『運命共同体』
「明確な殺意をもって武器を私に向ける。それだけで、あなたは死ぬことが出来る。……ふふ、なんて、簡単で素晴らしいことでしょう!」
彼女の初めての言葉はそれだった。
常人ではない。狂気の沙汰。
――――下手をしたら殺される………………………。
そんなこと分かりきっていた。
でも、彼にはそれに対抗できる武器があった。
「――――――――俺には、………………………………。」
「――――――――?」
「――――俺は、明確な殺意をもって武器を向けることで如何なるものでも殺すことが出来る……っ!」
「…………………まぁ、素敵……。」
彼女はうっとりとした表情のまま、武器を手から落とした。
それは、驚愕でも、恐怖でもなく……、
唯一、自分に対抗できるかもしれないものに対して、
恋に落ちたような……………………。
そう、彼女は、狂気の沙汰。
「――――おはよう、マコトくん。」
朝起きたら彼女が横にいた。彼は驚くこともせずに、彼女を一瞥するとまた寝始めた。
「無視はよくないと思うな。」
彼女の手が背中からすっと伸びて首の周りに絡みつく。
「…………だって、私はマコトくんが大切だし、マコトくんは私のことが大切でしょ?」
そして、耳元にふっと息を吹きかけるように語る。
「――――――――私たちは、お互いがいないと生きていけないのだから。」
静かに、そして、確かに、彼女はそう告げた。
「――――わかってるよ、そんなこと。」
彼は深いため息をついた。
厳密に言うと、彼女の言うことは少し違う。
――――――――彼らは、お互いがいないと死ぬことができない。
死ねないことは生きていないことと同然。『死の祝福』を受けた彼らはほとんど死んだも同然。
――――ただし、唯一、生きる方法がある。それは、お互いに殺し合うことのできる『運命共同体』を見つけ出すこと。彼らは死に近づくことによって生きることが出来るのだ。
『死の祝福』など、あってはならない。受けた者達は忌み子として、誰にも愛されることはない。
彼女、『死を退ける』サクラ。まだ齢15の幼さを残した顔とは裏腹に、『死の祝福』による能力を利用し、街を一つ壊滅させた過去を持つ。
彼、『死を与える』マコト。サクラが壊滅させた街の唯一の生き残り。『死の祝福』を使うことを恐れたために、生き残った。
相反する二人。彼らこそ、『運命共同体』を初めて成し遂げた『死の祝福』を受けた者。