14. 見習い包丁と酔っ払い
ミントの帰りを見送ったところで、今度は夜の食堂の準備だ。
明日は現実世界で祝日なのもあり、食堂内はNPCよりプレイヤーが多くなっている。
昼と同様、夜も忙しかった。あまりの忙しさにギルさんの弟子のイリーまでが厨房を出て、料理を運ぶこともあった。
その間、怖ネコはたまに思い出したように、俺の頭の上に乗りに来る。料理を運ぶ量は減らせないので、俺の頭の上に猫が寝そべり、その上にさらにお盆をおいて料理を運ぶ。今日も使い魔のスキルは大活躍。アクロバティックな皿運びは客に大ウケだ。
ようやく夜の営業が終わった。厨房に行くと、ギルさん、マギーさん、イリーが集まっていた。
ちょうど良かったので、俺は今までお世話になったお礼として、HPポーションとMPポーションを贈った。
マギーさんがその場で飲んで、「美味しいじゃないかい!」と俺の背中をドンっと叩いた。一瞬、息が止まったぞ。それを皮切りに、ギルさんとイリーも飲んでくれた。イリーも「ポーションにこんな美味しいものがあるんですね!」と感心していて、その横でギルさんが「・・・良い・・・」とボソッと呟いた!
・・・いよっっしゃーーー!!なんだろう、この達成感は。野生の狼がとうとう近寄ってきてくれたみたいな。これが、ツンデレ??
俺は、美味しい料理を作れたら、また狼の晩餐のメンバーに食べてもらいに来ようと思った。
おもむろにギルさんが箱を取り出して、俺に手渡す。開けると、料理道具一式が入っていた。包丁、砥石、ボウル、鍋などだ。俺は包丁を手に取った。
見習い包丁:品質3 レア度1 攻撃力+10 器用+10
え?包丁って、攻撃力つくの?剣術系スキルは持ってないから、戦闘では使えないだろうけど。ふと気になって、ギルさんの包丁をじっと見る。ギルさんの包丁は、形が剣に近くて気になってはいたんだ。鑑定が発動した。
カレドヴルフ(包丁):品質10 レア度10 攻撃力+1000 完全浄化 闇魔法無効
・・・は?
この間、カイトのクラン名が”カレドヴルフ”だと言っていた。「どう言う意味だ?」と聞いたら、ウェールズ語で”エクスカリバー”の意味らしい。剣好きなクランマスターとファンタジー好きなメンバーでその名前を選んだとか。剣を集めるためにクランを始めたらしく、もちろん、エクスカリバーは大目標の1つだそうだ。いや、カイトのクランの話は今はいい。とにかく、ギルさんの包丁がエクスカリバーだった。まじか。
そういえば、包丁が石に刺さってたな。砥石機能のある包丁スタンドだと思ってたんだが・・・。この世界ではエクスカリバーは、よくあるものかもしれない。・・・攻撃力がたとえ1000で、レア度がMAXでもな。・・・うん、見なかったことにしよう。
俺は、狼の晩餐のメンバーに礼を言い、食堂を出た。
食堂の裏口を出ると、夜も更けているのに、騒がしい声が聞こえた。すぐそこの路地裏でワイン樽をテーブルにして、立ち飲みをしている2人組がいる。
見覚えがある。夜の食堂で酔っ払って騒いだので、追い出した2人組のプレイヤーだった。
「おーい、そこのお兄さん達。ここは狼の晩餐の裏口ですよ。まだ飲み足りないなら、家に帰るか、別のお店へ行ってはくれませんかね?」
今晩まで狼の晩餐の一員だし、従業員の立場として立ち退きをお願いする。悪い評判になっちゃ困るからちょっと丁寧語だが、こういう輩には舐められないようにいかないとな。
「はぁ。こんな可愛いお嬢ちゃんにまで、僕は追いやられるのか・・・。」
20代後半ぐらいのエルフの男がため息交じりに、机がわりのワイン樽に突っ伏した。
長い茶髪をゆったりと後ろで1つに結んで、丸いメガネをしているのは知的な印象だが、両腕は義手のような金属で覆われいている。
「まぁまぁ、飲めよ!
赤ずきんちゃん、悪いんだが、少しだけ見逃してくれないか。」
角のついた牛獣人のおっさんが、エルフに木のジョッキを促しながら、俺に苦笑して視線を寄こす。このおっさん、縦にも横にもでかいな。もみあげと口髭が印象的なラテン顔。ちなみに尻顎だ。
「はぁ。・・・また、地上げがらみですか。あと10分ぐらいで本当に退散してくださいよ。」
俺もため息で返すと、おっさんが驚いた顔をした。
「よくわかったな?俺らが地上げで荒れてるって。」
「そりゃ、食堂でもその話題が一番多いですからね。あと、昨日は、ゴブリンの巣の討伐の話題もあったな。」
「そうなんだよ、聞いてよ!ゴブリンの巣の討伐特需でようやく素材が揃ってきたのに!このタイミングの地上げで、クランの家賃が上がって、僕らの研究がストップしそうなんだ!!ゲームの中でも予算を気にしないといけないとか!世知辛い〜。」
このエルフの兄ちゃんは、E2と言う名前で魔導技師という職業だった。所属クランは、魔導機関車の発明を目指しているそうで、車両が完成段階に入っているらしい。本当になんでもできるんだな、このゲーム。
「・・・と言うわけで、僕たちは、現実の世界の機関車の仕組みと動力にこだわり過ぎていたんだ。魔法を使うことで、1つの動力に頼らず、パーツごとに動力の役割を持たせることができるのがこの世界の・・・」
いかん、E2のスイッチが入ってしまった。機関車の実用化までの話が長いし、専門的でよくわからん。理解できてない俺と、話を聞かずにジョッキを呷る牛獣人のおっさんを置き去りにした。E2は、興が乗ってきたらしく、開発中の魔導機関車の動画を見せてくれた。
話にはついていけなかった俺だったが、この動画には食いついた!
「すごいな・・・!かっこいい!!!」
「やっぱり、分かるかい!この車両の良さが!!!」
機関車といっても、そこはゲームなので、SFとファンタジーが混ざったようなワクワクする風貌に仕上がっていた。パーツの下に間接照明のようにライトを仕込んだり、素人目にもフォルムやデザインにまでこだわっているのがわかる。特に車輪をデザインした奴に並々ならない情熱を感じるな。使ってる金属も現実にはないものだろう。そして、動画のカット割りがプロすぎる。
「・・・実用化が近いってことは、街中を走るのか?」
俺がふと漏らした問いに、ずっと喋り続けていたE2が初めて押し黙った。
牛獣人のおっさんが沈黙を破る。
「ぶはっ、痛いところをつかれたな。そこが大問題なのさ。
土地が高騰しきって、試用運転をする土地さえも買えねぇんだ。」
と、笑いながら皮肉った。E2がうなだれて、続ける。
「その上、クランの拠点の賃貸料が上がって、完成間近で必要な素材費まで厳しくなってるんだ・・・。
この機関車で最高速度を出せる日が来ないんじゃないかと思うと、本当に苦しいよ・・・。」
「うちも、トップクラスに大工が多いクランなんだけどな。高い賃料にはお手上げさ。大工が住むところに困るなんて、ブラックジョークもいいところだな。それに、土地代が上がると、収容力のある建物が必要になるから、アパートみたいな建物の依頼ばかりで、つまんねーの、何のって!」
くだを巻いて、酒を呷る。
牛の獣人は、ロドリゲスと言って、大工のクランマスターをしているらしい。
二人と会ったのも何かの縁だ。俺は二人とも東門で明日会うことを約束して、路地裏の違法立ち飲みバーから強制退去させた。




