打ち上げ
「本日より実地研修だ。実際に異世界に赴いて、モンスターとの戦闘を行う。狩るぞ、ドラゴン」
ヨシダ隊長はニヤリと笑みを浮かべた。ただドラゴンと言ってもこれから行く異世界は知的生命体は存在せず、いわゆる恐竜の延長のようなモンスターだそうだ。
「魔法があるような異世界のドラゴンは喋るし人間とは比べ物にならないほどやばい魔法を使う。それに、奴らどうもライフの意志の体現者の側面があるようだ。だから俺たち地球人はそういうドラゴンとはことを構えないのさ。たとえ現地住民がどういう扱いをしていてもな」
よかった。それならなんとかやっていけそうだ。
第一部隊の面々は各々個人の持ち物をザックに入れ大型エレベーターに乗り込んだ。技術班と補給班は昨日のうちから先に下に降りて準備をしているそうだ。異世界には地下から行くんだろうか。隊長に聞いても
「まぁ見てのお楽しみだ」
としか言ってくれなかった。ほかの班員に聞いてもニヤニヤするばかりだった。エレベーターはどんどん地下へと降りていく。いい加減不安になってきた頃にエレベーターが停止し俺の目に飛び込んで来たのは
宇宙戦艦
そうとしか形容のできない鋼鉄の塊だった。全長は一体何百メートルあるのだろうか。あまりの威容に立ち尽くしていると、ヨシダ隊長に肩を叩かれた。
「行くぞアキラ」
「あ、はい。これに乗るんですか?」
俺は思わず興奮して尋ねた。
「そうだ。こいつが地球で作られる最大の航界艦、王級だ。名前はアレクサンダー号」
アレクサンダー号の艦橋に入った俺たちはそれぞれ持ち場についた。俺はあらかじめ与えられた火器管制官のシートについた。アーウィン副隊長の補佐だ。全員が配置につくと管制AIのアーテジアがアナウンスした。
『本艦はこれより金星軌道方面界境ゲートへ向け発進します。ローンチスケジュールは全てオンタイムで進行中。気密区画チェック現在87%を完了。発進ゲート解放、コンベアー起動します』
ガコン!という軽い衝撃とともに巨大戦艦アレクサンダー号がゆっくりと横へ動き出した。どうやらドックの壁が開いて奥へと進み出したようだ。一体どこへ行くんだ......
『マスター、マスドライバーってご存知ですか?』
レールガンみたいなやつだよね。違いは分からないけど。
『その認識で問題ありません。この巨大な航界艦を金星と地球の間にある界境ゲートに送り込む為には莫大なエネルギーが必要になります。まして何度もやるとロケット燃料の消費はバカになりません』
たしかに......もしかしてマスドライバーで撃ち出されるのか?俺たち。
「そのまさかですよマスター。この島の海底にいくつも存在する核融合発電所から供給される海水を利用したリソースフリーのクリーンな電力があなたを快適な宇宙の旅へ!」
なんかエラさんノリノリじゃない? そうするうちにマスドライバーまでたどり着いたようだ。アーテジアが発射準備を開始する旨を告げる。
『マスドライバー電源供給スタート。アレクサンダー号発射体制へ移行します』
艦体が真上へと立ち上がる。
『冷却装置稼働率上昇。艦体最終チェック完了。砲身電磁遮蔽ステータスオールグリーン。進路クリアー。発射まで60秒』
マスドライバーの砲身が高電圧をおび、磁力を生み出す。
「今回は外部世界訓練だ。未踏破世界じゃないからって気を抜くんじゃないぞ! ドラゴンに食われて普通に死ぬからな。今回の遠征も全員生還だ」
短い隊長の訓示に部下たちが応える。
「アレクサンダー号、発進!」
『発進します』
次の瞬間、凄まじいGに襲われた。
「ぐ....うぅ...!」
体がシートに押し付けられる。押し潰されそうだ。これでも慣性制御でかなりマシになっているそうだが。永遠にも感じられるGから解放されると、目の前のスクリーンには漆黒の空に浮かぶ太陽が映し出された。とても綺麗だ。
『そんなぁ、綺麗だなんて私恥ずかしいですよマスター!』
視界の端でデフォルメされたエラがくねくねしていた。あなたそんなキャラでしたっけ?
『地球の重力圏を突破しました。これより界境ゲート方面へ動力航行を開始します』
無事宇宙に出られたようだ。ヨシダ隊長は早速各セクションのリーダーに連絡している。
界境ゲートは太陽光発電でエネルギーを得ているそうだ。無人でドローンによって整備されており、管制AIが遠隔で起動するそうだ。ゲートの向こう側は虚無の回廊と呼ばれる危険な空間になっており、そこを通って異世界へ向かうらしい。
『ゲートとの通信確立。空間安定度順調に低下中。』
アーテジアがゲートの操作を行っているようだ。しばらく隊長やアーウィン副隊長と雑談をしているとふたたびアーテジアのアナウンスが入った。
『メインスラスター出力上昇。各クルーはガレリーへの突入準備を行ってください。間も無くゲートへ到達します』
いよいよ太陽系とはお別れだ。俺はドラゴンの飛び交う異世界へ期待に胸を膨らませ、真っ黒なゲートを見据えた。次の瞬間、視界はは白と黒の雷の迸る異様な空間を捉えた。艦橋に緊張が走る。
「ここが虚無の回廊、俺たちの敵であるアボラスの縄張りだ」