11 ダメだ、勘違いするな
私は花を大量にバスケットに入れて部屋を出た。
まず向かう先は――
「おはようございまーす!わたくしが来ましたよーっと!」
このテンションでもうお分かりだろう。
「料理人のみなさーん!今日は花祭りですよー!」
料理場で私は叫ぶ。真顔で。
あ、ドドリーとカルラはいないのか。嬉しいような、残念なような。
「お、来たきた」
「悪いな、今日は毒味用の料理はねぇんだ」
「いいですよ、今日は皆様にこれを持ってくるために来たんですから」
そう言って私がバスケットから取り出したのは、ヒマワリ。
「花言葉は知ってますか?」
「知ってるように見えるか?」
「……愚問でしたね。失礼しました。ヒマワリの花言葉は『崇拝』です。これほどまでに美味しい料理を作るあなたたちを、わたくしは崇拝しております。わたくしが料理できるようになったのはあなたがたのお陰ですから」
「……ったく、アイリスちゃんは……」
「流石としか言いようがねぇわ、これは」
料理人たちは、やれやれと肩を竦めながら顔を見合わせていた。
「ま、ありがたく貰っとくよ」
「俺たちからは……はい、これ。アイリスちゃんが来るだろうからって、カルラさんが作っておいたよ」
そう言って差し出されたのは――
「ま、まままっま……っ、マカロン様……!しかも花の形……!綺麗です!ありがとうございます……!」
彼らは「はいはい」と言いながら私を追い払った。扱いが酷い!
私は「あのイケメンお兄さん大好き……」と言いながら、次なるターゲットを探していた。
次に来たのは、城の門。
「ディラス様ー、今日は花祭りですよー」
「いや知ってるし……ってもしかしてこれ、オレに持ってきてくれたの?」
「はい。トリカブトです」
「と、トリカブト!?オレを殺す気!?」
「いいえ?毒性がないものを選んでますから安心してくださいませ」
「安心できない……!まぁいいや、ありがたくもらうよ。ありがとう」
「ちなみに花言葉は……騎士道、」
「騎士!?何なに、もしかしてアイリスちゃんってツンデレなだけで、オレのこと好きなの!?」
「……と、『復讐』です、ディラス様」
ニッコリと言い放ってやれば、
「…………こっわ」
と怯えた目をされた。よし、それでいい、その反応なら私ルートは回避できたはずだ。
次はどこに行こうかな……
「……あ、姫様の」
「…………おはようございます、クローム様」
突然イケメンが目の前に現れれば誰でも驚く。しかもそれが2番目の推しともなれば尚更だ。
「……そうそう、今日は花祭りですよ」
「……そうだね」
「どうぞ、これ」
私が差し出したのは、ゼラニウム。
「……これ、ゼラニウム?」
「はい。クローム様なら花言葉は知ってそうですね」
「……うん。『信頼』、でしょ」
さすがクローム。どこぞの料理バカたちとは違って博識だ。
「そうです。わたくしは貴方を信頼してますよ、クローム様。貴方なら姫様を裏切らない。貴方なら……姫様を幸せにしてくれる。そう、信じています」
「……それって、姫様を、ボクにくれるって、そういうこと……?」
「その通りで……おっと、何でもないです。聞かなかったことにしてくださいまし。……とにかく。わたくしは貴方を信じている、それだけです」
「……そう」
少し残念そうなのは、やはりそういうことなのか、脈アリなのか!?
「……ありがと、貰っとく。あと、姫様のこと、冗談。ボクは、姫様と結ばれるべき人、別にいると思ってる」
はい好きですその笑顔!ご馳走様です!花祭りの返礼はいりません、貴方の笑顔だけで満腹です……!
後半の言葉はどういう意味か分からなかったけど、クロームは今後の展開……というか、誰が姫様を好きなのか知っているということなのだろうか。
ぜひ教えて欲しいところだが、それはまた今度にしよう。
ちなみにクロームも返礼をくれた。
『大切な友達』が花言葉の、ライラックという花を貰った。
花祭りは、返礼というものがある。今のように、基本は女の子が男の子に花を贈り、男の子も女の子が好きなら返礼をする。もちろん、同性の場合もそうだ。
返礼をされれば、少なからず相手のことを気にかけているということになる。
――まぁ、私もあなたのことが好きです、みたいな意味合いのものがほとんどなのだが――
簡単に言えば、バレンタインパート2みたいなものか。
ちゃんとバレンタインイベントも存在している。
さすが乙女ゲーム、ロマンティックなイベント目白押しだ。
…………さぁ、問題はここからだ。
「これはこれはアイリスさん。こんにちは」
「……こんにちは」
ヴェロールだ。
今日はやけに攻略対象サマとすんなり会える。さすがイベント。ありがたい限りだ。
――だが、彼ばかりはそうは言えない。
タイミングが悪い。
心の準備ができてないんだこっちは。心臓バックバクだぞ。
「おや、今日はいつものように絡んでこないんですね。調子でも悪いんですか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
大丈夫じゃねぇよ馬鹿かコイツは。お前のせいだ。
「……とりあえず、これを渡しておきます。花祭りですから」
私はシオンを渡した。
「なんと、まさかアイリスさんから頂けるとは思ってませんでしたよ。ありがとうございます」
「どういたしまして。……じゃあ私はこれで」
「……待ってください」
「……何でしょう」
いいから早くしてくれ、心臓がさっきからやかましいんだ、だから早く!
「……そう嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないですか」
「すみません、貴方と喋る時のクセみたいなもので」
「そうでしたか。……貰うだけというのは性に合わないのでね、お返しはしますよ」
そう言って差し出されたのは、ブーゲンビリア。
花言葉は――
ダメだ、勘違いするな。違う、彼がこの花を渡してきたことに深い意味は無い。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。……ちなみに、アイリスさんがくれた花の名前を聞いても?」
「……えっと、シオン、です」
どこか言いづらい名前だ。前世の名前が紫苑だったから、言うなれば自己紹介している気分なのだ。
「シオン、ですか……後ほど花言葉を調べてみますね」
「し、調べていただかなくて結構です。ヴェロール様はこの花に何か想いでも込めたんですか?」
いつも通りにするんだ、私。いつも通り、ヴェロールを嘲笑え。
「えぇ、それはもう。あなたにはこの花を贈りたいと思ったのでね。花言葉的に、です」
……これでは言い逃れのしようがない。
ヴェロールは、「わたくし」に、少なくとも悪くは思っていない、しかし彼は私に対して――少なからず、好意を抱いている。
この事実を知ってもなお、いつも通りに対応できるものか。
「そう、でしたか。わたくしも花言葉を調べてみます。……ま、貴方のことですからどうせ『復讐』みたいなものなのでしょうね」
なんとかいつも通りを取り繕うことはできた。だが、よく見ている人ならばこれが取り繕われた偽物の表情であることくらい、すぐに分かってしまうだろう。
「あなたという人は……まぁいいでしょう。シオン、でしたっけ。ありがとうございました」
「えぇ、こちらこそありがとうございました」
名前を呼ばれているようで、さっきから私の心臓が落ち着かない。
私は――未だにヴェロールのことが好きなようだ。
ブーゲンビリアの花言葉は、『あなたは魅力に満ちている』です。




