イラスト①
憧れの絵師さんに自分の小説の挿絵を描いて貰えたら……。
そんな妄想から生まれたお話です。
ヒロインが腐女子の為、BL的な表現がちらほら出てくると思います。
苦手な方はお気を付け下さい。
例えば登校し下駄箱に手紙が入っていたとしたら、一番に何を思うだろうか?
ヤンキー系の人なら果し状?
自分に自信がある人ならばラブレター?
どちらにも該当しない地味でその他大勢レベルの僕は嫌がらせの類を想像した。
嫌な予感しかしないピンクの封筒を手に取れば、表には本城月人様と僕の名前が書かれ、裏には差出人の名前があった……。
――東雲詩音。
鐘歌高校でその名を知らぬ者がいない孤高の美少女の名前に、手紙は明らかにイタズラだと分かりホッと安堵する。
いや、呪いの手紙だったら怖いし気持ち悪いけど、イタズラなら乗らなければ害はないから。
上履きに履き替えた僕は手紙を玄関に設置されているゴミ箱へ捨てようと向かうが、東雲さんの知らない所で名前が勝手に使われていたとしたら迷惑が掛かるかもと、手紙は家に持ち帰りシュレッターにかける事にし、鞄に押し込むと教室へと向かった。
社交性に優れていない僕は誰とも挨拶を交わす事なく教室に到着した。
窓側一番後ろの席に座り一時間目の用意を始めると廊下が少し賑やかになり、程なくして両サイドに女子を侍らせたイケメンが教室に入って来た。
――神凪莉緒
読者モデルをやっているとかで彼の周りには何時も女子が群がっている。その為。入学してからこれまで彼の半径二メートル以内に近寄った事がない。
下手に近寄ったら光属性の光効果で無に返されそうな気がするし、それ以前に取り巻きの女子にクソ味噌に言われ闇より深い深遠に落ちるだろう。
モブという己の役目を全うすべく存在感を消している僕とは正反対に神凪くんはクラスの女子や廊下を通る別のクラスの女子に声をかけていく。
「今日俺のバースデーパーティやるんだけど参加しない?」っと。
声をかけられた女子は漏れなく参加すると笑顔で答え、その様子をモテたくてモテたくて発狂しそうな非リア充男子達は嫉妬と羨望の眼差しで睨み『リア充爆発しろ!』と呪いをかけている。
僕も非リア充男子だが派手な人は苦手だし、肉食系女子に取り囲まれても窒息しそうなだけだから羨ましくはない。
いや、本当に。強がりじゃなくてね。
あまり見ていて呪術者の一員だと勘違いされてもあれなんで、神凪くんから視線を外そうとした丁度その時。長い黒髪を揺らしながら廊下を歩く東雲さんの姿が窓ガラスの向こうに見えた。
人目を惹きつける超絶美少女の姿に気付いた神凪くんは、入ったばかりの教室から廊下へ出た。
「はよ。東雲さん。今日俺のバースデーパーティーやるんだけど東雲さんもどう?」
超絶イケメンのお誘いに女子の九割は気を良くするが、東雲さんは一割の女子らしく無表情に近い涼やかな顔で見詰め、そして……。
「お誘い有難う。でも、今日は大事な用があるので遠慮するわ」
バッサリと断った。
これまで一切の誘いを受けてもらった事のない神凪くんはやっぱり駄目かと苦笑し、その様子を見た非リア充男子達は溜飲を下げたのか若干嬉しそうな顔になっている。
丁寧にお辞儀をし、立ち去るその時。一瞬東雲さんがこっちを見た気がしたけど、ただの気のせいだよね?
朝、東雲さんと目が合ったという勘違いの所為でイタズラ認定した手紙がもの凄く気になっている。
大好きな歴史の授業だというのに全く内容が入ってこない。
東雲さんの名を騙った心無い人からのイタズラだと分かっているのに、もしかしたらと思う自分もいる。
いやいや、誰もが認める美少女東雲氏がこれと言って特徴のないザ・フツーの地味メンに一体何の用があるというのだ?
ないない。ありえない。
例え用があったとしても『生理的に受け付けないので視界に入らないで下さい』とかそんなものだ。
態々傷付く必要はないだろう。
だがしかし、何かの間違いで本当に用があったとしたら?
いやいや、だからないって!
無駄な押し問答を脳内で繰り広げているうちに気付けば一時間目の授業は終わっていた。
授業終了のチャイムと同時に僕は手紙が入っている鞄ごと未使用の教室へと駆け込んだ。
これはただの確認だと誰にともなく言い訳をし、逸る気持ちを抑えながら手紙を開くとそこには丁寧かつキレイな字でメッセージが書かれていた。
『お話があります。今日の放課後カエル公園の銅像前にてお待ちしています-東雲詩音-』
あれあれ?
何だろうこの甘酸っぱい予感のするメッセージは?
いやいや、これ、罠だから。
東雲さんの筆跡とか知らないけど、これは誰かがそれっぽく作った偽手紙だから!
落ち着け……落ち着け! 僕!
真実は何時も一つ。QED照明終了。
じゃなくて、とりあえず呼吸をしよう。
ひっひっふ~、ひっひっふ~って生まないから!
一人ボケ突っ込みを終えた僕は混乱する頭をそのままに手紙を鞄にそっと戻した。