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今日から学校と仕事、始まります。①莞

天草組長の不満気

作者: 孤独

「天草ぁぁ~~」


自分の師よりも高齢なくそ爺にお説教される。


「また勝手に戦場に出向いているんじゃねぇぞ!お前が今、鵜飼組のトップなんだぞ!?」

「……悪かったよ。ただよ、俺だって座っての雑務ばかりじゃ退屈でよ」

「王様がいつも派手なことしていると思っているのか!?ほとんど城の中で社会を護ってるんだよ!お前の代わりはもういないんだぞ!」


天草試練あまくさしれん

鵜飼組という、簡単に言えばヤクザの組のトップに座っている人物。まだ組を纏めるには若い年であるが、自らが備えている戦闘能力は組織内でも1・2を争うほど。

戦闘員としては非常に優秀であるが、組を纏め上げる能力があるかどうかは……微妙。元々、自分の師。鮫川隆三さめがわりゅうぞうの戦死をきっかけになったに過ぎない。鵜飼組を創設した、鵜飼竹うかいたけを召集し、顧問という形で現在の鵜飼組を成り立たせている。



「鮫川は優秀だった。奴ほどこの組を大きくした……いや、日本を操れるほど巨大かつ巨悪したのは奴のおかげだ。お前が奴になれとは言わんが、お前しか奴の代わりはいない」


鮫川の弟子がこの天草である。同時に鮫川の元護衛が天草でもある。


「分かってるよ、ちゃんとするさ。あの人の墓前に情けない報告はしたくねぇ」


鮫川が率いた鵜飼組は人材の宝箱のようなところだった。

護衛と戦争には天草、暗殺と血祭りには山寺光一やまでらこういち、人材と経営、仕事などの情報処理の全般を伊賀吉峰いがよしみねという、3本柱がしっかりと支え。加えて鮫川がバランスよく整えて組織を着実に拡大させた。表の仕事も、裏の仕事でも、全てに結果を出し。敵からの勝負では負けたことはなかった。

ただ、内部の不満からの反乱を防ぐことができなかった鮫川は戦死。反乱の主犯である光一はアメリカへ逃亡。また、鮫川の死を導いた伊賀も中国マフィアへと身を投じた。全盛期ならともかく、鮫川も歳であり、体中をサイボーグ化していた。彼のカリスマはとうにないことも、護衛していた頃から知っている天草。



恩義ってのがない奴等だ。

ただ、絶対にお前等2人に遅れはとらない。すぐに並んで追い抜く。


「しかし、待機はないだろ。鮫川さんがいた頃みたいに俺と光一が戦場で暴れるような、どでかい山は来ないのか?」

「戦力を考えろ!持ち直したところで、伊賀のチャイニーズ・ワンズ、ロシアのダーリヤ、アメリカのラブ・スプリングと光一!大物相手に喧嘩ふっかけたら、消し飛ぶだろ!」



話し合いによる戦争の解決など、1割にも満たない。賭けによる勝った負けたでも決まらない。

純粋にその看板を見せられて恐怖させられるかどうか。兵器を禁じられたからといって、戦争ができないわけじゃない。包丁で人を刺せば、痛がり、死に届くように。


ハッタリがなし。脅しという最終通告。結果的に現れる、平和的な解決という名の偏り。



◇   ◇



「その拳銃で俺を撃つのか?」


とある戦場に天草は来た。とはいえ、戦場と言ってももはや無法地帯。テロリスト集団の巣窟。

こんな奴等に話し合いをしに来たわけではない天草。


「撃つ気なら今すぐ戦え、一度滅んでから国を造れ。ただの憎しみだけしか見えてねぇなら、なおさらだ」

「なんだと!?」

「お前等に勝ち目はねぇ。ラブ・スプリングが動いてないことがなによりの証拠だ」


無意味の戦争を続けることに意味はある。その破壊によって生まれる創造、再生を行なう仕事。労力。金の高騰。無論、破壊ですら社会への貢献にもなる。

ハッキリ言って、無意味な命を繋ぐことよりも儲かり、人と国は喜ぶ。生まれる喪失を埋める利益が生まれる理由。


「マシンガンを買って、無人飛行機落として、人のデータをとられていく。お前等が用済みになるのは時間の問題」

「死ねだと?」

「そー言っちゃいねぇ。降伏しろとも言ってねぇさ。社会の建前がお前等を許すわけねぇーだろ」


天草が説得を使ったのは元々、つまらない戦いが好きじゃないからだ。ほとんど終わった戦い。アメリカが動く前にこちらが先に一歩進んで、交渉をしに来た。

負けるからなんだ?


「家族を失って、仲間を失って、……いいわけがあるか!?この悲しみをぶつけて、分からせるまで戦う!」

「感情のない科学に吼えても意味はない」


とはいえ、もう遅いんだろう。こいつ等の心はもう、科学と同じで一つのことしか分からない。仕方ない。忘れて生きてたら苦労しねぇ。

気が乗らない、自分以外に向けられた憎しみを狩る手段。しょうがねぇ。こっちも、これ以上の疲弊と戦争の付き合いはごめんだ。もう再生の段階に入っている。組織をデカくする、成功するということは勝ち負けの延長戦。

上に立ってよく分かる。そして、俺は向いてない。心があるからさ。



「悪いな」

「?」

「最後くらい暴れろ。スッキリしねぇや」



ただ戦うだけの方が気持ちが楽だ。



「お前等がいなくなれば、俺達がお前等の国を悪いようには使わねぇさ」


天草が戦う時。派手という雑な戦い方をする。そのパワー任せの戦闘。銃弾では傷付かない肉体、鉄を軽く砕く殴打と蹴り。純粋に強いだけの戦い方。

武器を手に取り、振り翳すよりも残酷な人間としての差を見せられての殲滅。平和を護るための戦闘じゃない。

全ては利益を求めるための非常な戦略。本当の敵に得などさせないこと。



「だいたい壊しておいた。俺達の息の掛かった業者にここの制圧は任せよう」

『天草ーーー!また勝手に戦場に行きやがったな!?木見潮がいるだろうが!!むやみに戦場に出るなーー!』

「五月蝿い、爺。手配は順調にやってくれ」



小国ながらもまだ図りきれない資源がここに眠る。それを日本が、鵜飼組が保有するための、影の勢力争い。とても小さいことかもしれないが、その積み重ねが最終的な目標に到達することだ。



「またどこか、いつかでいい。燃える、俺の戦争が起きて欲しい」



ただ、組織の成功は天草の成功ではない。その牙をまだ磨けと、周りは言っているんだろう。いつかはくるデカイ山のための。







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