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甘く危険な宇宙生物  作者: 川越トーマ
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月曜日の夜   次の物語

 東京行きのその日最後の特急は、月曜日の夜ということもあって比較的空いていた。

 大学生の川島タツヤは、だれもいないボックスシートを見つけると進行方向に向かって腰を下ろした。

 彼は旅行が好きで暇を見つけては東京の近場を小旅行していたが、残念なことに一緒に旅行してくれるような彼女はいなかったし、男性の友人は『じじくせえ』と一蹴したので結局一人で行動することが多かった。

 今日はハイキングをして、山の頂上に建っている神社にお参りし、この町の名物になっている大きなとんかつが2枚も乗っているソース味のカツ丼を食べ、美里屋という老舗旅館の露天風呂につかった。

 傍から見れば寂しい旅行なのかもしれなかったが、彼としては充実した一日に満足していた。


 彼は、ジャガイモのてんぷらに味噌ダレをかけたB級グルメ二串と県内産の地ビールをボックス席のテーブルに並べ、一人で酒盛りを始めようとしていた。

 できたらビールもこの土地のものでそろえようと思ったが、残念ながら日本酒とワインは地のものがあったものの、ビールはなかった。

「こちら、席空いてますか?」

 声が自分に話しかけていることに気づき、タツヤは顔を上げた。

 見ると、グレイのワンピースを着た高校生くらいの三つ編みの少女がボックスシートに一人で座っていたタツヤに向かって微笑んでいた。小柄でやせた色白の少女だった。

「ええ、空いてますよ。どうぞ」

 少女は賢そうな顔にやわらかい笑みを浮かべたまま、男性の正面に座った。

『こんな若い女の子が一人旅? めずらしいな。おまけに荷物も持っていない。それに他に空いているボックスシートもあるのに、わざわざ、ここに座るのか?』

 タツヤは不審に思いながらも、ビールを開け、喉の奥に流し込んだ。

『はー、うまいなあ』

 ビールはよく冷えていた。タツヤは幸福を感じながら、『みそポテト』と呼ばれるB級グルメに手を伸ばし口に運んだ。

 視線を感じ正面を見ると少女と目が合った。

 少女はタツヤが『みそポテト』を食べる様子をじっと見つめていた。

 タツヤは急に居心地が悪くなった。自分だけ飲み食いしていて、それをじっと見つめられるのは気持ちのいいことではなかった。

「……おひとつどうですか?」

 タツヤは断腸の思いで、二串しかない『みそポテト』をひと串、少女に勧めた。

「いいんですか? ありがとうございます」

 少女はうれしそうに『みそポテト』に手を伸ばすと、あっという間に平らげた。

「おいしい!」

「それはよかった。もっとあればよかったんですが……」

 食べっぷりからすると、相当お腹が空いていたらしい。

 タツヤはリュックの中にゴマせんべいが入っていたことを思い出し、取り出して袋ごと彼女に見せた。

「食べます?」

「はい!」


 袋入りのゴマせんべいはあっという間になくなった。

「どちらまで、いくんですか」

『あ~、この子は遠慮とかしないんだ……』と内心思いながら、タツヤは少女に話しかけた。

「東京です。はじめていくんですよ。楽しみです」

 少女は屈託のない笑顔を浮かべ、さもうれしそうに話していた。

「へえ~、東京ではショッピング? それとも、テーマパーク?」

 若い女の子で東京で行きたいところと言えば、原宿の竹下通りや東京ディズニーリゾート(正確には東京じゃあないけど)、お台場などが頭に浮かんだ。

 しかし、そう聞いたものの少女の服装や持ち物は、泊りがけで旅行をするとは思えないものだった。

 この時間から東京に言って遊ぶとなると当然泊りがけになるはずなのだが……

「グルメスポットの食べ歩きなんかいいかな、なんて……昨日テレビで見たんですけど、おいしいものがいっぱいあるんですよね。それに食べ放題のお店なんかも……あぁ、楽しみだなぁ……詳しいですか? 東京」

 少女は何かを思い出すように虚空に視線を向けて笑顔を浮かべていたが、急に視線を動かして、きらきらと輝く目でタツヤのことを見つめた。

「ん、まあ……東京で下宿住まいなもので、それなりには」

 タツヤは思わず少女の笑顔に見入ってしまった。

『本当に食べることが好きな子なんだな』

 何かほほえましくて、タツヤも思わず笑顔を浮かべていた。

「よかったら、案内してください」

 少女は明るい表情でタツヤに身体を近づけた。手を握らんばかりの勢いだった。

「いいですけど……」

 タツヤはキツネにばかされたような気分だった。

 こんなに可愛い子が積極的に自分に話しかけてくるなんて信じられなかった。

 しかし、猜疑心よりも幸福感の方が勝っていた。

「よかったあ、親切な人とお知り合いになれて」

 少女は人懐っこい笑顔を浮かべると、タツヤの横に座り直した。

「えっ?」

 目を閉じてタツヤに寄り添う少女からは、なんともいえない甘い香りが漂っていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

次の作品に御期待ください。

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