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琥珀の女神は復讐劇の幕を上げる  作者: あかり
第一幕
7/48

噂とは

「ちょっとジェラミー!どうしたの、急に走っていくからびっくりしたじゃない!」

「レイラ………、リュシアン」

「誰か知り合いにも会ったの?ひどく焦っていたようだったけれど」


 二人の少女と青年が走り去って行った方向をただ見つめていたジェラミーは、緩慢な動作で自分に合流した連れの二人を振り向いた。

 案の定レイラは目くじらを立てていたけれど、リュシアンは意外にも弟を気遣う言葉を投げかけてくる。


「あ、あぁ。灰……。いや、人違いだ」

「ふーん」


 なにやら納得いっていないようだが、これ以上深入りする様子はないようだ。

 リュシアンはなんとはなしに、先ほどまでジェラミーが見つめていた方向に視線をやった。そこには自分達双子と容姿端麗な幼馴染を見世物にしようとやってきた人々で溢れていて、ジェラミーの見ていたものは到底見つけられそうにない。誰にも悟られないよう浅い溜息をついて、その秀麗な顔に笑顔を張り付けた。


「さぁ、みんな、50年ぶりに姿を見せてくれる『女神姫』に会いに行こう」



✿ ✿ ✿



 そんな三人からそう遠くないところには、

「ハァハァハァ……」

「ひ、姫、さま。ハァハァ、い、いま」

 先ほどの黒の青年から十分距離を開けたところで立ち止まり、荒げた呼吸を整える少女達と意外な二人の様子にいよいよ訝しみはじめる藍色の青年の姿があった。


「珍しいなこの程度の距離で二人の息が上がるなんて」


 片眉を不自然なほど上げて、ノアは黙り込んだ少女達を見下ろしている。

 聞きたいことはあるが、一先ず二人の様子を見守ることにしたようだ。それでも、無言の圧力はすごいはずなのだが、それを完全に無視することができるのがノアの守るべき少女達である。


「カイル………。いや、違う。奴じゃない。あれは、ジェラミー・ミネルバだ」

「そう、です、よね。でなければ、わたしの事もわかるはずですよね………。でも、容姿だけではなく声までそっくりでした。それに、『ミネルバ』といえば」


 キャロンの言葉に、セリアは無言で頷いた。


 『ミネルバ』、それは今から250年前に失われたはずの二人の祖国、アテナイ国の貴族の名。かつて黒騎士として『女神姫』の傍で活躍し、晩年には『女神姫』の唯一無二の親友であり侍女でもあったエヴァを娶ったとされる、カイル、その人の家系の名だった。つまり、キャロンの前世の家名でもある。


「先祖返りか」

「「まさか」」


 ノアが独り言めいた言葉にセリアとキャロンの言葉が綺麗に重なり、その表情までもがまるで同時に苦虫を飲み込んだように一緒だったものだから、ノアはその緊迫した空気にも関わらず思わず吹き出してしまう。


「ノア、失礼です。わたし達は真剣なんですよ」

「すまねぇな」


 軽く機嫌取りをするように謝った後、再び彼は話題を軌道修正するために口を開く。が、言葉を紡ぐ前にセリアに先を越されてしまう。


「確かにそれが妥当な線だ。ミネルバ公爵家の双子騎士の話は私も聞いたことがある。白と黒の代名詞で知られているからな。まぁ、あそこまで、とは思わなかったが」


 最後の台詞のところで、セリアの片眉が器用に持ち上がった。まるで気に入らないと言っているかのように。

 そんな彼女の言葉を受けてか、キャロンは顔の半分を隠すように片手で覆って項垂れる。その理由が今一わかっていないノアは自分も話題に入りたくて、更に情報を共有することにした。


「巷では有名だぜ、あの双子と幼馴染のお嬢様の話は」

「有名?」


 見事に引っかかってくれたようで、セリアとキャロンの注目はノアに向いた。それでも二人の、特にキャロンの顔から疲労は消えてはいない。


「あぁ。史実に残されてる『女神姫』の護衛の『白騎士』『黒騎士』の特徴をそのまま受け継いで、尚且つその家系の生まれでもある双子の兄弟。彼らはその騎士達の生まれ変わりだってのが一番多く言われてる意見だ。そして、そんな二人に守られて生きている幼馴染のイングラム侯爵家令嬢。史実によれば『女神姫』は金髪の瞳に白い肌、絶世の美女というじゃねぇか。あまりにも都合が良すぎるほど伝説の登場人物達の設定にはまり込んだ三人を、世間はほっとかねぇだろ。……そんなに睨むな、キャロン」


 ある程度解説をしたところで、まるで無実を主張するように両手を片手の位置に上げ、ノアは降参のポーズをとった。すごい勢いでキャロンが睨めつけてくるからだ。


「これはあくまで世間様からみた三人の話だ。俺のじゃないぞ」

「まぁ、もう300年も前の話だ。史実はあろうと、本物を知る者はもう居ないのだからな。仕様のないこと」


 キャロンとは反対に、セリアは冷静だった。


「ですが姫さま」

「それより、気になったのは双子の騎士とやらだな。あの黒の彼は確かにカイルそのものだった。そしてその後に見えたあの銀髪の青年は……」


 不自然な言葉の切り方にノアは眉を潜めるも、何もいわない。その代わりに、今度はキャロンがその文を引き継いだ。


「『白の騎士』と言われたもう一人の護衛であった、リアンさま、そのものでした」


 何かを言いかけたジェラミーの後ろに見えた白い容姿。端麗で甘い蜜のような見た目の彼は、セリアの遠い記憶を否応なしに引き起こして、そして混乱させた。だからこそ、あそこを立ち去ったのだ。彼と出会うことは、何故かいけないような気がして。


「だが、彼もまた、ただの先祖返りとしてその容姿だけを受け継いでいるだけなのかも知れん。同じ世代、同じ場所、同じ時期に四人が同時に生まれ変わるなんて、どんなお伽噺だ」

「いいえ、姫さま。それは違います」


 自嘲気味なセリアの言葉をキャロンの力強い言葉が否定する。キャロンは被り振ってセリアを見つめた。その両手はまるで何かに祈るように目の前で繋がれている。


「カインさまもリアンさまも、そしてわたしも、願いは一緒でした。あの時、わたし達は願ったのです。いつか必ず、姫さまの元に皆で戻れるように。あまりにも短すぎたあの日々をもう一度やり直せるように。だからこそ、わたし達は家系を共にすることを了承しました。それが今ある『ミネルバ公爵家』の始まりです」


 キャロンの言葉に、セリアは目を見開いた。


 初耳である。キャロンは自分が居なくなった後の話を決してしようとはしなかったから。

 残したものと、残されたものの認識の違いは当然で、残してしまったキャロンに申し訳なくて、セリアもあえてその話は避けていたのだ。だからこそ、驚いた。そんなに強く、後世に想いを残してくれていた大切な三人に。


「なのに、なのにあの愚孫達ときたら!!!」


 せっかくの感動的でしんみりした空気も、束の間、キャロンの叫びに拡散してしまう。

 キャロンの瞳には、どす黒い怒りの炎が見え隠れしていた。

 キャロンも、そして彼女の前世であるエヴァでさえ、こんな物言いはしたことがない。どこかおっとりとしていて、下手すれば姫であった自分よりも姫らしい少女であった侍女から、見えてはいけないものが見えた気がした。目を白黒させて、セリアとノアはキャロンを見つめる。


「そんな大事な想いを忘れるなんて!許しません!!!カイルさまとリアンさまの悲願だった姫さまがいるこの世に生まれてきたにも関わらず、わたし達を見ても何も思いださないなん「キャロン、落ち着け」

 長引きそうだったので、思わずといった風にセリアが口を挟んだ。


 我に返ったキャロンは恥ずかしそうに「申し訳ありません……つい」と小さな声で非礼をわびると、両手で髪の毛を撫でつけながらセリアとノアから視線を外す。

 よかった、いつものキャロンだ。


「まぁ、いいさ。カイルとリアンの事は置いておこう。今はエヴァ、いや、キャロンが傍に居てくれる、それだけで十分だ」


 琥珀の瞳が、知性と愛情を宿して一瞬だけ煌めいた。

 キャロンは嬉しそうに頬を赤らめ、ノアの心はその色に一瞬にして奪われる。そんな自分の自覚して、彼は小さく溜息をつくと自分の藍色の前髪を一房握りつぶす。

 今のセリアは決して『女神姫』と言われるような容姿をしているわけではない。好みによっては綺麗ともとれる、けれど極々普通の容姿をしていた。

 彼女を、絶世の美女として後世に名を残す『女神姫』の生まれ変わりと評するには些か無理があるだろう。


 しかし、その瞳に浮かぶ真の光を見た瞬間、その疑問が綺麗さっぱり吹き飛ぶことを、ノアは嫌というほど知っていた。





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