第8話 もてる?もてない?
「もっと自信を持ちなさいよ。モモはステキよ。ほっそりしていて、色が白くて、真っ黒い髪も瞳も日本人形みたいだもん。そりゃあ、名前と外見が全然マッチしてないし、胸はぺったんこだし、頑固だし、逃げ足が速いし、思い込みが激しくて、おまけにおっちょこちょいだったりもするけど……」
「ねえ、全然、ほめてないんだけど」
思い切り唇をとがらせると、きれいにカールした髪を揺らした友は、つややかなピンク色の唇で微笑んだ。
「ふふっ、ちょっとしたやっかみよ。モモは自分がもてるんだってことも、全然知らないでしょう?」
「もてる? 私が?」
ありえない言葉を耳にして、相手の顔を凝視した。
奨学金のおかげで生活は楽になったし、成績も少しは持ち直したけど、もてる要素なんてどこにもない。
その証拠に、高校二年にもなって、男の子に告白された経験は皆無だ。
「嘘だと思うのなら証明しようか? モモと付き合いたいって子と会ってみる?」
「と、とんでもない!」
携帯電話を出そうとする気配を察し、両手でバッテンを作って飛びすさったモモは、「ああ、また、逃げられた」という友の声を背中で聞きながら、急いで図書館に駆け込んだ。
落ち着ける席を確保しようと、奥の隅に向って歩いていくと、書棚に背を預けるようにして正隆が本を読んでいた。
「こ、こんにちは……」
回れ右するタイミングを失ったモモは、ぎこちない笑みを唇にのぼらせた。
英文の原書と思われる分厚い書籍から顔を上げた正隆は、無言のままどこか冷ややかな眼差しを向けてきた。
急に居心地が悪くなり、そのまま前を通り過ぎようとした時、すっと腕をつかまれた。
「あの、何か……」
「あるに決まっているだろう!」
腕にかけられた指にこもる力が強くなる。
思わずあげかけた悲鳴を飲み込んだ。
強引に連れて行かれた先は、かつてモモが正隆を連行した屋上だった。
昔、ここから一人の生徒が飛び降り自殺をしたとかで、ずっと立ち入り禁止になっている。
けれども鍵はかかっていないから、途中の階段で教師に見つかりさえしなければ、いつでも足を踏み入れることができるのだ。