機動部隊第一部隊
俺が機動部隊へ入ることを決めると、エクスマキナは1人の男性を招き入れた。
「機動部隊第一部隊長、吉田ゴウキだ。皆からはヨシダと呼ばれている。アキラ、よろしく頼む」
お互いに自己紹介を済ませたあと、ヨシダ隊長は俺に言った。
「知識の方は補助頭脳がサポートしてくれるが身体の方はそうはいかない。生身の部分も鍛えてもらわなければいけない。界境探査は安全ではないからな。機動部隊はまだ小さい拠点の支援を行う。場合によっては原生生物やアボラスとの戦闘も有り得る。まずはお前に強くなってもらわないといけない」
なんてこった。もう少し考えればよかった。ただ、必要な訓練は施してもらえるようだ。俺の世界じゃ異世界転移といえば(あくまで創作だが)いきなりラストダンジョンに放り出されて死にかけるなんてザラだ。あ、でもそう言うのは大抵女神様から授かったチートで解決できるのか。俺には無いもんな、チート。
『ありますよ、チート』
頭の中でエラがそう言った。え? あんの?
『マスターの義肢は界境テクノロジーと呼ばれる技術が用いられており、普通の人間には運用することができません。その義肢は界境探査で私たちが手に入れた異界の技術の結晶なんですよ? 義手は攻撃力を、義足は機動力を強化してくれます。マスターが運用データを収集すればマスターに合わせたより強力な義肢をエクスマキナ様が開発します。そして義肢は転送によりその場で換装して使い分けられます。まさにチートと呼ぶに相応しい力だと思いますよ』
すごいな、それ...
隊長は話を続ける。
「ある程度電子制御の介する装備はお前の補助頭脳が助けてくれる。だから俺が鍛えるのはもっと根幹の部分だ。格闘術、剣や銃を使った戦闘についてだな」
俺は疑問を持った。
「剣ですか?」
それはすぐに解消された。
「そうだ、ライフ濃度の高い世界ではライフは意志を持ち神のように振る舞う。そしてより能動的に命の営みに干渉し、生き物に力を授ける。これが魔法だ。ライフの魔法は極めて有用性が高く、こうした世界では魔法を根幹とした技術体系が発達し科学はあまり広まらない。そんな世界で銃器をぶっぱなせるわけないだろう。まして弾薬は有限だし、弾のいらない光学銃器もメンテナンスが不可能だ。備品を運ぶのにトラックだって使えないしな、悪目立ちしてしまう。科学技術を運用できるのはせいぜいが前哨基地とその周辺だ。探索で頼れるのは自分の身体と剣、あとは個人支援機器くらいだ」
なるほど、そういう事情があったのか。
「よし、じゃあまずは武器を選びに行こう。エクスマキナ、いいな?」
『ああ、構わない。彼をよろしく頼む。ヨシダ隊長。そしてアキラ、君には期待している。人間には扱えなかった界境テクノロジーの運用例、頑張ってくれよ?』
俺は答える。
「もちろんです。俺は帰りたいですからね」
倉庫のようなところに来るとまずは服を着替える事になった。これ病院のパジャマみたいなやつだしな。
「まずこの制服に着替えてくれ」
そう言って渡されたハンガーには黒いジャケットとパンツがかかっていた。動きやすそうだしかっこいいなこれ......
「気に入ったか? それは制服だが普段から着ていられるようになってる。そのカッコで任務にも行けるぞ。セレモニー用の上等なヤツもあるがあれは公式の行事の時だけだ、後で渡す」
隣の区画で隊長は俺を呼ぶ。そっちに行くと武器がたくさん置かれていた。
「まずは銃器だ。大きくわけて2種類になる。実弾銃と光学銃だ。実弾銃は知っているか?」
俺は頷いた。
「よし、なら光学銃についてだ。こいつは電力を使ってレーザー光線を発射する。まっすぐ飛ぶしデカい音がしない。ソフトターゲットに絶大な威力を発揮する、弾薬が嵩張らないのがメリットだ。デメリットは夜間目立つ、長く撃つと発射位置がバレるから隠密に向かない。ハードターゲットを抜くのに時間がかかる。オーバーヒートすると冷めるまで撃てない、メンテナンスにある程度設備が必要で動力炉とプリズムが壊れると応急修理は不可能ってとこだな」最後に彼は動力炉を積む関係で小型タイプが存在しないとも付け加えた。
悩んだ末、俺は実弾の短機関銃を選んだ。「Aegis」というらしい。剣と一緒に運用しやすいと思ったからだ。
「まぁ、腰にぶら下げとくのを決めただけで全部使えるようになってもらうんだがな。よし、次は剣だ」
ヨシダ隊長は笑いながら次の区画へ向かった。マジか…...
そこには大小様々な剣が置かれていた。ただ、どれも柄はゴムで覆われており、鍔は存在せず、刃はつや消しの黒に塗られていた。形も変わっていて、芸術品というよりは工業製品のような四角い印象を受けるものだった。
「この片手剣にします」
俺は気になった1振りを手に取った。
「ちょっと振ってみろ」
そう言われて軽く振ると彼は俺に少し待つように言い、奥から同じ片手剣を持ってきた。
「こっちを振ってみろ」
そう言って渡された剣はより重いものだった。
「それはタングステンが混ぜてある。一撃が重くなるが、お前のその腕なら問題なく取り回せるだろう」
そうして俺の武器が決まった。
「個人支援機器は必要ないよな?」
ヨシダ隊長にそう尋ねられた。どういうことだろうか…
『マスター、私はそこらの端末よりはるかに役に立ちますよ!』
そう言ってエラが視界の端にデフォルメされた姿で現れた。そういう事か。と言うか可愛いな。そう思うとエラがモジモジしだした。思考読まれた。
「これで今日の用事は終わりだ。部屋を準備してあるから休んでくれ。エラ、案内をたのんだ」
あ、隊長通信機に喋ってる。エラと喋れるんだ。
『お任せ下さい!』
次の日から訓練が始まった。部隊の訓練にはついていけないため隊長直々に手ほどきを受けた。基礎的な体力作り、筋力トレーニング、食事、射撃訓練、格闘訓練、サバイバル訓練などをみっちり仕込まれ、数ヶ月で隊長の部下たちに混ざって全体訓練に参加できるようになった。俺は隊長直属の班であるアーウィン副隊長の班に配属された。副隊長はヨシダ隊長に比べ細身で紳士的なイケメンだった。脱いだらムキムキだが......
機動部隊は百人規模の部隊が五つ存在し、それがいくつかの班に分かれている。部隊内で役割が完結しており戦闘班、技術班、補給班など様々だ。
補給班は部隊の食事も管理していて、中国人の張班長の作る食事はとても美味しい。俺が部隊に合流したとき歓迎会と称してご馳走が皆に振る舞われた。和洋中を網羅したビュッフェ形式で供され、俺が日本人という事で天津飯や焼き餃子と言ったいわゆる日本生まれの中華料理もたくさん用意してくれた。美味すぎて泣いた。隊長が日本人なので和食も勉強中なのだそうだ。勉強中という割に味噌汁などもとても美味かったのだが彼は一体どこを目指しているのか…...
ただ彼もナイフを用いた格闘術に長けており、かなり強い。組手では隊長を下すこともそれなりにあるそうだ。と言うか隊長は基本的に最強で、部下達は勝てないそうだ。マジか。
5つの部隊はローテーションで界境を越えており、新しい世界の探索、情報収集、前哨基地の建設を行うそうだ。そして界境探査局がある程度調査を完了した異世界に連合政府の防衛軍が赴き、アボラスと戦う橋頭堡を築く。その際に現地に知的生命体がいた場合(と言うかライフの恩恵のためほぼ確実に何かは居る)アボラスの脅威を伝え、友好を結んだり、面倒事の解決に力を貸しその下地を作るのが界境探査局の仕事だそうだ。
現在は俺という特級戦力(エクスマキナの期待が伺える)の加入により一時的にローテーションから第一部隊は外れており、俺の訓練が終了しだい、通常任務に加わるようだ。俺の訓練は最後に実地研修を残すのみで、近々凶暴な魔物の跋扈する異世界に赴き人間以外との戦闘訓練を行いそれをもって完了するらしい。
そして最も重要な任務が、界境に潜むアボラスの討滅である。
第一部隊の仲間もおいおい紹介していきます。次回は少しだけ、アボラスが出てきます。