英雄は異界より来たる?
「まいったな〜。完全に迷った」
三崎アキラは中部地方のとある山にトレッキングに来ていた。大学生活最後の夏休み、就職も決まり、どうせ社畜になるならと大きなザックを背負って1人で山の奥深くまで探検気分で分けいったのだ。
「といっても登山道を外れた筈はないんだけどな」
そう呟いて地図をくるくる回してみる。
「取り敢えず上にあがって尾根まで出てみるか」
坂を登り出したその時、違和感を覚える。
「え......」
目の前が暗転し、俺は意識を失った。
赤道近く、太平洋に浮かぶ地図にない島。そこに界境探査局の本部はあった。
『本部地下で作業中の職員に緊急通達! 拡張中の区画で時空震の発生を観測、安全確保が終了するまで退避区画へ避難してください!』
放送と同時に待機室の内線電話が鳴り出す。
「はい、待機室ヨシダ」
俺はスピーカーをオンにし、応答した。
『放送は聞いたな? 現場は最下層の建設中の区画、ただし放送では言ってないがナニかが飛ばされてきた様だ、エクスマキナは詳細は明かしてこないが対応を急かしてきている。最低限の装備を準備して対応に当たってくれ』
エクスマキナ?アレが口を挟んでくるなんて絶対にろくな事にならない気がする。嫌な予感を覚えつつも俺は部下達に指示を飛ばした。
「お前ら! 今の話は聞いたな? アーウィンの班は装備を整えて俺について来い。すぐに下層に降りる!」
俺たちはヘルメットと武器を取ってエレベーターへと急いだ。
下層についた俺たちは時空震のあった現場でとんでもないものを発見した。
「あれは......人か?」
俺が訝しんでいると部下が駆け出した。
「大丈夫か!?」
「おい待て! 危険だぞ!」
あいつはアーウィンが駆け寄った......
「隊長! きてください、人です!!」
そこには片腕と片足のない青年が倒れていた。
気を失っているようだ。取り敢えず医務室に運んでエクスマキナに事情を尋ねなければいけない。その時通信機が呼出音を発した。
「はい、ヨシダ」
『エクスマキナだ。彼を私のもとへ』
「こいつはなんだ?一体どこから来た?」
俺は尋ねずには居られなかった。時空震自体は珍しくはあれどありえないものではない。比較的空間が安定している場所とはいえここで起きる事もあるだろう。しかし、人間が転送されてくるなど...
『今は不確定要素が多い。後ほど詳細は話そう』
やっぱりこいつ何か隠している。しかし、彼は機動部隊の司令官、ひいては界境探査局の統括AI、従うほか無かった。
俺は厳重なセキュリティを通過し統轄頭脳区画へと足を踏み入れた。後から謎の青年を載せたドローンが追従してくる。
『ありがとう、彼をここへ』
そこには手術台のようなものがあった。
「何をするつもりだ?」
『彼に手と足を与えてあげようかと思ってね』
それだけじゃないだろ、と疑わしげな視線を手術台へ向けた。
『彼は転移者だ。そして私の端末である手足を与える。君たちにとっても戦力が増えるのは嬉しいことだろう?』
「非人道的なやりかただけはするんじゃねぇぞ。あと、快復したら俺が預からせてもらう」
転移者は界境をまたぐ際に次元兵器に対する適性を得る。確かに戦力増強には違いない。ただ、あの胡散臭いAIに任せても問題ないだろうか…...
『さてなんのことやら。身柄に関してはもとより君に任せるつもりだった。頼りにしているぞ、隊長殿?』
「はぁ......」
俺はため息をつき、その場を立ち去った。
主人公ほとんど喋ってませんね。
エクスマキナは悪いAIではありません。ヨシダ隊長がどうにも苦手なだけです。ご心配なく。