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Legend of kiss2 〜炎の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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立ちはだかる壁

 持ち前の運動神経の良さと直感で、社交ダンスをあっという間にマスターした、誠矢は。リエラとの約束を守るため、降りしきる雨の中、バイクで海岸へと急いでいた。


 街外れを通りかかったプリンツの目に、長蛇の列が飛び込んできた。


(おう、何だ?

 ここでも大名行列か?)


 腕時計をちらっと見て、


(……まだ十五分あっから、大丈夫だろ。

 ちょっと行ってみっか)


 好奇心にかられ、行列の先頭へ近づくと、誠矢はおかしな光景を見つけた。


「あぁ?」

(どういうことだよ?)


 そこには、傘も差さずに、何かを必死に頼んでいる男の子と女の子が。


(何……やってんだ?)


 誠矢が状況を見極めようとすると、護衛ふたりが子供たちを追い返し始めた。


(おいおい、他にやることあんだろ。

 ガキがずぶ濡れになってんのに……)


 プリンツは急に真剣な顔つきになり、バイクから降り、彼らのところへ急いで走っていった。


「ーーても、今日はダメだ!」


 護衛の強い口調にもめげず、男の子は必死で訴えた。


「お願いします! どうしても必要なんです!」

「とにかくダメだっ!」


 子供の腕を、大人の大きな手でつかんで、無理やり追い返そうとした護衛の背後から、誠矢の澄み切った声をかかった。


「何やってんだよ?」

(ガキ相手に)


「何ですか?」

(今日は特に忙しいんです。

 用件なら、順番に聞きます)


 護衛はちょっと面倒くさそうに振り返り、


「…………っ!?」

(プ、プリンツ!?)


 誠矢が誰だか気づいて、慌てて態度を改めた。


「しっ、失礼いたしました!」


 誠矢にさっと近づき、小声でうかがいを立て、


「どちらかにお出かけでございますか?」

(本日は、城からお出にならないとうかがっておりましたが……)


「おう」


 笑いを取る余裕など、すでに誠矢にはなく。短く相づちを打ち、子供たちに視線を向けた。


「それよりも何だよ? これ」

(ガキをずぶ濡れで立たせておくなんて……。

 お前ら、どうかしてんぞ)


 護衛は理由をきちんと説明。


「元老院からの通達で、本日は入国を制限するようにと言われているんです」

(私たちは命令に従っているだけです)


 誠矢は聞いたこともない名前をリピート。


「……元老院?」

(何だ、それ?)


 護衛は困ったようにため息をついて、


「はい……。今夜のパーティは元老院主催のものですから。その時は常にこのような状態でございます」

(元老院主催のパーティがない時は、入国制限はしておりません)


 護衛の言葉を聞いて、誠矢は珍しくため息。


(決まり……ってやつか。

 元老院ってやつらのパーティのせいで……入国拒否される奴がいる)


 プリンツは、ずぶ濡れのふたりの子供を見て、


(こいつらの用件……。

 どう見ても、重要なことみてぇだぞ。

 誰かが困るような決まり守るなんて、おかしいぞ、この国)


 誠矢は雨で霞む城へ振り返った。


(ーーっつうか、パーティがダメになるようなことを、このガキがすんのかよ?

 何もしねぇだろ。

 なら、入国拒否する必要ねぇだろ。

 間違ってんのは、大人の方だろ。

 ガキの方じゃねぇ。だったら……)


 子供たちと目線を合わせるために、プリンツはさっとかがんだ。


(オレがやるべきことは、困ってるお前らに手貸すことだ)


 心優しき赤髪少年は、安心させるように、子供たちに話しかけた。


「何しに来た?」

(オレが何とかしてやっから、言ってみ?)


 男の子は純粋な眼差しを誠矢に向け、


「薬を買いに来ました」


「誰か病気なのか?」

(ガキだけで、買いに来るっつうことは……。

 親が病気なんだろ?)


 女の子が誠矢の予想した通りの応えを口にした。


「私のお父さんとお母さんが高熱で倒れて、その薬が欲しくて……」

(早く助けてあげたくて……)


 誠矢はふたりの小さな手を、優しくにぎった。


「お前らいくつだ?」

(ここまで来んの、大変だっただろ)


「八歳です」


 同時に応えたふたりに、誠矢は自分のことを重ねた。


(同い年か……。

 オレと亮みてぇだな)


 切なさと懐かしさを胸に抱きながら、誠矢はさっと立ち上がった。振り返り、護衛に命令をしようとして、


「オレが許可するから、入れてやれよ」

(大人の都合にガキ巻き込むなよ)


「それは、出来ません」

(残念ながら、プリンツでは……)


 首を横にゆっくり振った護衛に、誠矢は詰め寄った。


「何でだよ?」

(オレじゃダメって……どういうことだよ?)


「議会の決定は絶対なんです。それにわたくしどもは逆らえません」

(私たちだって、おかしいのはわかっています。ですが……)


 訴えけかけるような護衛の視線に、誠矢は少し戸惑った。降り続く雨の中、視線を彷徨わせ、


「…………」

(どう……なってんだ?

 みんな、おかしいと思ってんのに……何でこんな決まり作ったんだ?

 妙だぞ……?)


 いっそう激しくなった雨音で我に返り、


(それでも、オレは……)


 誠矢は子供たちへ振り返った。


(間違ってることには従わねぇ。

 それが、この国の決まりでも……関係ねぇ。

 誰かのために、今のオレに出来ること……)


 いつものお笑い少年からは、想像もつかないほどの冷たい声で、護衛に告げた。


「オレが勝手につれてくから、見なかったことにしろ」

(オレはこのガキを助けてぇんだ。

 誰が何て言っても……)


 護衛はプリンツの言葉に、驚いた表情を見せた。


「プリンツ……!?」

(よろしいのですか?

 このようなことをなさってはーー)


 言葉の続きを聞きたくないというように、プリンツは珍しく鋭い視線で、護衛たちを睨みつけた。


「まだ、何かあんのか?」

(立場とかそういうのは関係ねぇだろ。

 困ってるやつを助けらねぇなら……そんなの……意味ねぇだろ)


「……いえ、わかりました」

(プリンツがそこまでおっしゃるのなら、私たちは……)


 それ以上何も言わなくなった護衛たちから、誠矢は子供たちへ視線を移した。ポーチからレインコートを取り出し、子供たちの前に差し出して、


「よし、とりあえず、これかぶれ」

(亮に渡すつもりだったけど、また買えばいいだろ。


 今、一番必要としてんのは、こいつらだかんな)


「ありがとうございます」


 ふたりは礼儀正しく頭を下げて、ひとつのレインコートを一緒にかぶった。誠矢は子供たちの頭を、軽くぽんぽんと叩いて、


「いいんだよ。ほら、薬屋行くぞ、気をつけろよ」

(マジでオレと亮に似てんな)


「はいっ!」


 子供らしく元気にうなずいたふたりに、誠矢は優しく微笑んだ。


(そうだ、その顔だ)


 三人は雨の中、街へ向かって歩き出した。


 護衛はプリンツの後ろ姿を、心配そうに見つめて、


(この先、何の問題も起きなければよいのですが……)


 誠矢は澄んだ心を持っており、直感に優れているが、祐のように政治に長けていない。優しすぎて、感情に流されてしまい、ボタンを掛け違えてしまった。その不安を表すかのように、真っ黒な雲がカーバンクル帝国の上に広がっていた。


 

 その後、無事に薬を買うことが出来た子供たちに、誠矢は新しい服と傘をプレゼントした。


 国境から子供たちを見送ると、亮との約束の時間ーー二時を少し過ぎていた。


(おっと、時間くっちまった。

 急がねぇと……)


 誠矢はバイクに急いでまたがり、海岸へと走り出した。

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