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ニジェールの熱い一日(ほぼ実話)  作者: ニジェールまきこ
12/25

出会い〈4〉

布の下見を終えてドミへ戻ったのぞみは、再び菜々に会った。

「菜々、きょう夜はどうする?ギンギンヤに行ってみない?」

ギンギンヤもニアメのレストランバーで、生ビールや焼き肉などがメニュにある。ほかの隊員や仕事で駐在している欧米人も見かける場所だ。

菜々は「いいよ。生ビール飲みたい!」と威勢よく答えた。


ギンギンヤの店内は、大きく叫ぶように話さなくては聞こえないくらい、コートジボワールの独特のリズムのダンス音楽が大きく鳴り響き、様々な肌の色の人たちの雑多なしゃべり声や汗や香水の匂いが入り混じっていた。


「ここのサービスの女性はね、ベナンとか、ガーナとかから出稼ぎに来ているんだって」と菜々は生ビールを片手に言った。

「そうなんだ。出稼ぎでニアメに?ベナンにいたほうが稼げそうだけど・・・」

「それで、こういう場所で男の人に売春の交渉をするんだって」

「え?料理運ぶだけじゃないんだね。そういうところなんだ、ここって」


のぞみはラオスやカンボジアで幼い少女が悪徳人身売買業者に連れて行かれ、日本円にして数千円でタイの売春街に売られてしまうという話を聞いたことがあった。

ここで働く女性たちは、着飾って化粧をし、大きな尻を揺らしながら男性客に近づいていく。無理やり働かされているような悲壮感はないように見えるが、たとえば故郷の家族を養っていけるくらいは稼げるのだろうか。

のぞみは、菜々に「私、ちょっとあのおじさんにインタビューしてみる」と言い残し、席を立った。すっかり「アフリカの売春婦たち」についての現地ルポを書くジャーナリストの気分になっていた。菜々はあっけにとられたまま、ニジェール人らしき半袖スーツを着た中年の男性客に近づいていくのぞみを見守った。


「ボンソワー、おじさん。いきなりだけど、私を買うならいくら払う?」

「ザンバルフォ(5000フランセーファー)」

「ザンバルフォ??ジャポネだよ、ジャポネ!」

「ジャポネも誰でも同じだ、ザンバルフォ」


5000セーファと言うことは、日本円でおよそ1000円程度。のぞみはその男性としばらく会話したあと席へ戻り、その内容を菜々に報告した。

「そうかあ、1000円であのオヤジと??絶対ムリ。しかしよくやるよ、のぞみ。ほんとにそのままどこかに連れて行かれたらどうするの?」

「大丈夫だよ、おじさんには『いつか私が本を書くときのネタだよ』って言っておいた。おじさん笑ってたでしょ。それに、ちゃんとした身分らしき人を選んだし」

「人を見る目、鍛えられるよね。日本を出ると」

「そうだね。日本にいる時と、信頼できる人を判断する基準も違うよね」

「でも、最終的には、信じられる人かどうかって、直感じゃない?」

二人は過去の旅やそこで出会った人の話で盛り上がり、ギンギンヤを出ると、午後11時ごろになっていた。


通りを走る車も減り、店の前でドミ方面へ戻るタクシーを捕まえようとしても、なかなかつかまらない。

そこへ、真新しいワゴン車がのぞみたちの目の前に止まり、中からターバンを巻いた中年の男性が「どこまでいくんだ?のせていこうか」と声をかけてきた。

菜々が「いえ、けっこうです」と即答した。

のぞみは菜々に「裕福そうだし、私たち二人いるし、大丈夫だよ」とぼそぼそと言った。

「危ないって。いくらニジェールが平和でも、もう真っ暗だし。知らない人の車に乗るなんて」

「ここでずっとタクシー探してる方が危ないって。乗せてもらおうよ」

そうこうしているうちに、男性は車から降りてきて、「さあ乗りなさい」とのぞみのポシェットに手をかけた。


その時、対向車線に停車したセダンから降りてきた男性が近づいてきて、

「待ってくれ、この子たちは、僕が送っていく約束をしていたんだ」と言い、のぞみと菜々の肩をグイッと引っ張った。

「え?」のぞみは驚いて男性の顔を見ると、それは昼間乗り合いタクシーで一緒になったトゥアレグ族のカリームだった。


ワゴン車の中年男性は間が悪そうにしながら、自分の車に乗り、去っていった。

「カリーム!」

カリームはニコッと得意げに笑い、

「たまたま通りかかったんだよ。日本人の女の子二人が、こんな時間にこんなところにいたら目立つからね。すぐにノゾミだってわかった」と言った。

菜々は「のぞみ、知り合いなの?」と不思議そうに聞くと、「知り合いというか、昼間タクシーで一緒になった人なんだけどね」。

カリームは「今のおじさんも、悪い人じゃなさそうだけどね。僕の方が安全だから」と言って、またクククと鼻を鳴らして笑った。「プラトーのJICAまででしょ?乗せていくよ」と言うと菜々は、今度は「お願いします!」と即答した。

「あれ?知らない人の車には乗らないんじゃなかったの?」

「この人は大丈夫!直感」

「そうだね。私もそう思う」


ドミまでのぞみと菜々を送り届けると、カリームは「また何か困ったことがあれば」と自分の携帯電話の番号を書いた紙きれをのぞみに渡し、車で走り去っていった。


菜々は、「のぞみ、同じ日に2回も偶然会うなんて、運命かもしれないよ!」と興奮してのぞみの肩をたたいた。


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