天草組長の不満気
「天草ぁぁ~~」
自分の師よりも高齢なくそ爺にお説教される。
「また勝手に戦場に出向いているんじゃねぇぞ!お前が今、鵜飼組のトップなんだぞ!?」
「……悪かったよ。ただよ、俺だって座っての雑務ばかりじゃ退屈でよ」
「王様がいつも派手なことしていると思っているのか!?ほとんど城の中で社会を護ってるんだよ!お前の代わりはもういないんだぞ!」
天草試練。
鵜飼組という、簡単に言えばヤクザの組のトップに座っている人物。まだ組を纏めるには若い年であるが、自らが備えている戦闘能力は組織内でも1・2を争うほど。
戦闘員としては非常に優秀であるが、組を纏め上げる能力があるかどうかは……微妙。元々、自分の師。鮫川隆三の戦死をきっかけになったに過ぎない。鵜飼組を創設した、鵜飼竹を召集し、顧問という形で現在の鵜飼組を成り立たせている。
「鮫川は優秀だった。奴ほどこの組を大きくした……いや、日本を操れるほど巨大かつ巨悪したのは奴のおかげだ。お前が奴になれとは言わんが、お前しか奴の代わりはいない」
鮫川の弟子がこの天草である。同時に鮫川の元護衛が天草でもある。
「分かってるよ、ちゃんとするさ。あの人の墓前に情けない報告はしたくねぇ」
鮫川が率いた鵜飼組は人材の宝箱のようなところだった。
護衛と戦争には天草、暗殺と血祭りには山寺光一、人材と経営、仕事などの情報処理の全般を伊賀吉峰という、3本柱がしっかりと支え。加えて鮫川がバランスよく整えて組織を着実に拡大させた。表の仕事も、裏の仕事でも、全てに結果を出し。敵からの勝負では負けたことはなかった。
ただ、内部の不満からの反乱を防ぐことができなかった鮫川は戦死。反乱の主犯である光一はアメリカへ逃亡。また、鮫川の死を導いた伊賀も中国マフィアへと身を投じた。全盛期ならともかく、鮫川も歳であり、体中をサイボーグ化していた。彼のカリスマはとうにないことも、護衛していた頃から知っている天草。
恩義ってのがない奴等だ。
ただ、絶対にお前等2人に遅れはとらない。すぐに並んで追い抜く。
「しかし、待機はないだろ。鮫川さんがいた頃みたいに俺と光一が戦場で暴れるような、どでかい山は来ないのか?」
「戦力を考えろ!持ち直したところで、伊賀のチャイニーズ・ワンズ、ロシアのダーリヤ、アメリカのラブ・スプリングと光一!大物相手に喧嘩ふっかけたら、消し飛ぶだろ!」
話し合いによる戦争の解決など、1割にも満たない。賭けによる勝った負けたでも決まらない。
純粋にその看板を見せられて恐怖させられるかどうか。兵器を禁じられたからといって、戦争ができないわけじゃない。包丁で人を刺せば、痛がり、死に届くように。
ハッタリがなし。脅しという最終通告。結果的に現れる、平和的な解決という名の偏り。
◇ ◇
「その拳銃で俺を撃つのか?」
とある戦場に天草は来た。とはいえ、戦場と言ってももはや無法地帯。テロリスト集団の巣窟。
こんな奴等に話し合いをしに来たわけではない天草。
「撃つ気なら今すぐ戦え、一度滅んでから国を造れ。ただの憎しみだけしか見えてねぇなら、なおさらだ」
「なんだと!?」
「お前等に勝ち目はねぇ。ラブ・スプリングが動いてないことがなによりの証拠だ」
無意味の戦争を続けることに意味はある。その破壊によって生まれる創造、再生を行なう仕事。労力。金の高騰。無論、破壊ですら社会への貢献にもなる。
ハッキリ言って、無意味な命を繋ぐことよりも儲かり、人と国は喜ぶ。生まれる喪失を埋める利益が生まれる理由。
「マシンガンを買って、無人飛行機落として、人のデータをとられていく。お前等が用済みになるのは時間の問題」
「死ねだと?」
「そー言っちゃいねぇ。降伏しろとも言ってねぇさ。社会の建前がお前等を許すわけねぇーだろ」
天草が説得を使ったのは元々、つまらない戦いが好きじゃないからだ。ほとんど終わった戦い。アメリカが動く前にこちらが先に一歩進んで、交渉をしに来た。
負けるからなんだ?
「家族を失って、仲間を失って、……いいわけがあるか!?この悲しみをぶつけて、分からせるまで戦う!」
「感情のない科学に吼えても意味はない」
とはいえ、もう遅いんだろう。こいつ等の心はもう、科学と同じで一つのことしか分からない。仕方ない。忘れて生きてたら苦労しねぇ。
気が乗らない、自分以外に向けられた憎しみを狩る手段。しょうがねぇ。こっちも、これ以上の疲弊と戦争の付き合いはごめんだ。もう再生の段階に入っている。組織をデカくする、成功するということは勝ち負けの延長戦。
上に立ってよく分かる。そして、俺は向いてない。心があるからさ。
「悪いな」
「?」
「最後くらい暴れろ。スッキリしねぇや」
ただ戦うだけの方が気持ちが楽だ。
「お前等がいなくなれば、俺達がお前等の国を悪いようには使わねぇさ」
天草が戦う時。派手という雑な戦い方をする。そのパワー任せの戦闘。銃弾では傷付かない肉体、鉄を軽く砕く殴打と蹴り。純粋に強いだけの戦い方。
武器を手に取り、振り翳すよりも残酷な人間としての差を見せられての殲滅。平和を護るための戦闘じゃない。
全ては利益を求めるための非常な戦略。本当の敵に得などさせないこと。
「だいたい壊しておいた。俺達の息の掛かった業者にここの制圧は任せよう」
『天草ーーー!また勝手に戦場に行きやがったな!?木見潮がいるだろうが!!むやみに戦場に出るなーー!』
「五月蝿い、爺。手配は順調にやってくれ」
小国ながらもまだ図りきれない資源がここに眠る。それを日本が、鵜飼組が保有するための、影の勢力争い。とても小さいことかもしれないが、その積み重ねが最終的な目標に到達することだ。
「またどこか、いつかでいい。燃える、俺の戦争が起きて欲しい」
ただ、組織の成功は天草の成功ではない。その牙をまだ磨けと、周りは言っているんだろう。いつかはくるデカイ山のための。