振り返るのは1
彼女がそこに居るだけで、世界は七色に輝いた。
彼女はその国の光だった。
金色に輝く長く豊かな髪、白い肌は真珠のようで手足は細く長く、出会った人々は口を揃えて彼女を可憐でか細い少女のような姫と評した。
けれどその琥珀の瞳は苛烈な光を宿していて、一度目が合えば否応なしに心が引き寄せられて離れられなくなる。
その瞳に自分を映してほしいと願ってしまうのだ。
可憐さと過激さの両方を併せ持つ神に愛された姫は、ある名を世間より与えられた。
『女神姫』
300年前、謎の死を遂げたとされる女神姫フィアナの名は、こうして後世の人々に伝えられていくことになる。
彼女自身はそうなることを、望んですらいなかったはずなのに。
✿ ✿ ✿
『女神姫』が一人になることはほとんどなかった。常に彼女の周りには人で溢れていた。国の光と評された彼女の周りには、自然と人が集まってきたのだ。
その中でも多くの時間を彼女と共に過ごした三人の人物がいた。
灰色の少女は姫の傍らにあり続け、そんな二人を見守るように寄り添う二人の騎士。
四人は共に居るのが当たり前で、それは周りも同じだった。どこにでもあるいつもの風景。姫が無茶をすれば、灰色の少女は悲鳴を上げ、一人の騎士は感情の起伏を見せず冷静にそれを諌め、もう一人の騎士は声を上げて笑う。幸せを実感させるありふれた光景。
灰色の少女は『女神姫』の心に沿うように。そして二人の騎士はそれぞれにそれぞれの大事な人の幸せを守るためにそこにいた。
守るために、居たはずだった―――。
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終わりは唐突だった。
姫の亡骸はあまりにも無傷で、誰もが寝ているだけだと信じて疑わなかった。
それが永遠に明日を迎えることが出来なくなった少女の身体と知った時、国は蜂の巣をつつかれたような騒ぎになった。
状況が把握出来ないまま夜が明ければ、姫の亡骸が消え去っていた。
常に傍らにあった侍女は取り乱し、騎士達は絶望に瞳の色を失くして、抜け殻となった部屋をただ茫然と見つめ続けるしかなかった。
姫はその国の宝で、光だった。その光を無残に奪い取られ、奪い取られたことすらもなかったことにされた。
かつて、神々に愛されたその国はそれから50年の後、歴史から葬り去られることになる。