地を高値で独占することは難しいはずだ。」
魔除け薬というのは、フィールドで休憩したいときに使う効果時間が短いものだ。1つ500G也。俺がカイトと狩りへ行った時に、手作りした薬だな。たしかに、高品質だと効果が数時間もつ。休憩に使うにしては長いと思っていた。
「ほんまそれやで。
ほとんどの商人プレイヤーは、運営が土地の高騰に規制を入れるって読んどったんや。
せやけど、魔除けの境界が見つかった。
他にも土地確保の方法があるっちゅう、カイトさんの話は信憑性があるなぁ。
運営はそれ知っとって、黙って見てたんちゃう?ほんなら、今後、土地の高騰は起こらんやろ。
それに、気づいとった?!これで、プレイヤーは町づくりまで出来るで!!」
アッキーが興奮して言ったことに、セキも同意して言う。
「あぁ、それは思った!隣町まで1週間かかるのには驚いたけど、今回の件で、町と町の間に宿場町を作ったりもできちまうよな!」
なるほど、RPGだけでなく、シミュレーションゲームの要素まで加わってくるということか。シティが作れちゃうんだな!
「俺も、なるほどと思ったよ。このゲームは”世界の未開拓地”って言うぐらいだ。これ以上の開拓はない。
それに、なんとなくだが・・・、攻略の前線にいて、戦闘以外の要素で進めることが増えてる気がするんだ。今回みたいなこともこのゲームを進める鍵になりそうな気がする。手頃な価格で土地が手に入れば、特に生産組のテコ入れになると見てるんだ。どうだろう?協力してもらえるかな?」
俺は、魔除けの境界を高く売らないということだけを決めて、カイトに任せていた。こいつの方が、このゲームを長くやってるし、こういうことが得意だからな。それに長い付き合いだ。俺にとっても、ゲームにとっても、悪いことにはならないだろう。
「かなわんなぁ。カレドヴルフの白馬の騎士様にそんなん言われたら、受けて立たな、しゃーないやん。むしろ、カイトさんの見通しは、賭ける価値あるで!
それに、バブル崩壊の引き金を引くとか、絶対おもろいやんw
しばき倒される地上げ屋とか、見たいわぁw」
アッキーの笑顔が黒い・・・。
「俺の方は、スクロール作りの人員を手配するぐらいだ。むしろ、こんな特ダネ、ありがとよ!さっきの動画も使わせてもらうぜ!」
話がまとまったところで、ホッとした。
俺は、この日までに作り溜めていた、魔除けの境界を今日ここにいる人たちには渡しておいた。1個1万Gで売った。アッキーは、まだ安い!と騒いでいたが、俺は一気に10万G以上も手に入ってホクホクだ。
ロドリゲスは、クランの建物を建てる分の土地だけを引き取った。もっといらないのか?と聞くと、十分だと言う。
「商人経由で土地が出回れば、こっちには嫌というほど、仕事が回ってくるだろうよ!お前さんのおかげで、個人でも土地をもてるようになるから、面白そうな依頼がきそうだな。今から楽しみだ!」
とガハハハと豪快に笑う。
「私も宿代を気にしなくて良くなったどころか、画廊を開いたり、お店を開く余裕ができそうです!本当にルーちゃんには感謝してるんですよ!」
ミントも笑顔だった。
りんと仲良くなったようで、怖ネコの可愛さについて盛り上がっている。
さらには、魔除けの境界がメルヘンちっくで素敵だと話していて、耳を疑った。
「イバラの柵と言ったら、眠り姫以外に考えられないよ!それにお兄ちゃんの職業は魔女じゃない。魔女とイバラの組み合わせは、眠り姫の鉄板なんだから!」
りんが力説してくる。
・・・俺には有刺鉄線リングにしか見えなかったのだが。プロ助達だって、大盛り上がりだったじゃないか。
魔導技師のE2にも魔除けの境界を分けていたが、線路を通すとなると、やはり量が圧倒的に足りない。
「天使よ、心配は無用だ。うちのクランには、調合スキル持ちも多くいるからな。これから忙しくなるぞっ!!」
クラン内で生産を進めつつ、外部からも購入していくと言う。そして、カイトとアッキーとセキの間では、E2のところに一部優先的に販売をすることで同意した。
「ルーにはいつも驚かされるけど、ここに機関車クランの2番手がいたのは、ラッキーだな。」
なんと、E2はクランのサブマスターだった。
カイト達曰く、移動手段を作ろうとしていて、試用段階までこぎつけたクランはE2のクランぐらいしかないらしい。他は飛空艇を作ろうとしているところはあるらしいが・・・。
カイトが懸念したのは、川の橋や山道などの狭い通り道の土地を確保されて、使用料を取られたり、独占されることだった。まぁ、やり過ぎなら、運営に取り締まられるがな。それを防ぐ意味でも、路線開通で土地を確保するのが効率的だと考えたらしい。その土地確保には、E2のクラン以外に、アッキーやセキも絡めて、利権を分散するとか。・・・こいつ、よく考えてるな!株やら何やらで大学の学費を払ってるだけある。
「商売の話もまとまったことやし、全員でフレンド登録せぇへん?」
アッキーが今後の儲けを試算して、ホクホク顔で声をかけてきた。その場にいる全員が賛同して、円陣を組んで手を重ねた。
「それじゃあ、魔除けの境界の成功を祈って」
『ヤったらーーー!』
みんなで、あの決まり文句を叫んで手を上げると、フレンド登録が完了した。
ワールド・フロンティアは、握手したり、円陣を組んでも、フレンド登録がされるようになっているのだ。
細かすぎる設定として、アッキーの指摘は少し当たっています。
World's Frontierが運営の予想よりも売れてプレイヤーが多くなったのに、生産スキルを持つプレイヤーが予想よりも少なかったので、魔除けの境界など、ホーム化アイテムがなかなか見つけてもらえませんでした。不動産バブルが起きてしまい、ホーム化アイテムを見つけやすくするか、規制を入れるかを運営が検討し始めたところに、主人公が魔除けの境界を発見しました。そのため、運営が主人公をモニタリングしていた(6話後書き)・・・という細かすぎ設定でした(笑)
実際、ゲーム内経済というのは、今後さらにプレイヤーが増えて行くと、注目が集まる話題なのかなと思います。




