遭遇戦、そして
私は界境探査局機動部隊第二部隊長、ロベルト・ボルト。
新しい異世界での任務を終えて地球へ帰還する所だ。我が部隊の航界戦艦イスカンダル号は現在世界と世界の間に存在する虚無の回廊を航行中だ。
ガレリーは基本的になにも存在しない。しかし常に周囲に存在する世界からの引力を受けており安全に航行するためには各部隊に一隻ずつ配備されている巨大航界艦王級の莫大なパワーが必要となる。しかし...何事にも例外は付き物で。
『ロベルト隊長、前方にアボラスの反応を確認。ただしこちらには気づいていません。クラスB+戦闘体と推定されます。ただ......』
イスカンダル号の管制を司る第二部隊のAIであるセレナが報告の途中で口ごもった。
「どうした?」
珍しいことだ。面倒事の予感がする。しかもガレリーでのアクシデントなど対応を誤れば取り返しのつかない事になりかねない。如何にモナーク級といえどもわけのわからない世界に引き込まれ余計なエネルギーを使えば航界スケジュールに遅れが出てしまう。界境を越えるには膨大なエネルギーが必要なのだ。チャージのために停泊して動力炉をぶん回す羽目になるのは御免こうむる。
『例のアボラスは戦闘中のようです......航界艦と』
「一体どこの部隊だ? この界域にはウチの船も連合軍の船も居ないはずだが」
そして彼女からの返答は予想を超えるものだった。
『地球製の船ではありません。しかもモナーク級よりも遥かに小さな船です。データベースに存在する「使者」のものとも異なります』
「なんだと!? すぐに救援に向かう! Bクラスなら艦首の波動砲を不意打ちでぶち当てれば一撃で討滅できる筈だ。最大戦速!」
私たちは今まで多くの異世界へと赴いてきたが、「使者」と地球人以外で虚無の回廊を自由に行き来して世界を渡る種族を発見できていない。彼らはその第一例となる。絶対に救出し、接触せねばならない。私は放送マイクのスイッチを入れ、部下たちに命令した。
「本艦はこれより前方で同胞と思われる船を襲撃中のアボラス戦闘体の討滅に向かう! 総員第一種戦闘配置!有効射程ギリギリからやつの脇腹に波動砲をブチ込むぞ、機関長! 動力炉を限界まで回せ! これは人類史に名を残す偉業になるぞ!」
私は一息で部下たちに激を飛ばし、前に座る火器管制官に命令した。
「不意打ちなら一撃で勝負を決められるはずだ。外してくれるなよ?」
「もちろんですよ隊長、私が外すわけありません」
彼女は自信満々と言ったふうに答えた。
『間も無く有効射程に入ります』
波動砲は我々人類の切り札だ。物理兵器でも光学兵器でもない、アボラスに対して特効とも言うべき威力を発揮する第三の超兵器、次元兵器だ。
『砲門開放、艦内予備動力への移行完了。動力炉電磁遮蔽調整完了。発射シーケンス開始します』
セレナがアナウンスした。艦橋は緊張に包まれる。私は手元のディスプレイを凝視した。
『目標地点到達まで30秒』
火器管制官が発射スイッチに手を掛けた。
目標地点まで5...4...3...
「艦首波動砲!撃てェェェェ!」
次の瞬間、ガレリーを一筋の光が切り裂いた。その光はアボラスの戦闘体を一瞬にして呑み込み、邪悪を消し去った。
艦の動力が復帰して私はすぐにオペレーターへ命令した。
「センサー出力最大! 対象の船にコンタクトを取れ!」
「センサーに反応ありません! 付近の世界に飛び込んだ様です!」
なんということだ...今の第二部隊にはこの付近の世界を虱潰しに捜索する能力はない。一刻も早く地球に帰還し、この事を報告せねば。私たちは地球への帰路を急いだ。
その頃、界境探査局本部地下の航界艦ドックでは第一部隊航界戦艦アレクサンダー号の改修が行われていた。管制AIとは別に第二のAI区画が増設され、兵器の製造に用いられるものよりも高度な大型の3Dプリンターが運び込まれた。
そして本来は戦闘機などに搭載される界境を越えることのできない空間跳躍装置も同様に運び込まれた。
その装置たちは、自分たちの働くべき時がやって来るのを心待ちにする様に、鈍い輝きを放っていた。
簡単に撃退できたのは戦艦で戦ったからです。