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イラスト②

 悶々としたまま授業は右から左。

 お昼ご飯も味が分からない状態で食べ、気付けば放課後となっていた。

 どうせ行ってもドッキリでしたと物陰から心無い人達が出てきて笑われるだけだと分かっている。


 分かっているけど、男ってバカだよね?

 いや、僕がバカなのか?


 何時の間にやらカエル公園入り口に立っているし。

 このまま銅像前に行けばきっと『身の程知らず』『顔鏡で見た事ないのかよ』『キモイ』などとさんざんに言われるに違いない。

 それなのに『もしも』が拭い去れず銅像に向かった。

 ああ、僕って隠れマゾだったんだと新たな一面を発見しつつ地面を見詰めながら歩いていると足元に影が差した。


「本城くん」


 凛とした声に呼ばれ、顔を上げるとそこには東雲さんの姿があった。


「何で……」


 居るのだろうかといぶかしんでいると東雲さんは普段見せないような笑顔で僕を見た。


「良かった来てくれて」


 ドッキリ……。

 ドッキリ仕掛け人のみなさんは?

 辺りを見回すが、それらしい人影は見当たらなかった。


「東雲さん…本当に僕に用事が?」

「はい」


 マ・ジ・で?

 ゆ、油断大敵だ。

 極上笑顔の後に豹変し、ゲス顔で『騙されてんじゃねーよ。このサル』て、嘲笑われるかもしれないし。

 気を引き締めておかないと!


「ここではなんですのであちらで話しましょう」


 ああ、やっぱり。あちらにいらっしゃるのですね。

 ゲスご一同様が。

 ははは、自分を戒めておいて良かった。

 心の中で乾いた笑いを零していると、公園に設置された雨避けしたのベンチへと案内された。

 左寄りに座る東雲さんと距離を取る為に思いっきり右端に座る僕。

 何時でもドッキリと書かれたプラカードを持った人間が現れてもいいように覚悟を決めていると、不意に東雲さんが僕を見た。

 美少女オーラ半端ないなぁ~。無駄に心拍数上がるよなぁ~と見惚れていると、折角取った距離を東雲さんは詰めた。詰め寄った。

 パーソナルスペースを侵され上半身を仰け反らせ、出来る限り距離を取ろうとしている僕の眼前にノートが突きつけられる。


「このイラスト描いたの本城くんよね?」

「ふぁい?」


 唐突な質問に反問がおかしくなってしまった。

 何がなにやら分からず困惑していると、東雲さんはノートを開いて見せた。

 そこには先週落書きしたオリジナルキャラのイラストとどうでもいい設定がギッシリ。

 これ、僕のネタノート。

 てか、何で東雲さんが持っているの?


「ノートに名前がないから理科室の同じ席を使っている人にノートを借りるふりをして文字を見比べてみたけど皆さん違っていて、本城くん意外いないの」


 理科室。

 そういえば四日前に持って行ったかも。

 あの時置き忘れたのか。


「本城くんのよね?」


 これはどう返事するのが正解なんだろうか?

 キモイオタクノートを発見した場合、心無い人の行動はゴミ箱へ捨てる。

 通常の人はそのまま放置。

 優しい人なら落し物として職員室に届ける。

 だよね?

 ここまで必死に探しているって事は……つまり……その……。

 何だろう?


「私の勘違いかしら?」

「いや、その……」

「違うの?」

「ち……」

「本城くん?」

「ち、違いませんです」


 目を潤ませた美少女に嘘が吐けるほど僕はハートが強くなかった。

 素直に認めると東雲さんは破顔し僕のノートを胸に抱きしめた。

 ああ、ノートになりたい。


「ああ良かった。勘違いでなくて!」

「え? あ、うん。そうなんでございますか?」

「ええ」


 何がそんなに嬉しいのだろうか?

 てか、緊張のあまり言葉使いがおかしくなっているな僕。


「ブクブクゲットさん」


 おふっ!

 イラスト投稿サイトやブログなどで使用しているペンネーム。

 リアルで呼ばれる事のない名前の登場に一瞬にして固まった。


「本城くんがブクブクゲットさんですよね?」


 確信めいた質問に答える意味ってあるんだろうか?


「ですよね?」

「はい……」


 違うと言っても信じてくれそうにないし、何よりブクブクゲットの名前に対して好意的オーラ全開の人に嘘付く必要もないので認めると、東雲さんはガッツポーズをした。

 クイズ番組王者決定戦で優勝した人のように喜び、その様子を生暖かい目で暫し見守っていると東雲さんは僕の存在を思い出したのか、慌てて居住まいを正した。


「失礼しました」

「いえ。大丈夫でありますです」

「あの……」

「はい」

「実は私、ブクブクゲット先生のファンで……」


 先生とか止めて!

 恥ずか死ぬから止めて!!


「先生の描かれる独創的な世界観と色使い。何より肉厚なキャラが鬼萌えで、つい前屈みになるといいますか……」

「前…屈み……?」

「あっ、いえ、眼福! そう、眼福なんです!」


 必死に言葉の訂正をする東雲さんは何時もの取り澄ました顔とは違い、表情を引き攣らせていた。

 可愛い子ってどんな顔も可愛いんだとつい感心してしまう。


「それでですね。私、先生にお願いがありまして……」

「はい」

「お、お恥ずかしながら創作小説を書いておりまして……」


 そこまで聞いて漸く東雲さんのお願いが分かった。

 小説の挿絵を描いて欲しいのだろう。

 僕の拙いイラストでよければいくらでも描きます。

 そう答えようと口を開くが、僕の言葉を遮るように東雲さんは一気に言った。


「私の書いているBL小説の挿絵を描いて頂けませんでしょうか!!」


 あぁ……ん。

 んん?

 BL?

 今、BLって言った?

 BLってボーイズがラブしているアレだよね?

 流石は美少女。

 僕の予想の斜め上を言ってきた!?

 てゆーか、腐女子なんだ東雲さん。


「先生の骨太で筋肉質な絵でうちの子を描いて欲しいんです!」

「え、いや、その……」

「ギャラならちゃんと支払いますので!」


 お金の問題ではなく、描けるかどうかの問題で。

 だって普段描いているジャンルと違うし、全然そっちの世界知らないし。

 自信ないって言うか、描ける気がしないっていうか……。


「凄く厚かましいお願いをしているのは分かっています」

「あ、いや…そんな事は……」

「でも、どうしても先生がいいんです」

「そう言われましても……」


 熱のこもった目で前のめり気味に頼み込む東雲さん。

 近い! 近い! 近い!


「ダメ…ですか?」


 ダメって言うか、無理って言うか……。


「お願いします」


 美少女の近距離うるうる懇願攻撃に打ち勝てるほど僕は強くなかった。


「が、頑張らせて頂きます」


 心とは裏腹にそう答えていた。

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