18 姫様とディラスの証言
「まずはわたしから行きますわ。
「わたしは事件の日、アイリスに茶会の準備を頼みました。紅茶と茶菓子の準備をね。
「アイリス以外に茶会用のワゴンに触った人はいないそうよ。他のメイドや料理人の数十名に聞いたので確かな情報よ。
「だったらアイリスが犯人なのはほぼ確定事項だ、ですって?
「お黙りなさい。アイリスに対する侮辱は、主人であるわたしに対する侮辱と受け取りますわよ。今はわたしが話しているのよ。無関係の者はすっこんでらっしゃい。
「……よろしい。では続きを話しますわ。
「わたしは確かにアイリスが淹れた紅茶を飲んでから倒れたわ。
「でも、その紅茶からいつもしないような香りがしましたのよ。
「そう、トリカブトの香り。わたし、仮にも王族ですから嗅覚と味覚は人一倍鋭くなっていますの。だから分かりましたの。香ったのは紫色のトリカブトの匂いだったのです。
「ならひとつ、不可解な点があるの。
「アイリスがディラスに渡したのは、青色のトリカブト。でも凶器として上げられているのは、紫色のトリカブト。
「おかしいと思いませんの?
「アイリスが持っていたトリカブトと、犯人が使ったであろうトリカブトの種類が違うだなんて。
「それに、アイリスが渡したトリカブトは、確かに毒がないものでした。わたしがこの目で確認したわ。
「それなのに何故、アイリスがこのような場所に立たされているのかしら?
「アイリスは無罪なのに、あたかも有罪であることが確定事項のように振る舞っていますけど。
「そもそもあなたたちはアイリスの主張をしっかり聞いたんですか?
「アイリスはわたしのことが大好きなのよ。それはわたしが1番よく知っているわ。
「アイリスはわたしのためなら何だってするわ。例えば、わたしが殺人を命令すれば迷わず人を殺せるでしょうね。
「それほどまでに異常……失礼、想像を遥かに超える忠誠心を持ったアイリスが、何故わたしを殺さなければならないのかしら?
「わたしは、アイリスに毒殺されかけたわけじゃありませんわ」
姫様は強い意志を瞳に込めながら、民衆に訴えかけた。
民衆は呆然としていた。
わざわざ姫様が証言に来たことに驚く声、姫様がそういうならそうなのかもしれないとうっすら私の方に傾きつつある姿。聞こえるもの、見えるものが少しずつ変わったのが感じられた。
そして私は姫様のそのひとつひとつの言葉が深く胸に刺さった。
姫様は私のことを全面的に肯定し、信頼してくれているということだ。
と感動に浸っていると、今度はディラスが声を張り上げだした。
「じゃあ次はオレが証言するよ!
「……アイリスちゃん、その目はやめようよ。オレがまともな証言をできるはずがないって思ってるんでしょ?
「……とにかく!オレが証言できるのは、ふたつ。
「まずひとつめ。
「オレは花祭りの日、青色のトリカブトをもらった。
「オレの記憶違いとか見間違いとかじゃなくて、オレがもらったのは確かに青色だったよ。
「でも今回凶器になったのは、紫色のトリカブトなんでしょ?
「ならアイリスちゃんは犯人じゃないと思うんだけどな。ま、これはさっき姫様が証言したことと重複してるんだけどね。
「で、ふたつめ。
「オレはもらったトリカブトの花を、確かにオレの部屋の花瓶に挿した。嫌でも目に付くところに花瓶を置いておいたし、毎日目に入ってたからね。事件当日もオレの部屋にあったのは確実だよ。
「それに、もし仮にアイリスちゃんがくれたトリカブトが凶器だったとして、どうやって犯人はオレの部屋からトリカブトを持ち出したのかな?
「アイリスちゃんぐらいの身分なら、よっぽどのことがない限りオレたちが住んでる騎士塔には出入りできない。騎士棟に入るには、まず検閲門に行って検閲官に入る目的とか持ち物検査とかされるし、帰りも何か持ち出していないかの確認のため持ち物検査する。
「ま、アイリスちゃんくらいなら窓から入るなんて芸当もやってのけるんだろうけど、他の騎士や検閲官は怪しい人物は見ていないって証言していたよ。
「だから思うんだ。
「犯人はアイリスちゃんじゃない、他に誰かいるってね。
「まぁ、オレの憶測を超えない話だけどね」
ディラスは言っても騎士だ。平生なら姫様の言葉の方が圧倒的な影響力を持っている。しかし、何よりディラスはトリカブトを受け取った張本人。民衆も姫様の言葉だけではなく、当事者であるディラスの言葉にも耳を傾けざるを得ないだろう。そして、多くの民衆は思った。
――もしかしてアイリスとやらは犯人ではないのかもしれない。
トリカブトの匂いが花の色…青色と紫色で違う、なんてことあるかは知りません。というかトリカブトに関しては何ひとつ確かな情報はないです。あくまでこれは創作の花と考えてくださいねっ。




