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04 そうだ、嫌がらせをしましょう

 当面の目標(まず手始めにドドリーに嫌われるところから始めましょう!)を設定し、私は姫様を連れて部屋に戻った。

 姫様が眠るのを見届けてから私は、あの純粋無垢な料理長、もといドドリーからいかにして嫌われようか……ということを一心に考えていた。


 ただ悪口や嫌味を言うだけではアイツには効かない。純粋無垢というプラスの性格が、むしろ私にとってはマイナスでしかない。

 悪くとか以外で……なにか行動で嫌われるしかないか……と思っていると、私は思いついてしまった。


「そうだ、嫌がらせをしましょう」


 彼が最も嫌がるであろうことを考えた時、真っ先に思いついたのは、料理に関する嫌がらせだ。

 彼は料理馬鹿だ。料理のことしか考えていない。だから、きっと料理のことで嫌がらせをすれば、すぐに嫌われるだろう。


 あぁそうだ、姫様とドドリーの関係について改めて説明させていただこう。


 ドドリーと姫様との最初のイベントは、姫様に料理を教えるというものだ。

 姫様は最初、料理がド下手だった。

 クッキーを作れば真っ黒な炭ができあがり、ハンバーグを作ろうとすれば何故かフライパンに置いた肉が爆発した。

 まだ私が教えようとしていた頃は、このくらい料理下手だったのだ。

 だから私は匙をドドリーに投げたのだ。姫様に料理を教えてください、と。


 彼は最初姫様のことをさほど好きではなかった。もちろん嫌いでもなかったが。いわゆる初期ステータスというやつだ。


 しかし、そのうちに失敗ばかりする姫様のことが可愛く見えるようになってくるのだ。

 姫様は、失敗した料理ですら食べきり、食材を粗末にしなかった。失敗しても何度もそれを乗り越え、今ではひとりでほとんどのものを作れるくらいのレベルにまで成長した。

 その成長を一番近くで見ていたドドリーは、そんなひたむきで健気な姫様に、いつの間にか恋をしていた、というわけだ。



 料理長である彼が庭園にいた理由はハーブを摘みに来たから。……なるほど、ハーブか。

 嫌味を言っても気付かないなら直接手を下すしか方法はない。


 私が思いついたのは次のような作戦だ。


 私は彼が来る前に庭園にやって来て、ハーブを摘む。

 そしてそれを、庭園の入り口であるバラのアーチの下に積み上げる。

 アーチの下となればかなり視界に入りにくい場所であるため、このハーブは恐らく見つからないだろう。

 そうすれば、今必要としているハーブが見つからずにイライラするだろう。そこに私が颯爽と登場するのだ。


「やっぱり貴様には庭園が似合いませんね。ところでハーブはどうしたのですか?昨日はハーブのためにここへ来ているとおっしゃっていましたけど、あれは嘘だったのですか?ハーブの姿は見当たりませんけど」


 と言ってさらにイラつかせるだけイラつかせておいて、「あら、時間ですのでこれで失礼します、脳内お花畑さん」と言い残して颯爽と去る――はぁ、完璧すぎる作戦に思わずドヤ顔を決めてしまう。

 これで彼は私のことを嫌ってくれるはずだ。いやむしろ嫌われすぎて、これから私が嫌がらせを受けるかもしれない。……それはちょっと嫌だけど、どれもこれも全て姫様のために!


 善は急げと言うし、明日にでも決行しなければ!

 私は布団に入って意気込むと、意識を眠りに沈めた。



 おはよう私、おはよう姫様、おはよう世界!

 結局ドドリーが悔しがる――否、私のことを嫌って睨みつけてくる――のが楽しみで一睡もできなかった私だ。

 だが、ドM精神からくるそれではない。断じて違う、そこだけは勘違いしないでほしい。


 深呼吸を2、3回ほどし、ようやく(たかぶ)っていた気持ちが落ち着いてきた(ような気がした)ので私は身支度を整え、姫様のもとに向かう。

 メイドである私の朝は、姫様より先に起きて準備をし、姫様の身支度の手伝いをすることから始まる。なんて幸せな仕事なんだ。


 私は控えめに姫様の部屋の扉をノックし、失礼します、と小声で言い、部屋に入った。


「おはようございまーす」


 気分は寝起きドッキリだ。姫様をどうしてくれよう、寝起きバズーカ……さすがにまずいか。


「姫様、おはようございます。朝ですよ」


 姫様を起こすために私は姫様のベッドを向いて声をかける。


「……あら、もうそんな時間?」


 ふわぁ、と欠伸をしながら起き上がった姫様は、いつものように完璧な姿ではない。寝起きなのだから。


「……こんな姿を見れるなんて、役得にも程がある。私そろそろ死ぬんじゃない?」

「何か言ったかしら?」

「いえ何も」


 姫様を起こして身支度を整えると、姫様とともに朝食の席へ向かった。

 姫様の部屋からさほど遠くないところに食堂があり、そこで姫様と私とで朝食を食べる。

 本来なら(あるじ)とメイドが同じ場所でご飯を食べるというのはタブーだ。だから私も最初は「いえ、そんな……いけません、姫様」と断っていたのだが……。


 姫様が「一緒に食べましょう?」と、それはもう麗しい笑顔で(首を傾げるという高度な技術を駆使して)言ったので、私はあっさり陥落……いや、かなり時間を要したがやむを得ず「はい、喜んで!」と答えた。

 ……申し訳ない、私は大きな嘘をついた。

 その時の私の内心はお祭り状態だった。嬉しさのあまり、飛んで跳ねて喜んだ。どんちゃん騒ぎどころの話ではない。ガチャンガチョンドゥルルルル気分だった。……なんだそれ。


 とにかく、私は紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、姫様と一緒にご飯を食べることになったのだ。


「今日の朝食は何かしら……」

「楽しみですね」


 たわいもないことを話しながら朝食の席につくと、ウェイターたちが料理を運んできた。

 そして、料理長であるドドリーが今日の料理の説明をし――


「ドドリーだ!まずい!」

「……何がまずいのかしら?」

「ま、不味かったか……?今すぐ作り直してくる!」

「……あ、違います!美味しいです!だから大丈夫です帰ってきてください!」


 必死に言い募れば、「良かった……」と、隠しもせず安堵の表情を浮かべたドドリー。

 ダメだな、今日は思ったことが口に出てしまう日のようだ。極力黙っておこう。



 無事に朝食を食べ終え、姫様を部屋に送り届ける。


 いやはや、ドドリーの作る料理は天下一品級に美味しい。のに、性格が残念なせいでそれを楽しめない。――「どうだ、うまいか?」とそう何度も聞かれればさすがに嫌になるというものだ。いやまぁこれも「姫様に美味しい料理を食べていただきたい!」という純粋さからくるものなのだろうが――


 姫様主催の茶会があるらしく、その準備のため今日は朝食後真っ直ぐ部屋に帰りたいと言われたのだ。いつもなら散歩なり何なりするのだが。


「そうですか……」


 私は落ち込むフリをした。姫様主催の茶会があるなんてことを、この私が知らないとでもお思いか?先週くらいから把握していたぞこっちは。

 だから、今日なのだ。


「では、わたくしも仕事(嫌がらせ)があるので失礼します」

「えぇ。頑張りなさい」


 やった!仕事が姫様公認になった、これで安心して嫌がらせしまくれる!


 ……なんてしょうもないことを考えながら歩いていたら、いつの間にかもう庭園に着いていた。

 私は庭園に着くなり、せっせせっせと、しかしコソコソとハーブを摘む。そしてそれをアーチの下に積んだ。


「……よし、できた!」


 ざまぁみろ!これでドドリーも私のことを嫌いになるだろう!

 これで準備は整った、私は彼に見つからないうちにそそくさと退散して……


「……何を、しているんだ?」


 運悪く、ちょうど私がハーブたちを積み上げた直後に、彼はここにやってきた。

 しかも、私が懇親のドヤ顔を決めているその瞬間だ。バッチリ見られた。めちゃくちゃ恥ずかしい。


「俺の畑に何をしてるんだ?」


 え、待って。そのお顔はガチの顔では……


「……おい」


 待てって。テレビなら不適切な表現でモザイクかけられるレベルの般若顔だぞ。結構……いやかなり怖いぞやめろよ。

 でもその顔も、すぐに消えた。


「あぁなんだ、収穫を手伝ってくれていたのか。昨日アイリスには言ってたもんな。ありがとうな、アイリス!」

「え?……あ、ええ、どういたしまして」


(私の思ってた反応と違う!もっとこう……怒って私のことを嫌うはずだったのに!好感度上がってない!?)


 ドドリーに嫌われるためにハーブを収穫したはずなのに、向こうが勝手に「収穫を手伝ってくれた」と解釈してしまったせいで、私への好感度は少し上がってしまった気がした。


(つ、次よ……!まだなにかイベントはあるはず!)


 そっと心に次回の嫌がらせを誓い、その日は眠りについた。

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