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22 だいさんおうじ、ですと?

 長く道を走っていた馬車がようやく止まった。


「ここはナピスって街なんだが……悪ぃな、これから飯を買いに行くんだ。マカロン買ってきてやるから大人しくしててくれよ。買い終わったらアステアの王都目指して進むからな」


 ルーノは人質(仮)の私にわざわざこれからの予定を教えてから馬車を出た。

 マカロン様と言えど私は物には釣られんぞ。……多分。


「だからぁ、逃げないでここで大人しくしててねぇ?ま、逃げたくても腕の立つ見張りがいるからか弱いメイドのアイリスちゃんには逃げ出すなんて芸当出来ないだろうけどねぇ?」


 ノリアは――お察しの通り、私を苛立たせるだけ苛立たせてから馬車を出て行った。



 ふたりが出て行き、すっかり静かになった馬車の中でひとり、ため息をこぼす。


「……まさかあの程度の人間を置いておけば私が大人しくしてるとでも?」


 ノリア曰く「腕の立つ見張り」がどの程度のものなのか、私は窓から顔を覗かせて辺りを見た。

 すると、誰かが話しかけてきた。ノリア曰く「腕の立つ(略)」が私に話しかけてきたに違いない。


「お嬢さん、まさか逃げようってんじゃないよな」

「まさか」

「……ふん」


 ノリア曰く(略)は質問だけして、視線を私から外した。


(……甘い!)


 私は勢いよく馬車から飛び出した――!


「あ、おい待て!」


 さすがノリア(略)だ。気付くのが早い。


「――でも遅い!」


 私は伊達に姫様のメイドをしていない。

 こちとらそんじゃそこらの王立騎士団の人くらいなら倒せる人間だぞ。いくら腕の立つ見張りだろうと、王立騎士団すら倒せる人間には勝てないんだ。


「たぁっ!」

「痛……くない?」


 私は見張りが腰につけていた剣を掠めとり、驚いた隙に見張りの髪を数ミリ切った。……またつまらぬものを斬ってしまった、と言いたい場面であるが、この世界ではそのネタが通用しない。私は黙ったまま、切っ先を見張りの眼球ギリギリに突きつける。


「次は目を狙う」


 限界まで目を見開いた見張りはピクリとも動けなくなっている。少しでも動いたら眼球に切っ先が掠める……下手したら刺さるんだから動きたくないよね、分かる。私も下手したら間違えて串刺しにしちゃいそうでかなり怖い。手が震えるのを理性フル活用して必死に抑え込んでいる状況だ。

 反抗する気はなさそうだと判断したので、私は剣を引いて鞘に収めるとパチリとウィンクした。


「……ってことでよろしく~☆」


 ……うん、我ながら超絶可愛く決まった。最高。

 ひらひらと手を振りながら、私は馬車から少しでも離れようと走り出した。



「なぁんて、簡単に逃がすと思ったぁ?」



 誰かに強く手を引かれた。――否、誰かと形容する必要はない。この間の伸びる独特の話し方で分かる。この声の主はノリアだ。


「は、ハメたのね……!」

「悪ぃな、このまま逃がしちまうとおれ達がちとマズいことになっちまうもんでよ。それにこっちにも事情ってもんがあってな。だから……」

「大人しく捕まってて……ってこと!」


 ノリアは私の手首を強く握る。


「ちょ、ノリア、結構痛い……!」


 剣の腕が立とうとも、決して体も強靭というわけではない。体は乙女だ。……体は。


「だってぇ、痛くしないとアイリスちゃん逃げちゃうでしょぉ?それにぃ、アイリスちゃんがどれだけ強いのかってのを見極めるためにねぇ。ね、ルーノ?」

「……あぁ、どれくらい強いのか気になってたんだが、まさかこれほどとは……どうする?」


 ふたりはなにやらゴニョゴニョ言い合い、そして。



「…………決めた」



 先にそう言ったのはどちらであったか。

 そう言った瞬間、ルーノは私を抱き上げ(いや、担ぎ上げと言った方が正しいか)馬車まで運んだ。


「離して!私は王宮に帰る!」

「すまねぇ、事情が変わったんだ」

「アイリスちゃん、すごく強いみたいだからさぁ。オレっちの主の護衛になって欲しいんだぁ」

「嫌です」

「……って言われてもねぇ」

「もう決めちまったことなんだ」

「その代わりぃ、オレっちたちに出来ることならある程便宜は図ってあげるからさぁ」

「……便宜を図ってくれる?」

「うん、元はと言えばオレっち達がお姫様と間違えて攫ってきちゃったわけだしぃ、それくらいはねぇ」


 彼らを上手く利用できれば、もしかしたら。


「……我が国、リエールで姫様を毒殺しようとした(やから)がいたみたいなのだけれど、なにか知らない?」


 ――犯人はお前の国の人間なんじゃないか。私は暗にそう告げた。

 私は姫様とディラス、ヴェロールとの話し合いで出た結論(仮)が正しいものであったのか、犯人はアステアにいるのか……それとも別の人間なのか。

 私はそれを解明するためにアステアに行こうとしていたのだ。今の今まですっかり頭から抜け落ちていたのだが。


「おたくのお姫様が……?そんな話は聞いたけどぉ、誰なのかまでは分からないんだよねぇ」

「噂によればリエールはおれ達の国を疑ってるみたいじゃねぇか。ま、正しいっちゃ正しい考えだけどな」

「姫様はわたくしの生きがい。そんな方を殺めようとした者がいるならば、わたくしが直々にぶちのめ……失礼、()らなくちゃいけないから」


 しばし沈黙。


「……へ、へぇ、そう、なんだぁ、ふーん、アイリスちゃんの忠誠心ヤバいねぇ」


 ドン引きのノリア。


「これもしかして敵に回したら厄介なやつじゃねぇか……味方になったらなったで面倒くさそうだけどな」


 少し怯えたような目を向けるルーノ。


「……まぁいいや。とにかくぅ、どうするのぉ?」

「解決に繋がるかは分かんねぇけどよ、嬢ちゃんがこの誘いに乗ってくれるなら、おれ達も協力は惜しまないつもりだ」


 ……ふむ、なるほど。私が単身で、誰の手引きも受けずにアステアに入ったところでできることは下町の酒場で話を聞くくらいのものだ。

 それが、アステアの人間が、しかもふたり手伝ってくれるとなると話は別だ。


「……その、あなたたちの主って誰なの?わたくしの知ってる人?」


 そう、主の護衛と言ってもその主が誰かによって受ける受けないが変わってくる。

 ギャング、組、ヤクザ……そんなところのボスの護衛なんて言われたら丁重にお断りしたい。――ふたりとも妙にギャング……いやヤクザっぽいから、その可能性は捨てきれない。


「安心していいよぉ、悪い人じゃないからぁ。……オレっちよりひねくれてるっていうかぁ、ムカつく性格してるけどねぇ」

「あぁ、あの人はむしろ良い人だ。……性格に問題はあるけどよ」

「ちょっと今なんて言ったの!?」


 ムカつく性格とか、性格に問題があるとか言ってなかった!?


「第三王子だよ」


「……はい?」


「だからぁ、アイリスちゃんが仕えるのはアステアの第三王子、クラジオ様だって言ってんのぉ」


 だいさんおうじ、ですと?

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