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03 姫様のためならイノシシにだってなってやりましょう

 次の日、私は姫様を連れて王宮の庭園を散歩していた。


 ここの庭は、かなりお年を召したお爺さまが管理している。初めはそんな歳なのに庭師なんて仕事をしていて大丈夫なのかと心配に思っていたが、それは杞憂だった。

 彼の倍くらいはあるであろう岩を軽々と持ち上げたのを見た時の驚きと言ったら、猫が二本足で立って踊りだした時と同じくらいだろう。誇張や嘘ではない、かなり真面目な話だ。私はこの目で見たのだ。……本当だって!信じてよ!

 ……なんて言っている暇はない。


 なんと!私は今、姫様の隣を歩いているのだ!しかもふたりきりで!


「はぁ……」


 幸せな溜息を零すと、それを聞いた姫様が私の方を見て「どうしたの?」と問うた。こんな、わたくしのために、姫様が心配を!?


「……いえ、幸せすぎて多幸死(キュン死)してしまうのではないのか、と自問自答していただけです。お気になさらず」


 姫様は眉をひそめて「はぁ」と曖昧に零し、まぁいいわ、と目の前の景色に集中した。

 今日は少し風があり、色とりどりの花の香りが鼻腔をくすぐる。


 とても甘く、そして時折フワリと酸っぱい――


「ん?酸っぱい?」

「……あぁ!ベルベット王女とアイリスちゃんではないか!元気にしてたか?」


 ……厄介な奴と出会ってしまった。酸っぱい(汗の)匂いの根源はお前だったのか、ドドリー……!



 彼はドドリー。この王宮で料理長をしている。

 短く雑に切られた赤髪に、橙色の目を持っている。それらは彼の性格をよく表していた。……よく言えば熱血的、悪く言えば暑苦しい男なのだ。

 こんなだが、見た目は良いので、勿論攻略対象のひとりになっている。


「心配してたんだぞ、しばらくここに来なかったから」


 ドドリーは真っ直ぐで、純粋で、まるで心配性で優しいお兄ちゃんのような――


「いいか?体調を崩したらすぐに俺を呼べ!元気を分けてやるから!ほら、今すぐにでもいいんだぞ!」


 ――失礼、前言撤回だ。ただただ暑苦しいだけの熱血料理長だ。こんなヤツが兄だなんて、こちらから願い下げだ。手を広げ、ジリジリと近寄ってくる男に、私は嫌悪感を抱かざるを得なかった。


 ちなみに彼は姫様と幼い頃から一緒にいる、いわゆる幼馴染というやつだ。はぁ、羨ましい……、ではなく。


「何故貴方のような野蛮……失礼、熱血的な方がこのような場所にいらっしゃるのですか?」


 ――お前みたいな奴にはこんな綺麗なお庭園は似合わねぇんだよ。

 暗にそう告げれば、「む?何故俺がここにいるかって?」と質問返ししやがった。すっとぼけも甚だしいし見苦しいぞ。


「ここには花だけじゃなくてハーブもたくさん生えてるんだ。まぁ、俺がヴィンセントさんに頼んだんだけどな」


 ……筋が通っていてなんだか悔しい。何故だろう。

 ちなみに、ヴィンセントさんというのは、庭師のことだ。


「……そうでしたか」


 というかコイツ、私の嫌味に気付いている様子がない。

 ゲーム内プロフィールや公式サイトに書いてあった通りだ。コイツはかなり純粋無垢だ。厄介すぎる。



 姫様を幸せにするためには、私が攻略対象サマから嫌われる……つまり、恋愛フラグを回避しなければいけない。

 だが私はコイツ――純粋無垢で人を嫌うことを知らないドドリーから、どうやって嫌われるか。それが当面の問題だと気付いてしまった。


 あちらにも、当然こちらにも恋愛感情はなくとも、何かのはずみで恋愛フラグが発生してしまうかもしれない。

 もしそうなってしまえば――姫様を幸せにするという目的が達成出来なくなってしまう。むしろ姫様を不幸に、バッドエンドに落としてしまうことになる。


「……よし、頑張って嫌われよう!」


 おおよそ前世ではなかったであろう当面の目標に少なからず首をかしげたくなるが、どれもこれも全て姫様のため。

 猪突猛進(ちょとつもうしん)、姫様のためならイノシシにだってなってやりましょう!

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