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甘く危険な宇宙生物  作者: 川越トーマ
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金曜日の深夜  二隻の宇宙船

 漆黒の宇宙空間を巨大で透明な楔形の何かが超高速で航行していた。

 その透明な物体の遥か後方では、最初の物体の後を追うように巨大で透明な葉巻型の何かが航行しており、二つの物体は互いの距離を縮めつつあった。

「随分しつこい追跡者だ。速度はこれ以上あげられないのか!」

「すでに安全範囲を超える速度を出しています。これ以上は無理です!」

 透明で巨大な二つの物体はともに宇宙船だった。

 そして、どうやら追う者と追われる者らしい。

 前方の宇宙船の操縦室には照明らしきものはなく、各種モニターの発する光がぼんやりと闇を照らしていた。

 何人かの人影が確認できたが、姿形ははっきりとはわからなかった。

 しかし、緊迫した雰囲気に支配されてることは室内に響く声の調子からはっきりと分かった。

「ステルスモードは正常に機能しているんだろうな!」

「ステルスモードは正常に機能しています。可視光線を含む全ての帯域の電磁波で、策敵はできないはずです」

「恐らく電磁波ではなく重力波をトレースしているものと思われます。それ以外考えられません」

「鼻も利く、足も速いということは戦うしかないということか」

「敵艦発砲!」

 モニターを確認すると防御シールドが相手の攻撃に反応して激しく発光する様子が確認できた。

 そちらの考えは先刻お見通しといわんばかりの先制攻撃だった。

「知的生命体の住む惑星が近いんだぞ! 一体何を考えているんだ、奴らは!」

「自律型ドローンを展開せよ。ミサイルをお見舞いしてやれ!」

 自律型ドローンは人工知能を搭載した小型の無人戦闘ユニットだった。

 事前に入力した目標に対して接近及び回避運動を自動で行い、ミサイルで攻撃することが可能だった。

 楔形の宇宙船には二〇機以上が搭載されていた。

「そうですね。重力センサーは小型の目標を捕らえるのが苦手ですから、ドローンならいけるかもしれません!」

 自立型ドローンが楔形の宇宙船の中央部から次々に射出され、葉巻型の宇宙船に不規則な軌道を描きながら接近した。

 発射タイミングを同期させ、同時に百発を越えるミサイルが四方八方から葉巻型の宇宙船に襲い掛かった。

 それに対応して、葉巻型の宇宙船から照射された複数のレーザー光がめまぐるしい動きでミサイルを次々に切り裂いた。

 しかし、全てのミサイルを迎撃することはできず、何発かは防御シールドに到達して葉巻型の宇宙船は爆発の閃光に包まれた。

「やったか!」

 殺気立つ操縦室内でモニターのひとつが反応した。

 外部を映すモニターではなく艦内の通信用モニターだった。

「お願いです」

 通信用モニターから聞こえてきたのは、操縦室内を支配していた殺気立った低い声とは異なる、柔らかく心地よい声だった。

「お願いです。何もしませんからこんな狭いところに閉じ込めたりしないでください」

 モニターには映像を映すこともできたが、映像は何故か遮断されており音声だけだった。

 声の様子からすると若い女性のようだった。 

「もう我々の言葉を覚えたのか、たいしたもんだ。何、心配するな。もうすぐ自由の身にしてやる。これが目的地だ。見てみろ」

 通信用モニターに、通信者の姿かたちではなく青く美しい惑星の映像が表示された。

「きれいな星……」

「そうだろう。おまえをこの惑星に下ろすために緊急脱出カプセルに乗せたんだ。狭くても少しの間我慢しろ。我々は追跡者をひきつけておくから、うまくやるんだぞ。追跡者に殺されないように気をつけろ」

 その瞬間、船内を衝撃が襲った。

「なんだ!」

「敵の攻撃です! 防御シールドが破られました」

「艦尾損傷! 推力二〇パーセントダウン」

「気密隔壁、全閉鎖!」

「シールド回復急げ! ドローンはどうなっている?」

「すでに半数がやられました」

「敵艦のダメージは?」

「確認できず!」

 相手はかなり戦い慣れているらしい。

 まだ目標の惑星までの距離は少し遠いが決断するときが来たようだった。

「緊急脱出カプセルを射出!」

「カプセル射出します!」

 すでに楔形の宇宙船は青い惑星の大きな衛星の軌道の内側にいた。

 緊急脱出カプセルは青い惑星を目指し一直線に降下していった。

「ドローン全滅。敵艦から小型艇発進」

 円盤型の小型艇が一隻、敵艦から高速で離れていく姿がモニターで確認できた。

「レーザーで撃ち落せ、本艦に近づけるな!」

「いえ、敵小型艇の目的は本艦への攻撃ではないと思われます。緊急脱出カプセルを追尾する軌道に乗っています」

「護衛の戦闘艇を出せ、緊急脱出カプセルを守るんだ! なんとしても使命を果たさねばならん」

「戦闘艇、発進準備急げ!」

「敵艦、なおも接近してきます!」

「戦闘艇発進後、空間跳躍で敵を振り切る。演算開始!」

「大規模天体の近くでの空間跳躍は危険です。重力の影響で計算どおりの跳躍ができず、事故につながる恐れがあります」

「死にたいのか! いいから言うとおりにしろ!」


 三つの流星が豊かな水を蓄えた蒼く美しい惑星の大気を切り裂いた。

 惑星は、その星の知的生命体に「地球」と呼ばれていた。

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