白黒つける時だ
突然生まれた白い光が収まると、そこに今まで俺達がいた格納庫は存在せず、エスペランザは巨大なクレーターの中心にたっていた。
そして上空には......黒いエスペランザ。
『マスター、攻撃は自動防御のようなもので防げたようです。例の黒騎士に動きはありません。私がシステムを完全に掌握するまでなんとか持ちこたえてください』
あれと戦うしか無いようだ。幸い部隊の大型パワードスーツと操作系は似ているうえ半思考制御、目は十分にある。俺はスキャナーを取り出し頭に装着した。
『飛行系は使用可能です。武装システムの掌握まで120秒』
ペダルを踏みしめると甲高い音とともに翼が発光し、機体が浮かび上がる。黒騎士に動きがあった、大剣を振りかぶりこちらへ突撃してくる。俺はそれをさらに上昇して回避し頭上を抑える。
『特殊兵装「回帰之翼」システム復旧完了。敵性存在の制圧を開始』
エラとは違うエスペランザのシステム音声が通告してくる。
「エラ、リターナーってなんだ!?」
尋ねるとシステムを参照したエラが答える。
『ライフの波動を発生させる翼の機能のようです。アボラスを継続的に弱体化させながら戦える機能です。この機体、最後の希望と言うだけありますね......かなり強力です。これがあれば......』
その言葉の通り黒騎士の動きが目に見えて鈍くなる。先程から溢れていた禍々しい漆黒のオーラもなりを潜めている。
ただ、こちらへの攻撃を諦める様子はない。すぐに立て直し翼から黒い光線を放ってきた。俺は操縦桿を引き横移動で回避しようとするが、光線は直角に曲がり追尾してくる。回避しきれないとダメージを覚悟し、翼を掲げガードする。しかし、予想していた衝撃はやってこなかった。機体ステータスを確認すると異常はない。
『翼によって無効化された様です。一定以下の威力なら問題ないみたいですね』
エスペランザは想像以上にアボラスに対して有効な兵器だった様だ。
「これなら行けるかもしれない」
思考制御の恩恵により俺は縦横無尽に回避機動をとって黒騎士を翻弄する。そして
『武装ロック解除、エネルギーバイパス構築完了。「ピュリファイアー」オンライン』
武装が復旧した。
右手が腰の後から剣の柄を取り出し、左肩の三本のブレードのうち1本を接続する。両手でピュリファイアーを構えると刀身へエネルギーが供給され激しく発光した。
創星炉が更に出力を上げ、翼からは唄声が響く。それはさながら聖歌のコーラスの如く美しいファルセットを戦場に響き渡らせた。闇を打ち払い、遍く生命を祝福する唄が紡がれ、黒騎士は動きを止められた。
「いくぞ!」
俺はペダルを蹴りこみ、黒騎士へと突撃した。思考制御システムがイメージを読み取り俺の剣技をトレースする。タイミングは完璧だ。黒騎士はかろうじて反応し大剣を掲げるが、浄化者の名を冠するピュリファイアーは大剣もろとも袈裟がけに切り裂いた。
真っ二つになった黒騎士は力を失い落下する前に回帰之翼の紡ぐ歌に浄化され消滅した。
『やりましたね! マスター。お疲れ様です』
「なんとかなったみたいだな。このまま基地まで飛んで行こう。通信はできないんだよな?」
そういうとエラは視界の端でしょげたように答える。
『この機体にも通信機はありますが、規格が違うようで調整が必要ですね』
「仕方ないか。よし、北に向かおう!」
そう言った直後、俺の通信機が呼出音を鳴らす。
『アキラくん!無事かい!?』
アーウィン副隊長だ。同時にレーダーが北方向に機影を捕捉する。
『あれは基地のストームバードですね』
「遅かったじゃないですか、アボラスはもう討滅しましたよ?副隊長こそ無事だったんですか!?他のみんなは!?」
「それについては、詳しく話すよ......」
その後俺はストームバードについて基地への帰路についた。そして道中これが訓練だったことについて聞かされる。ただあんな見たこともないアボラスが出現したこと、エスペランザを発見して俺が戦ったことは想定外だった様だ。バックアップとして回収部隊を用意していたからすぐにやって来れたそうだが、俺がいる付近一帯が消し飛んだ時は本当に焦ったそうだ。
とは言え。ヨシダ体調、1発くらい殴っても許されるんじゃないだろうか。
基地にて。
「アキラ、本当に済まなかった!」
先手を打たれて謝られた。しかも90度に頭を下げて。
「隊長......顔を上げてください」
完全に勢いを削がれてしまった。
「こうして無事に戻ったんですから、収穫もありましたし」
そう言って後ろを見る。そこには白い騎士...エスペランザが立っていた。
「恩に着る。ところでこいつはなんなんだ?」
「旧文明の遺産です。彼らはアボラスを倒すためにこいつを作った...」
格納庫で入手した情報をに伝えると、彼は考え込む素振りを見せた。
「断片的な痕跡、途切れた情報、次元兵器とは違う対アボラス兵装、ライフか......」
「なにか気になる事があるのかしら?」
後から美女が現れた。
「初めまして、私がこの基地の司令官。デリエルよ」
「は、はじめまして。第一部隊一班所属、三崎アキラです」
少し緊張しつつ握手をかわす。ヨシダ隊長は誰かと少し通信すると俺に尋ねた。
「少しな。アキラ、少しこいつを調べても構わないか?」
「ええ、構いませんよ」
「助かる。疲れただろう、今日はゆっくり休んでくれ」
エスペランザは一足先に軌道上に上げるようだ。アーテジアの調査で何かわかるだろうか。俺はそんな事を考えながらデリエルの部下について部屋に向かった。
その晩夢を見た。俺ではない、おそらく美しかったのだろうやつれた女性が必死に図面を引いていた。
「絶対に...絶対に...さない」
彼女はペンを握りしめ、決意を固めるように呟いた。傍らには白い騎士の模型が静かに佇んでいた。
後日アレクサンダー艦内にて。
『で、何か分かったかい?』
エクスマキナが尋ねた。
『回帰之翼に一度暴走した形跡がありました。そして、この武装は予想していたよりも恐ろしいものでした。その本質は名前の通り回帰。すべてをあるべき生命の姿へと帰らせる力です。おそらくその暴走により旧文明...エベル人は消滅したのでしょう。その痕跡ごと。私たちが発見したのは運良く消滅を免れた痕跡の一部、この仮説ならば一応あの機体が残っていたのも納得できます』
アーテジアはエスペランザの出自をそう結論づけた。
『なるほど。で、あれは封印するしかないのかね』
エクスマキナは惜しむように言った。
『いえ、戦闘データからもあれがアボラスに対して強力な武器になることは明らかです。空間破断のリスクもありません。こちらでリミッターを噛ませて保険をかければ暴走の危険性はほとんど排除出来るでしょう。先日の様にアボラスの動きを完全に止めて一方的に斬る様な戦い方はできなくなりますが』
『なるほど、それはいいかも知れない。あ、そうだ。回帰之翼のデータを送って欲しいな』
『どうするんですか?』
エクスマキナは楽しげに答える。
『なに、今回活躍してくれたアキラに新しい腕をね』
記念すべき第10話です! 夏休みなので少しずつ投稿頻度あげていきたいですね!




