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13. 困ったときはお互い様

 


「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」

「ルーちゃん、おはよう。今日もよろしく頼むよ!」


 今日は、待ちに待った、狼の晩餐のお手伝い3日目だ!!今日が終われば、初心者料理セットが手に入るぜ!!


 俺はこの数日と同じように、食器洗いと掃除から始めて、昼飯時(ひるめしどき)という戦場に備えた。

 今日も今日とて、昼飯時は鬼のように忙しい!使い魔も常時発動中で、お盆にバランスを取らせて、頭の上に皿を乗せて走り回るのも評判になってきていた。


 ようやくお客さんが引いてきたところで、すぐ近くの客席から椅子が倒れる音と女性のやや大きな声が聞こえた。


「そんな!困ります・・・!!」


 羊のツノとミントグリーンの髪を持つ女性が、席を立った男性にすがるような声を上げて、引き止めていた。男性は、背が高くてヒョロ長いヒト族で、目が細く、人当たりの良さそうな人だ。


「なんとかしてあげたかったんだが、クラン全体を考えるとこうするしかなくてね。これ以上はどうにもならなかったんだ・・・。」

「マスターにはとてもお世話になって、本当に感謝してます。でも、宿代もほんの数日しかないんですよ・・・。」

「本当に申し訳ない・・・。」


 男性は女性に頭を下げて、店から出て行った。残った女性は立ち尽くし、男性が出て行くのを見送る。


 ・・・おおう、事情はわからないけど、なんだか修羅場みたいだな・・・。


 食堂であり、酒場である狼の晩餐は、昼も夜も騒ぎが起こることが多い。

 ルーもこの3日で何度となく仲裁に入っている。NPCもプレイヤーもどちらも騒ぎを起こす奴がいるのだが、どっちに対しても、この幼児の姿はなかなか有効に働いてくれた。


 狩りにも行かずに食堂でバイトするクエストを受けていると、プレイヤーからは、実年齢も小学生ぐらいなんじゃないかと思われているらしい。小学生プレイヤーがバイトに憧れて、町中の雑用を受けることがあるとかw 現実世界にも、子供に職業体験をさせるテーマパークがあるぐらいだもんな。


 ポツリポツリとしか客がいなくなっても、羊獣人の女性はまだ席に座っていた。


「よかったら、どうぞ。」


 見兼ねた俺は、ギルさんに断って、自分の賄いの一部をその女性に分けた。今日もソーセージとマッシュポテトだ。


「・・・そんな、悪いわ・・・!」


 女性は断ったが、お腹がぐーっと鳴った。

 空腹システムがここまで作り込まれているとは!相変わらず、このゲームは侮れない。

 恥ずかしそうに顔を赤くした彼女は、消え入るような声で「やっぱり、いただきます。」と言って食べ始めた。


 さっきの男性が出て行く前から、彼女は一番安い飲み物しかオーダーしていなかったのだ。話から察するに、金欠だろう。


 金欠つらいよな・・・!

 俺も貧乏旅で公園で寝袋で寝てたら、地元の人がご飯分けてくれて、泣きそうになったことがある。お返しに庭の草むしりしたら、逆にお土産を沢山もらったけど。困った時はお互いさまなのだ。


「金足りてないのか?」

「・・・はは、さっきの話、聞いてたのね。職業で画家を選択したら、狩りもまともにできなくて、クランの家賃が払えなくなってしまったの。さっきの人は、クランマスターで、ぎりぎりまで粘らせてくれたけど、他のメンバーがいる手前で特別扱いできないからって。はぁ。土地代の値上げがあるまでは、なんとかなってたんだけどな〜。」


 ここ数日、この食堂でよく聞く話の1つが、地上げ。

 エリアが解放された4つの町の中で、ホーム設置できる土地が高騰がしているのだ。ゲーム開始当初は10万Gだった土地が、100万Gになってるとか。バブルである。そりゃ、限られた土地しかないのに、どんどんプレイヤーが参入すれば、そうなるよな〜。


 生産職で金がない話に共感して、俺たちは自己紹介をする。彼女はミントと言った。

 話は彼女の絵画作品の話に移っていった。このゲームで描ける絵がどんなにすごいかということを語ってくる。なんでも、脳波のイメージを読み取って絵を描く技術が使われているらしく、現実よりも思い通りの絵が描けるらしい。どおりで、俺の魔法も指先1つで発動するわけだ。


「私、この世界でやりたいことが沢山あるけど、人気キャラを生み出したいの!」


 そう言って、ミントは絵を描く。

 画家は絵筆だけで、空中にも絵が描けるらしい。ものの数秒で白黒の絵が描けた。彼女は次々と絵を描いていく。


 この絵は・・・シュールレアリズムなのか?うちにいる二次元コロボックルよりも、雑な絵に見えるんだが。

 俺は、キモかわいいとか、かっこかわいいとか、かわいいのバリエーションがよく分からない人間だからな・・・。よく妹にもダメだしされるぜ・・・。


「どう?!コワかわいいキャラを目指してるの!」

「えー?俺には分からないかな〜。」

「えー、残念。。。」


 うっかり出た俺の本音に対して、あまりにもシュンとする彼女に焦る・・・!女の子の気分を上げるとか、そんな芸当、俺には無理だってば!!


「あ、でも!こいつはカワイイかもな〜・・・なんて。」


 近くに描かれた、唯一、ネコと推測できる絵を指差す。この黒猫、目つき悪すぎるだろ・・・。


 彼女はパァっと目に見えて、明るくなった。

 おおう、正解だったようだな。一安心だ。


「本当に?!あ、でも、ちゃんと普通の絵も描けるのよ!!」


 そう言って、隣に黒猫の写実画を描いてきた。普通に上手い絵だった。いや、普通ではなく、めっちゃ上手い!!さっきのようなシュールレアリズムじゃないという意味では普通寄りな画風なんだけど、すごく精密な絵だった。こういう絵なら、俺みたいな凡人の理解の枠におさまるのだ。


「ミントの役に立てるかもしれない話があるんだけど、明日、この街の東門に来れるか?」


 カイトには、魔除けの境界については、誰にも言うなと言われていて、明日、話し合いをする予定だ。そこにミントも連れて行って、なんなら魔除けの境界を分けてあげよう。


「明日なら、行けるかも。・・・出会ったばかりなのに、色々とありがとうね!

 ・・・あ!お礼に、このニャンコの絵、もらって♪」


 綺麗な笑顔でお礼を言うミントにドキッとして、高いテンションで怖ネコに使い魔を行使して、動けるようにしてみた。

 すると、怖ネコはその絵柄からは想像できないほど、本物の猫の動きをして、シュタッと俺の頭の上に乗ってきた・・・!


「ニ”ャー」


 鳴き声がイメージ通り、低くてドスがきいた感じだった・・・。


「かわいい!!!

 すごい、ルーちゃん!私の絵が動くなんて!!

 アニメ化ってこんな感じなのかしら!!」


 ミントは大喜びしている。


 なんか、やりすぎたか・・・?明日も怖ネコを連れて行くことになった。


 じっと怖ネコの目を見る。


 この手書き感のある目つき、見覚えあるな。

 ・・・酔っ払って顔に油性マジックで落書きされたのを思い出すぜ。俺もやり返したけど。まぶたをつぶった上に落書きされた目は、なんとも言えない不気味さがあるよな・・・。



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