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猫のボール遊び

作者: つぐお

太宰治の「きりぎりす」にあてられてしまいました。

読点を少なめにしようと意識しましたが、読点なしであの独特のリズムを出すのは難しいですね。

 この手紙が最後です。いつものように、冷めたご飯を置いておきますね。

 あなたは変わってしまいました。仕事が大事なことぐらい、私も分かっています。けれどそんなに稼いでどうしようというのでしょうか。あなたは毎日遅くまで仕事をしていて、私たち2人の時間はめっぽう減っていきました。お金がいる、だなんてあなたは言うけれど、お金は今でも十分あるじゃない。新しいものが幸せを呼ぶとあなたは信じてやまないけれど、そんなものは不幸を呼ぶだけだわ。便利なものが家の中に増えたって、私とあなたの時間は決して増えません。

 覚えていますか、結婚したてでまだ貧乏だったころのことを。あのころは豊かな時間を過ごしていたように、今では懐かしく思います。あなたは私のために時間を作ってくださいました。仕事を早めに切り上げて、私が料理を作っているところにちょっかいをかけに来てくださいました。一緒に作ろう、と手伝ってくれましたね。毎日、仕事で疲れていたでしょうに、本当に嬉しかったです。今はもう、そんな時間はございません。今はもう、作ったご飯が冷めていくのを私が見守るだけの時間になってしまいました。私はその時間が寂しくてたまりませんでした。あなたが遅くに帰ってくると、決まってケーキを買ってきてくれましたね。そんなもので私のご機嫌を取り戻そうだなんて、浅はかな人ですね。私はもう、そのケーキの味を思い出したくありません。見たくも、ありません。

 人は変わっていくものだ、とあなたは言いますが、私はそれに耐えられるような心を持ちあわせておりませんでした。あなたも気づいていましたよね。いつも見て見ぬふりをしているの、知っていました。あなたは、あなたにとって綺麗な部分しか興味がなかったのですね。私が大切にしていた部分を、見ようとはしてくれませんでした。理解してくれませんでした。あなたが正しいことぐらい、私も分かっています。人は、良くも悪くも変わっていくものです。そうしなければ生きていけません。

 あなたをこころから尊敬しております。けれどもあなたは私のことを、見ないようになりました。あなたの目線を感じることが、日に日に減っていきました。

 あなたはつまらない人間になってしまいましたね。自分が頑張っていたら、なにをしても許されるとでも思っていたのでしょうか。傲慢になりました。あなたのそれは自信ではありません。ただ、傲慢なだけです。私の心を、猫がボールで遊ぶかのごとく扱っていました。遊びすぎて興味がなくなりましたか?遅く帰ってきているのは、新しいボールを探していたのでしょうか。分かっています。あなたがボール遊びをしようとしていたのではなく、仕事で努力されていたことはよく分かっています。私はあなたを信じています。心から、信じています。横柄になっても、あなたはそんなことをする度胸さえありません。あなたの元に転がってくるボールなんて私ぐらいでしょう。転がらなくなって安心しましたか?やっぱり、私のことを見てくれませんでしたね。

 さようなら。もう二度と会うことはないでしょう。

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