愛していいですか?
貴方の事がすきなんです。
好きで、好きで。
もう、貴方しか見えないんです。
この気持ちは貴方には秘密です。
こんな感情を持ってるなんて知ったら困るでしょう?
貴方は優しいから。
僕が悲しまないように考えるんでしょう?
分かるんです。
ずっと見てきたから。
貴方が僕を大切な弟みたいに思ってることも。
貴方の一番近くにいるあの人を好きなことも。
見てきたから。
二番目に近い場所で見てきたから。
分かるんです。
お互いに意識してることも。
お互いの言葉で喜んで。
お互いの言葉で悲しんで。
お互いの言葉で寄り添って。
気づかないとでも思ってるんですか?
二人とも顔に出るからすぐに分かりますよ。
だって。
あんなに嬉しそうに。
あんなに楽しそうに。
あんなに切なそうに。
あんなに…綺麗に。
笑うんですから。
もう、諦めるしかないじゃないですか。
僕の想いを知らない貴方。
自分に向けられる好意に全然気がついていない。
貴方を狙う人がどれ程いるのか知らないでしょう?
皆に優しい貴方。
皆に頼られる貴方。
皆に好かれる貴方。
皆に平等な貴方。
その平等がどれ程残酷なものか知っていますか?
知らない方が良いかもしれませんね。
貴方の優しさで。
貴方の強さで。
貴方の弱さで。
貴方の温かさで。
僕はもう壊れてしまっている。
始めは良かったんです。
この気持ちには気づいていなかったから。
貴方はあの人と共になるのだと思っていたから。
あの日、あの時、あの場所で。
貴方の温かさを知ってしまうまでは。
『内緒だよ?』
内緒。
ないしょ。
ナイショ。
たったこの一言で。
僕は貴方の特別になれた気がしたんです。
そんなわけないのに。
貴方にとってはなんの意味もない言葉。
それでも僕にとっては貴方の言葉が。
僕は特別なんだよと言っているような気がして。
自惚れてたんです。
僕は貴方にとって大切な存在かもしれない。
けれど。
特別な存在にはなれないのに。
分かっているのに。
分かっていたのに。
あの時は考える事が出来ませんでした。
いつもなら笑って返事が出来ていたのに。
ただ、ただ貴方を見つめるしか出来ませんでした。
貴方の笑顔を僕のものにしたい。
そう、思ってしまいました。
今まで見たことのない顔で微笑むんですから。
反則ですよ。
あんな顔して。
愛しいものを見るような。
慈しんでいるような。
初めて子供を抱く母親のような。
何もかもを包み込んでしまいそうな笑顔。
そんな笑顔。
あの時どうしたらよかったんですか?
どうしたら貴方に嵌まらないでいれたんですか?
どうしたらこんな感情を持たなくて済んだんですか?
どうしたら貴方との関係を無くせたんですか?
貴方の気持ちは迷惑だと言えば良かった?
貴方には頼んでいないと突き放せば良かった?
貴方には関係ないと言えば良かった?
何も言わずに立ち去れば良かった?
貴方の目の前から消えればよかった?
考えては消え、考えては消え。
結局、今も貴方の近くにいる。
この張り裂けそうな想いを隠して。
貴方という希望に僕は縋っているだけなんです。
絶望を見ないために。
希望と共にいることで絶望から救われたいだけなんです。
この気持ちを隠すことで近くにいられるのなら。
案外、隠し通せるかもしれません。
今までずっと隠してきましたから。
自分の気持ちに気づいた時も。
貴方を愛しく思ったときも。
貴方を抱き締めたくなったときも。
貴方があの人を想い泣いていたときも。
貴方があの人を想っていると僕に伝えたときも。
貴方が独りだったときも。
貴方が僕を大切だと言ってくれたときも。
貴方が遠くに離れてしまったときも。
貴方と再開したときも。
貴方とあの人が一緒になると知ったときも。
貴方とあの人の子供をこの手で抱いたときも。
疎いあの人が。
『あいつの事好きなんだろ?』
と、辛いような。
申し訳無いような。
怒っているような。
悲しそうな。
怯えたような。
いろんな感情が混じり合った顔をして。
真剣に聞いてきたときも。
隠してきましたから。
『大切なだけです。それだけですから。』
『安心してください。』
『そう言えば二人目が産まれるんでしょう?』
『どんな子でしょうね?』
『一人目は先輩に似てましたから。』
『今度はあの人に似るんですかね?』
『男ですか?女ですか?』
『早くこの手で抱いてみたいです。』
『一人目の時感動したんですよ?』
『こんなにも小さな命が力強く感じられて。』
『命って強いんだなって。』
『どうすれば、あんなに強くなれるかなって。』
『考えたんですから。』
『ま、結局答えは出ませんでしたけど』
笑えば『そうか。』と一言だけ帰ってきた。
疎いはずの貴方に気づかれるなんて。
僕もまだまだ子供だなと薄く笑う。
目の前を見れば昔と変わらない瞳が見える。
あぁ。
そうか。
その瞳があの人を吸い込んでしまったんですね。
力強い迷いのない瞳。
一瞬たりとも逃すまいと見つめてくるその瞳。
一度でも吸い込まれたら出てこれなくなるのだろうか?
僕はその瞳に吸い込まれる訳にはいかない。
これ以上貴方達に溺れるわけにはいかないんです。
いつもの笑みを浮かべ。
『だいじょうぶです。』
の一言。
早く踵を返して帰らなければ。
希望と共にいたい。
それは本心。
けれど。
その心は黒く濁り。
希望を絶望へと染め上げてしまうかもしれない。
そうなる前に。
いつもの日常に戻りましょう。
声をかけられた気もするけれど振り向かずに。
また、希望が待つ明日へと進んでいきましょう。
この想いを。
薄めて。
溶かして。
小さくして。
見えなくなるまで。
歩みを止めてはいけないから。
止めればそこは希望の道ではなくなる。
止まれば想いは勢いよく流れ出す。
流れ出さないように。
道のそばにある小さな川に。
少しずつ垂らして、落として。
心の中から無くなるように。
無くなるまで、我慢しますから。
だから。
だからそれまでは。
貴方を
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