旧文明なるものがある
脱出ポッドは虚無の回廊を抜け世界の果て、界境へと接触した。
『目的世界の界境に到達。マスター、衝撃に備えてくださいね』
エラの警告とともにポッドが揺れだした。世界に異物が侵入することで空間が揺れているのだ。小さなものだがこの時空震をもし現地の基地が拾ってくれれば救助が来るだろう。緊急射出だったのでどこに放り出されるかもわからないのだ。海の上とかは勘弁してほしい。横になれる程度の広さがあるとはいえこのポッドで漂流生活はごめんだ。
『空間に穴が開きます。着地予定ポイントを確認。マスター、いい知らせと悪い知らせだったらどっちから聞きます?』
「悪い知らせから頼む。俺、嫌いな食べ物から食べるタイプなんだよ」
『では悪いほうから。該当する地域の地形がデータベースに存在しません。つまり未踏破区域です。また原因不明の電磁波の影響により通信機がおしゃかになりました。個人用のものでは基地と連絡は取れません。またこちらも原因不明ですがほかの隊員のポッドを確認できませんでした。恐らく、界境で空間がねじれて私たちだけが遠くに落ちたのか、あるいは・・・。まぁ、つまり私たちは孤立無援です。(まぁ、通信機は元から細工されてますしほかの隊員は下りてくるはずないんですけどね。ただ、未踏破区域とは・・・。アーテジアめ、肝心なところでドジを踏んだようですね。私が全力でサポートしてマスターを生還させねば)』
「そんなにたくさん悪い知らせがあるなんて聞いてないんだが。絶望的じゃないか・・・」
俺はため息をつきながら計器類に異常が無いかチェックし、続きを促した。
『はい。いい知らせですが、一瞬だけ降下中にGPS信号を受信しました。そのことから一応基地は同じ大陸に存在するようで移動してたどり着くことが可能であると判明しました。また基地の位置は着地地点から北方に位置するようです。そして少し遠回りになってしまいますがスキャナーに遺跡の反応がありました。地下にありますが入口を発見できれば何か使えるものがあるかもしれません』
彼女の話によるとこの星には現在いわゆる同胞は存在しないがその痕跡である旧文明の遺構が各地に存在するそうだ。ただ、現在に至るまで滅んでしまった理由を知ることのできる遺跡は確認されていない。ただ保存状態はどれもよく、資源を得ることができるそうだ。
そうするうちにポッドは地上へ向け降下し逆進をかけて無事着地した。俺はサバイバルスーツに着替え、大地に降り立った。船体の収納スペースから物資とある機械を取り出した。
この機械は非燃料式小型機動二輪だ。高効率のバッテリーと太陽電池を搭載し半永久的に動かすことができる。もちろんメンテナンスは必要だがタイヤも空気を充てんするタイプではないため極めて長い移動が可能だ。バイクに物資を積み込みモーターをオンにした俺はゴーグルをかけエラに言った。
「まずは遺跡に行こう」
『はい、マスター』
視界に進むべきルートが表示され、俺はアクセルをひねった。
「おい、アーテジア。これはどういうことだ?」
艦橋に戻った俺はアキラに着けておいたドローンの情報を確認し、手元のモニターを睨んだ。
『界境を突破した時に空間のねじれに巻き込まれたみたいですね。予定の場所からだいぶ離れたところに落ちちゃってます』
とぼけ調子でアーテジアが言う。
「そんなことはわかってる。で、どうすんだコレ?」
ドローンには問題なく着地しバイクを組み立てるアキラが写っていた。ひとまずトラブルには見舞われなかったようだ。まぁ、あいつにとっては全部トラブルなんだが・・・
『エラからも訓練中止の要請は入ってきていません、おそらく大丈夫でしょう。未踏破区域ですが危険なモンスターの生息地は限られていますし今の彼なら撃退することくらいは可能です」
「だが・・・」
反論しようとする俺をアーテジアが遮った。
『そ・れ・に、隊長は心配しすぎですよ!彼だって訓練カリキュラムはすべてこなしたんです。しかもそれなりに優秀でしたよ?もう少し部下を信頼してあげては?』
そこまで言われて言い返すことができなくなってしまった。俺だってアキラを信頼している。おとなしく見守ることにした。
アレクサンダー号は基地の静止軌道上に待機しクルーは最低限の人員を残し揚陸艦で基地へと降下した。
俺たちは基地に到着すると基地司令の歓迎を受けた。
「お久しぶりです。ゴウキさん、第一部隊のみなさん。長旅お疲れ様です、宿舎を用意していますのでそちらでゆっくりお休みください。今日は皆さんをお迎えするために厨房にはご馳走をお願いしています。夕食時になったら部下に呼びに行かせますのでそれまでお待ちくださいね」
基地司令の言葉を聞き隊員たちが喜びにわいた。ここは軍の基地だが俺たちは軍の人間ではないので待遇は客分だ。各々案内の兵士に連れられ宿舎へと移動していった。
「ああ、久しぶりだな。デリエル、今回は世話になる。うちの新人のためにすまんな」
彼女は基地司令のデリエル・バザック。栗色の美しい髪をおろした白人だ。いまは柔らかい物腰だがひとたび戦闘になればその態度は豹変する。新人兵士がショックを受けて気絶したといううわさもあるほどだ。真偽のほどは定かではないが。
「いいえ、気にしないでください。彼、有望なんでしょう? 安心してください、回収部隊はいつでも出動できるようにしてあります」
これにはさすがに驚いた。エクスマキナ経由で軍に通達が言ったのか?彼女にそこまでのことを話した覚えはないが
「何から何まで助かる。ウチからも明日以降人を準備させる。訓練が無事に終わるといいが・・・」
その晩、俺たちは遅くまで二人で酒を飲んで今後について話した。美女と二人で飲むのも悪くはないものだ。誓ってやましいことはなかったが。なかったのだが!
ヨシダ隊長、独身です